道端職業病
初めてその声を聞いたときは、何とも言えなかった。いつもならすぐに声をかけていただろうに。
それほど私は驚いていた。もう、なにがなんでも手に入れたいと、心の底から願った。それと同時に、壊してやりたいとも思った。---今にも叫びだしそうなその声を。
「…あの」
いきなり声をかけたことに関して申し訳ないとは思うけど、何もそこまで驚かなくても、と苦笑しつつ目の前にいる彼を眺めていた。
外見は、地味。というより、顔は長く重たい前髪であまり見えないし、こちらにふり返ったと思えば、すぐに俯いてしまった。目立ちたくないんだろうな、というのが見た感じの印象だった。
「いきなりで申し訳ないんですが、ここから駅までの道のりを教えていただけませんか」
なぜ私が知りもしない地味な学生に声をかけているかというと。
そう、いい年して迷子になったのだ。恥ずかしいことは百も承知で、出来るだけ気弱そうな学生を探して声をかけ、道を尋ねている私はなんと間抜けだろう。
「…駅、ですか?」
ようやく声を出した彼に私は、何も言えなくなった。いや、正しくは反応が出来なかった。思わずその華奢な腕に縋りついてしまいそうになる衝動と、そうはさせないという理性とが戦い、理性が勝ったといったところだった。
「あの…?」
不思議そうに眺めている彼にようやく我に返った。
「そ、う。駅に行きたいのだけど、迷ってしまって」
そう言いつつも、次に発せられる彼の声が待ち遠しくて、胸が痛い。
「ここからだと少し遠いですよ。僕、途中までしか案内できないんですけど…」
…なんだろう。
彼の声は、私の本能をくすぐる。
いや、これが本能なのかもわからない。
「いきなりついでに、申し訳ないんだけど。キミ、なにか音楽に携わってる? 部活とか、習い事とか。興味がある程度でも構わないんだけど、あったりする?」
「はぁ。興味というか、まぁ、多少」
曖昧な表情にマッチした彼の声は、体のどこにでも響いていく。それと同時にその美しすぎる声を壊してしまいたい衝動に駆られる。…これは私の悪い癖、だ。
「実は、私芸能事務所の斡旋とかやってまして、もしよかったら話聞くだけでもいいから聞いてくれないかな? 駅の途中まででいいから付き合ってもらえない? もちろん、断ってくれても構わない」
そう言いつつ、手放す気なんてさらさらなかった。
「…お姉さん名前は?」
「あ、申し遅れました。わたくし、古谷 月と申します」
そう言って、すばやく私の名刺を彼に渡した。
「ふるや、つきさん? 素敵な名前ですね。僕は、カミヤマ シュンです」
「どういう漢字なの?」
彼が発した名前は、しっくりきすぎていて、もし私の誘いに乗ってくれるのなら名前はそのままだななど、考えていた。
「神様の神に山、シュンは瞬きです」
―――決まりだ。
「かっこいい名前。キミにピッタリだね」
「完璧に名前負けですよ」
そう言うと私の携帯が鳴った。この着信音は、社長だ。
「ちょっとごめんなさい」
彼に詫びてから、携帯を耳に押し当てた。
「月ー? あんた今どこ? また迷ってんでしょ?」
もしもし、と言う前に社長は話しだした。
「今ですか? ちょっと待ってください」
受話器から口を離し、神山君に向き直った。
「ここって今どこなのかな?」
「駅の南にある本屋の近くと言えば伝わると思います」
そう言われ、社長にそのまま伝えた。
「まだそこ? そこからだとまだちょっと距離あるなー。迎えに行こうか?」
「いえ、大丈夫です」
「早く来てよー。退屈で死んじゃう」
“退屈で死ぬ”
これは社長の口癖だ。もし退屈死が存在しているのであれば、日本はとっくの昔に壊滅している。いや、世界も壊滅していることだろう。
「急いで向かいます」
「ダッシュね」
そう言うとブツッと一方的に電話は途切れた。
「神山君。申し訳ないけど、とりあえず駅に向かってもいいかな?」
さっきから随分自分勝手だなと、思わず苦笑してしまうが、神山君は気にする様子もなく「はい」とその甘くて何とも言えない声で答えるだけだった。
「神山君は家が近いの?」
