騎士団戦記序章【出会い】
いきなり質問して悪いが、平凡な一生と、波瀾万丈で英雄みたいな一生はどちらがいいと思う?
俺こと『新庄 守』は、絶対に平凡な一生がいい。何故なら、痛い思いはしたく無いし、ましてや死にたくないからだ。そんな一生よりは、自分が守りたい家庭を持って、平凡だが幸せに生きる方が良いに決まっている。そう思わないか?
なのに、何故、俺の前には大きさが3㍍以上ある化け物が、その大きな腕を振り上げて、俺を殺そうとしているのだろう?
そんな事を考えていると、化け物は容赦なく腕を振り下ろしてきた。
化け物「グォォォォーー」
守「うわっ!?」
俺は、化け物の攻撃を何とかかわしたが余りの威力に廃ビルの壁に叩きつけられた。化け物が、攻撃した地面は、隕石でも降ったようにクレーターになっていた。
守「(なんちゅう、威力だよ………。当たったら、トマトを握り潰したみたいになりそうだな………。)」
痛みで、立てないでいると、化け物は俺の目の前に来て再び腕を振り上げた。
守「(あぁ、俺死んだな………。だから、俺は平凡な日常がよかったのに……。)」
俺は、諦めて目をつむり、やがて来る痛みに備えた。だが、痛みはなかなか来なかった。
化け物「ぐぁぁぁーーー!?」
すると、化け物の叫び声が聞こえた。だが、最初の叫び声と違い何か苦しそうな叫び声だった。
俺は、恐る恐る目を開けてみると、そこには、片腕の無い化け物と、一人の女の子が立っていた。
英雄なんて嫌だ!?
騎士団戦記序章1【出会い】
リリリリリーン リリリリリーン リリリリリーン ガチャ
カーテンから、暖かい朝日が注ぐ中、俺は眠い目を擦りながら、至福の布団からまだ少し寒い部屋の中にでた。
守「うぁ〜あ、眠たい〜〜」
俺は、余りの眠さにまた布団に戻りそうになったが、何とか堪えて、冷たい廊下を歩き階段を降りて、一階のリビングに入った。
守「うぁ〜〜、……おはよう、紗恵」
あくびをしながら、リビングで朝食を作っている中学二年生の妹の紗恵に挨拶をした。
紗恵「おはようございます兄さん。兄さんは、また、眠そうですね……。」
紗恵は、あくびをしながらソファーに横になる俺を見て、呆れたように言ってきた。
守「う〜ん、何で眠いのかな〜?俺は、昨日、宿題のレポートを終わらせて、テレビを見て漫画を読んで、ゲームをして、5時には寝たんだけどなあ〜」
紗恵「……だからですよ………。」
俺が真剣に悩んでいると、紗恵は冷たい声で言ってきた。
俺は、ソファーで再びウトウトしてきて、二度寝に入ろうとした時に、紗恵の声が響いた。
紗恵「兄さん、朝ご飯できましたよ。」
ウトウトを一瞬で覚まされた俺は、少し嫌みを言ってみた。
守「紗恵〜、二度寝の邪魔するなよ〜。」
紗恵「じゃあ、一生寝てますか?」
紗恵は、笑顔でとんでもない事を言ってきた。紗恵の笑顔が本当に恐かったので一応謝っておいた。
守「スマン、冗談だ。」
紗恵「馬鹿な事言わないで、早く食べて下さい。私、今日は日直なので、急いでるんです。」
守「了解〜」
紗恵の今日の朝ご飯は、トーストに目玉焼き・ハムと昨日の残りのシーチキンサラダだ。まあ、簡単な朝ご飯なので、可もなく不可もない味だった。
『ごちそうさまでした。』
紗恵が急いで皿洗いを始めようとしたので俺は、椅子に座りながら言った。
守「今日は、日直なんだろう?皿洗いは俺がやるから、早くいけよ」
紗恵「そんな、悪いですよ。今日は、私が当番なんですから、私がやりますよ。」