個人的にはいきなり本題の仕事の話に入りたかったが、何せ、私の失態で駅の近くまで行かせてしまう。家が遠ければ申し訳なさすぎる。
「はい。駅の近くです」
「今、帰宅途中なの?」
「はい」
そう聞いてひとまず安心だ。
「古谷さんは、芸能人なんですよね?」
「え?」
「違うんですか?」
「ないない。私は、マネージメントやタレント発掘とか、裏方だよ?」
まさか、そんなこときかれるとは思わなかった。
はっきり言って、顔も別にきれいではないし、オーラがあるわけでもない。タレント業なんてできる性質ではないのは自分が一番わかっている。
「意外です。あ、僕もその裏方のお誘いなんですか?」
「まさか。キミ、スカウトされたことない?」
そう聞くと、口元がいやらしく上がった。
うっとうしい前髪でなかなか表情は見れないが、前髪なんかでは隠しきれないオーラが、ときどき彼を覆っている。
「ないですよ。…顔、見えませんし」
前髪を触りながらそう言うとまた、少し笑った。
「それ、わざとなの?」
前髪を指さしながら聞くと、曖昧な返事が返ってきた。その曖昧な表情と声が私の体の機能をどこか、おかしくする。なにが、どう、おかしくなっているか自分でも理解できない。胸が苦しい、という表現ではどこか足りないし、息苦しさは通り越している。感電などしたことないが、もしかしたらそういった感覚かもしれない。
自分の体に起こっている感覚をうまく表現することができないことに戸惑いながら、悶々と考えていると神山君が、小さく喉を鳴らしたので、そちらを見てみると前髪の向こうで目が合った気がした。
「古谷さんが僕のマネージャーやってくれるなら、なんでもしますよ?」
それからすぐに発せられた甘い誘惑に、悪魔の囁きに似た感覚が一瞬した。
はたして、これは甘い誘惑なのだろうか。
「ほ、んとに?! でも神山君未成年だよね? 親御さんとよく考えてから決断してくれてもかまわないいから、ゆっくり考えてみて?」
「親は反対しないと思いますよ。なんなら古谷さんから話してみてください」
「ええ、後日伺うわ」
願ってもない申し出に心が躍る。まるで片思いだった相手に思いが通じたかのような感覚だ。
「後日っつーか。どうせ行き先同じだし、今から言えばいいですよ」
「え?」
「今から御崎邸に行くんでしょ?」
「な、なんで社長の名前…。え? どういうこと??」
「まー、まー。はい、着きましたよ」
目の前にあるマンションを見上げた。
ちょっと、どういうこと?
混乱が収まりきらないうちにまた携帯が鳴った。
「月ー、まだ? もう着いてもいい頃だと思うんだけど。ダッシュしてないの?」
「社長。多分、着きました。あの社長って…」
といった瞬間、ブツっとまた切れてしまった。
まだ話の途中だったのに。
「古谷さん、とりあえず入ってください」
神山君は、口角を少し上げ、オートロックのところで操作していた。
わけもわからず、開いたドアに体をくぐらせようとした瞬間、横から強い衝撃を感じた。
「月、遅かったじゃない。退屈で死ぬとこだったー」
「しゃ、社長! いきなりタックルしないでください。心臓が止まります」
「止まるわけないってー。ところで、どうやってドア開けたの?」
「どうって…。神山君が」
「あれ? 瞬じゃん。なんで居んの?」
さも、今気がついた、というように、社長は私に抱きつきながら神山君を一瞥した。
「お知り合いですか?」
社長の腕を丁寧にはがしながら、聞くとあっさり離れてから「知り合いも何も、息子だよ?」と答えた。
「ええ? 社長にこんなに大きなお子さんがいらしたんですか?」
社長はバリバリのキャリアウーマンで、実年齢こそ知らないが、見た目は私と変わらない年齢でも十分いけると思う。
「まーね。それにしても、なんで月と瞬が一緒なわけ?」
「古谷さんが道に迷ってたから」
そこでようやく、神山君が声を発した。相変わらず耳に残る声だ。
「瞬が声かけたんでしょ? やーね、この子は」
「いえ! 私が声かけたんです。ここまで案内してもらって…って、神山君の親が社長ってことですよね?!」
「いきなりなに?」
「そうとも知らず、私…。神山君も言ってくれればよかったのに」
「何の話?」
話についてこれない社長は少しムッとしていた。あわててことの成行きを説明し始める。
「その、道に迷ってしまって、神山君に声をかけたんですが、スカウトの話も持ち込んでしまって。社長の息子さんだなんて思いもしなかったですし…」
社長は美人な顔立ちだし、きっとこの神山君もきれいな顔をしているのだろう。前髪もそういったわけで隠していたのかもしれない。それなのに、私はしつこく誘ったりして。
「ごめんなさい、私がしつこく誘ったから断るのが面倒だったんだよね?」
右隣にいる神山君に向き直って言うと、神山君が話しだす前に社長が声を上げた。
「なに、なんて答えたの?」
その声は、うきうきと弾んだ声だった。
「古谷さんがマネージャーやってくれるならなんでもするけど、って答えたんだよ」
「月が瞬のマネージャー? やだ、そんなの」
「社長?」
「月を誰かのマネージャーにしたら私と遊んでくれなくなるもん。瞬のわがまま聞かない」
「お前ねぇ、古谷さんを縛りつけんなよ。職権乱用って言うんだよ。どうせそんな理由で裏方させてんだろ」
「あら、やだ。これだから男は嫌なのよ。月、部屋行こう。瞬って独占欲強いし、退屈で死んじゃう。月、今日泊っていくよね?」
「あ、あの、社長。神山君を芸能界に入れる気はないんですか?」
「だって瞬やる気ないし、つまんない」
「そう、なんですか」
肩を落とさずにはいられず、大げさに落とすと社長はくすっと笑った。
「残念?」
「はい。神山君の声、すごくいいですし」
「月のセンスは抜群だし、きっと売れるんだろうけど。逆に売れるかどうかっていうハラハラドキドキ感がなくて、なーんかやる気でないんだよね」
「社長ー」
もったいない!
思わず社長に縋りつこうとしたが、右腕をつかまれた。驚いて振り返ると近距離に神山君がいた。
「古谷さん」
その甘い声で囁かないでいただきたい。
「は、はい!」
声が裏返った。
「僕の声、好きなの?」
確信犯だ。
きっと面白がられてるんだろうな、と思いつつ素直に答えた。
「うん、すごく好き」
神山君は私が素直に答えると思ってもいなかったのか、なぜか固まってしまった。
「神山君?」
そう声をかけると、左隣の社長がおもいきり声をあげて笑った。
「社長?」
「おもしろい!」
社長はそれだけ言うと、私の腕をつかみ、神山君から解放するように引っ張り「さ、部屋に行こう」と言って、進みだした。
一体、どうなっているんだ?
社長に引きずられながら連れて行かれた部屋は、いつ来ても豪華で思わず感嘆の声をあげるほどだった。
「何回も来てるんだからその情けない声出すのいい加減やめてくれない?」
くすくす笑いながら社長が言った。
「すみません。…あの、神山君はここに暮らしていないんですか?」
何度も招待されたが、神山君の姿を一度も見たことがなかった。
「瞬は旦那のほうに住んでんの。だから名前も神山ってほう名乗らしてるし。って一応私も神山の性なんだけど、仕事上どうしても、ね」
社長の旦那様も同じ業界人らしく、同じ名前を名乗るのは社長曰く恥ずかしいらしい。
「旦那様の家は近いんですか?」
「隣よ」
…なるほど。
こんな豪華な部屋を二部屋無駄に借りているということか。
「贅沢です!」
「三人で暮らすには少し狭いじゃない? それに仕事関連の書類とかあるし。そんなことより、なにか食べない?」
「あ、なにかつくりますね」
私がこの部屋に呼び出される一番の理由はこれだと思う。
「そうこなくっちゃ! 食材は買ってあるから何か適当に作って。月の料理って美味しくてほんと病みつきになっちゃう。ねぇ、やっぱり私の秘書にならない?」
「もう、社長ったら。ご飯くらいいつでも作りに来ますから。私では到底力不足です」
「また、月は謙遜して。ま、作りに来てくれるなら何でもいいけど」
「神山君はなにか好き嫌いありますか?」
「いえ、ないですけど、僕の分も作ってくれるんですか?」
「お口に合うかはわかりませんけど、よかったら」
「是非」
「じゃぁ、瞬なんか適当に着替えてきなよ。信仁もいたら呼んできて」
「わかった」
そう言うと神山君はリビングを後にした。