なかなか、紗恵はいうことを聞かないので、俺は、紗恵の手を握り紗恵の目を見て言った。
守「紗恵。俺はお前が苦しむのは見たく無いんだ。だから、食器洗いは俺に任せてお前は早く学校に行けよ。それに、兄妹なんだから俺に遠慮なんかしないでくれ。」
俺が、言葉を言い終えると、紗恵は何故か真っ赤になって、小さな声で言った。
紗恵「……な、ま、また、兄さんは、…そんな事言って……。」
守「分かったか?」
紗恵「……分かりました。……ありがとうございます……。」
そう言うと紗恵は、真っ赤な顔のまま、家を出て行った。
守「そういえば、紗恵の奴顔が真っ赤だったけど大丈夫かな?」
俺は、その後、皿を洗って家をでた。
家を出ると、外は寒かった。
守「うわ!?さむっ!!」
余りの寒さに俺は、近くの自販機で温かいコーヒーを買う事にした。
守「やっぱり、寒い時は温かい缶コーヒーだよな〜♪」
俺の学校は、登下校中の買い食いは禁止だが、こんなに寒い日は仕方が無いだろう。紗恵がいたら『仕方なく無いですよ』という言葉を言われる気がするが、気にするまい。
俺は、缶コーヒーを買う為財布を開こうとすると、冷えた俺の手は言う事をきかず、盛大に小銭をばらまいてしまった。
守「マジかよ!?」
俺は、落ちた小銭を追いかけたが、小銭はコロコロと転がっていき、川の中にダイブした。
守「………嘘だろ……」
財布の中身を確認すると、827円無くなっていた。俺は、缶コーヒーを買う気力も失せトボトボと学校に歩いていった。学校に着くなり俺は、先程のショックで机(窓側の一つ横の席で前から4番目)に突っ伏せた。すると、元気な声が聞こえてきた。
明「おっっはよ〜〜う!!!」
俺に、話しかけてきたのは、幼稚園からの幼なじみの『服部 明』だった。俺は、ショックの為小さな声で答えた。
守「……おはよう…」
明「ありゃりゃ?元気無いね〜、どうしたにょ?」
ちっこい体でショートヘアーの彼女は、絶えず俺の回りを元気に動き回っていた。
守「分かった。説明してやるから俺の周りを走るな。」
明「む〜〜、仕方ないな〜」
明はそう言って自分の席(俺の前の席)に座った。
守「実は今日な、かくかくしかじかあったんだ。だから、落ち込んでたんだよ。」
俺が一通り話し終って明をみると、
明「キャハハハハ!!!お、面白い〜〜!!で、でも、我慢しないと………。プッ、ハハハハ、やっぱり、む、無理!!わ、笑い過ぎて、し、死ぬ〜〜」
明は、腹を抱えて大爆笑していた。大爆笑にムカついたので、俺は、明の頬っぺたをつかんで、グルグルしてやった。
明「にゃ〜〜、みょうはゃりゃひみゃしぇん、ひゃきゃりゃひゅりゅひへ〜(ぎゃ〜〜、もう笑いません、だから許して〜)」
何を言っているかさっぱり分からないが、反省してるぽいので明を解放してやった。
明「む〜〜、何するのさ〜〜。守の意地悪〜〜」
守「お前が、大爆笑するからだろうが!!」
明「ちょっと笑っただけだもん」
そう言って、明は頬っぺたを膨らませて、はぶててしまった。
守「(こいつ、本当に子供みたいな、はぶてかたするな。なんか、リスみたいだ〜。)」
俺は、明が一向に機嫌を直しそうにないので、謝ってやった。
守「わかったよ。俺が悪かった。だから機嫌直せよ。」
明「ふんだ!!許して、あげないもんね〜」
明が、なかなか機嫌を直さないので、仕方なく俺は、明のご機嫌を取ることにした。