「さて。邪魔者はいなくなったことだし」
「社長?」
「あの子、どう思う?」
いきなり仕事モードに切り替わり、私もすかさずスイッチを切り替えた。
「神山君ですか? 絶対売れると思います。むしろ今まで温めていたことが歯痒いくらいです」
率直に意見を言うと社長は、口元をゆるめて笑みを作った。その笑みはとてもすがすがしく、つられて私も笑顔になった。
「歯痒い、か。親の贔屓目抜きにどうしても見れなくてさ。でも月が言うくらいなら」
「あの声はずるいですね。社長も隠しておくなんて、罪ですね」
肩をすくめながら大げさに言うと社長は声をあげて笑った。
「この子ったら! ほんとに。…ありがとう。でもデビューさせるには月がマネージャーにならないとだめだなんて、ほんとわがまま。…やっぱりいやだわ」
「社長!」
「嘘よ。さ、準備しちゃお。もうおなか減ったし、退屈で死にそうだわ」
出た。
社長の口癖。
「はいはい。急いで作らせていただきます」
それから15分くらいすると私服に着替えた神山君が帰ってきた。
「信仁は?」
「もうちょっとしたら来るって。その前にちょっと部屋に来てほしいって言ってた」
「わかった。月、ちょっと隣に行ってくるから。瞬、月に変なことしたらぶっとばすわよ」
「わかったから早く行けよ」
「はいはい」
そう言うとすぐに社長は出て行かれた。
「あ、もう行っちゃったの?」
「はい。当分帰ってこないと思いますから先に食べましょう」
「当分帰ってこないの?」
「…ええ。いつものことですから気にしないでください。…さ、古谷さん」
そう言った神山君の声はやっぱり、破壊的な声だ。
叫びだしそうな衝動を押し殺しているような、何とも言えない声。
「古谷さん? …そんなにいい声?」
思わず目をつむって聞き入ってしまった私にあきれながら神山君が言った。
「言われたことないの? 学校とかで」
「無いですよ。こんな容姿じゃ誰も近づこうとしないし」
「そう言えば、神山君って何歳なの?」
「18です。高校三年」
高校生は、声よりも容姿を重視するものだったな、と思わず苦笑を浮かべてしまった。
「それは残念。キミの声で落ちない女の子はいないと思うけど」
声だけじゃないと思うけど、という一言は呑み込んでおいた。
「…古谷さんも?」
甘いその声に思わず縋りつきそうになった。
…反則だ。
「おい、瞬。こんなとこで堂々と口説くなよ」
神山君に似た声が、タイミング良く入ってきた。見れば、180㎝以上のすらっとしたかっこいい男性だった。
「別に、口説いてない」
「どうせよからぬこと考えたくせに。私の月になんかしたらぶっとばすわよ」
その背の高い男性の後ろからひょっこり現れたのは先ほど姿を消した社長だった。
「古谷 月さんだよね? はじめまして。神山 信仁です。いつも家内がお世話になっています」
そう言ったこの人の声も何とも言えない声の持ち主だ。鍛えられている声質。きっと何かなさっているんだろうな、と考えていると、何も反応していない自分に気づき、慌てて声を絞り出した。
「はじめまして。古谷です。こちらこそ社長にはいつもよくしてもらって」
「そんなこといいから。月ー、早く食べよ」
「あ、はい」
簡単に作った料理をテーブルに並べ、みんなで食卓を囲った。
「そういえば、古谷さんはうちの瞬をスカウトしたんだって?」
「…すみません」
「いやいや、怒ってるんじゃなくて、少しびっくりして」
「びっくり、ですか?」
「そう。だって、コイツってば、こんなナリでしょ? やっぼたい前髪切れって言うんですけど」
「俺の勝手だろ」
「こんな生意気だし。だからこんな奴にスカウトするなんて、ちょっとびっくりっていうか」
「でも、すごくいい声してますし」
「声、ね」
そういうと旦那様は優しく微笑んだ。
「でも、やっぱダメ。月がマネージャーとか退屈で死んじゃう」
「退屈で死んだ奴なんて居ないって」
「瞬だって今まで退屈で死んでたくせに。生意気」
「うっせ。…古谷さん、マネージャー、イヤ?」
ずるいと思った。
わざと甘い声で言ってるのは頭では理解しているが、すぐに「いやなわけない」といってしまいそうになった自分に思わず笑った。
「瞬ってホント性格悪いよね。誰に似たのかしら?」
「ほんと。僕たちの遺伝子からだと性格悪くならないはずなんだけどなー」
社長夫妻はやれやれ、と大げさに肩をすくめたがそんな姿に気にも留めず、神山君は畳みかけてきた。
「…僕、古谷さんのためならなんだってしますけど?」
出会ったときに言った言葉に、私は曖昧な表情を浮かべるほかなかった。
「…古谷さん」
永遠に続きそうなこの生殺しに耐えれることなど、凡人の私にできるはずもなく。
「も、う! やめてください! 社長もどうにかしてくださいよ」
「いやー、我が息子ながら感嘆するわー。でもほんとどうしよっかな?」
「こっちで引き取ろうか?」
「信仁のほうで? でもそうなったら月もそっちに行っちゃうんでしょ? やだー」
「じゃあ、弥生があきらめるしかないなあ」
「えー?! 月、どう思う?!」
「えっと、神山君のデビューについてですか?」
「デビューもそうだけど、この二人についてよ。これだから男っていやだと思わない?」
「…社長のおっしゃってる意味が…」
「古谷さん、あいつの言ってる意味なんか気にしてたら、それこそ“死んじゃう”ですよ」
「瞬、母親に向かってそれはないだろ?」
そう言った旦那様も笑いをかみしめているようだった。
「ほんと、考えらんない。やっぱ月が瞬のマネージャーなんて生意気。あ、いいこと思いついた」
「なんですか、社長」
「瞬が売れたら、マネージャー、月にしてもいいよ」
「売れたら、ですか? それだとかえって私は力不足ではないですか」
仕事を見つけてくる初期段階も大変な仕事には変わりないが、忙しくなってからの若いタレントに今後の方向性など考えて仕事を選んでいくという仕事は、月にとって苦手分野でもあり、未知の世界でもある。
「いい機会じゃない? 月って売れてからのタレント扱う機会あまりないし。って言うか、マネージャ―事態あんまりやらないもんね?」
「やらない、じゃなくてやらせてないだけだろ」
「瞬うるさいなー。でもこれでやる気でたでしょ?」
「やる気、ねー」
そう言って神山君は前髪をかき分けた。
―――反則だ。
社長と旦那様の整った顔を見て、大方見当は付いていたがここまで、整って顔の持ち主とは。はっきりいってこれで売れないわけがない。
「しゃ、社長! ちょっと待ってください」
「なに、いきなり大きな声出して」
社長は前に置かれたサラダにお箸を向けた所だった。
「神山君、反則ですよ! 私には何もかも力不足というか、恐れ多いというか。とにかく、私では…!」
「どういうこと?」
私の切羽詰まった訴えなど興味がないのか、社長はサラダに夢中で、私の話に本腰を入れてくれない。それでも負けじと、口を開けた。
「神山君は、絶対売れます。それも社の1,2を争う看板になると思います」
「まー、私たちの子だし、そうかもね」
「売れるまでならともかく、売れてからなんてやっぱり私には荷が重すぎます」
そう言うとやっとお箸をテーブルに置き、私に視線を向けた。
「おもしろそうじゃない?」
ほんとに、嫌な人だ。
「じゃ、決まりでいいよね? そうと決まれば僕のマネージャーになるわけだし、アドレス教えてもらってもいいですか?」
「あ、はい」
納得はしていなかったが、面白いと社長が発したことに関してどんな事態になろうが社長があきらめないことを知っているため、もうなにも言えなかった。
「弥生、見てよ。瞬さっそくアドレスだって」
「余裕ない男は嫌われるよ」
「外野うるさい」
この親にしてこの子あり、だなと痛感した。
私がマネージャーに就任すると本格的に決まったのは神山君がデビューして半年も経たずに決まった。
めちゃくちゃ甘くしたかったんですけど、連載にする気力ありませんでした(笑)ぐちゃっとなってしまい、申し訳ないです。
ここまで読んでくださり、ありがとうございました!
表現が適切でない所があり、訂正しました。
これで大丈夫でしょうか…?不愉快にさせてしまって申し訳ないです。また、なにかおかしい所がございましたら、気兼ねなく、ご報告おねがいします!
伊咲。