確か、本には『女の子のご機嫌を取るには、褒めるのがいいです。また、頬を優しく撫でながら言うといいでしょう。』と書いてあったので、俺は試してみた。
守「明。機嫌を直してくれないか?俺は、お前の、可愛い笑顔がみたいんだ。だから、許してくれよ俺の王女様」
と、明の頬を優しく撫でながら言うと、明は、真っ赤になりながら
明「!!!?にゃ、にゃ、にゃにするんだ〜〜!!」
何故か、怒ってしまった。
守「ゴメン、明。……嫌だったか?」
俺が、謝ると、明はモジモジしながら顔を真っ赤にしていった。
明「!?……い、いやじゃないけど………」
怒ったのかと思ったが、どうやら明のご機嫌は取れたらしい。
やっぱり俺には、女の子はよく分からない。
その後しばらく明と話しをしてると、
栄作「よ!!おはよう、二人共!!」
俺の、親友の『永島 栄作』が話しかけてきた。
守「おはよう!!」
明「おはようっす、えいっち!!」
栄作は、自分の席(俺の左横)に座りながら話してきた。
栄作「なぁ、友達から聞いたが、今日、紗恵ちゃん顔を真っ赤にして登校してたらしいぞ。守、お前また何かしたのか?」
守「はぁ?俺がか?何もしてねぇよ!!」
明「えいっち、守に聞いてもダメだよ〜。守は無意識に女の子を口説くんだよ!!」
栄作「あ〜、自覚症状無しか〜。」
守「おい、こら!?俺が、何時、女の子を口説いたよ?」
明「え〜、何時って、毎日だよ?」
栄作「毎日だな。」
守「な!?」
どうやら、俺はいつの間にか女の子を口説いてるらしい、俺はこの時、次からは気をつけようと心に誓った。
明「そういえば、今日転校生が来るんだよ〜」
栄作「マジか!?」
守「へ〜、そうなんだ〜」
栄作「男か、女の子なのか?」
栄作は興味津々で明に聞いていた。
明「何と、女の子なのです!!」
守「で、どんな子なんだ?」
明「お!?守も興味津々かい?」
守「別に興味はねえよ。どうせ今日見るんだし。」
栄作「俺は、興味があるんだ、教えてくれよ明ちゃん!!」
明「ふっふっふ、仕方が無いですね〜!!この、明様が教えてしんぜよう!!!」
明は、いかにも嬉しそうに自分の集めた情報を語りだした。
明「まず転校生の名前は『雨笠 水希』、雨笠財閥のお嬢様だよ〜。文武両道、才色兼備の完璧超人だね。性格は、おとなしくて、社交的だよ〜。特技は、水泳だって。」
守「相変わらず、明の情報網は凄いな!?」
明「ふっふっふ、私の情報網をナメちゃいけませんよ。まだまだ、情報があるんだよ〜!!」
栄作「流石、明様!!教えてください。」
明が話そうとしたちょうどその時、
キーンコーンカーンコーンキーンコーンカーンコーン
チャイムが鳴り先生が入ってきた。
先生「お〜い、お前達席に着け。」
先生の声にクラス全員が席に着いた。
先生「今日は、転校生がいる。入って来なさい。」
すると、ドアが開き、そこから髪の長い美人の女の子が入ってきて、黒板に綺麗な字で名前を書き始めた。
守「(うわ〜、予想以上に美人だな〜)」
水希「今日、転校してきました、『雨笠 水希』です。これから、よろしくお願いします。」
雨笠は、優しい笑顔を振り撒きながら丁寧にお辞儀をした。
先生「雨笠、お前は窓側の4番目の席が空いてるから、そこに座れ。」
雨笠は先生の指示にしたがい、窓側の4番目つまり俺の横の席に座った。
水希「よろしくね」
守「あぁ、よろしく」
雨笠が、小声で挨拶してきたので俺も挨拶をした。
これが、俺と雨笠の出会いで。異常な日常の始まりだった。
序章1(前編)END