3件目 宅配業とは何でも引き受けられるワケではない
ナナシの同業者が登場・・・!?この世界の「宅配業」を営む上で取り扱えないモノについて少し知ることができます。
エアロでのドライブってのは案外悪くない。
淹れたての燃料でスピードも出るし、アクセルもブレーキもすごくスムーズだ。
こう余裕があると、合間に少し息抜きしたくなるものだ。
——クレストまでの道中で大体立ち寄るカフェがあるんだが・・・
なんせ空の上から一軒のカフェを探すのはそんなに簡単ではない。視野は広い方だが、下を向いてカフェを探しながら安全運転をするというのも難しいものだ。
宅配業とは何でも引き受けられるワケではない
赤い屋根のカフェだったことは記憶しているんだが、できれば日が暮れるまでには目的地に到着していたい。依頼を早く終わらせると言う目的もあるけれど、クレストはとにかく一日中賑わっている。用事を終わらせて一杯やりたいところだ。
もちろん酒を仰いだ後は運転なんて出来ないので、安宿を取ってそこで休む。まあ、今どきの言い方をすると、ワーケーションみたいなものだ。
「ねえ〜!お兄さん〜!」
その時、後ろから声がした。こう言う時の声掛けはあまりロクなもんじゃない。獣人だから聴力にも長けているが、風切り音で聞こえないふりをする。
「ねえってばー!聞こえてるでしょ!」
すると、声の主はぐんぐんスピードを上げて近くに寄ってくる。そうして俺のエアロと遂に並走した。
鳥人の若い女性だ。種別は…恐らく鳩だろうか?
「・・・こっちは急いでいるもんで」
「まあそう言わずに!そのカッコからすると、あなたお届け屋さんでしょ!あたしのも一件頼まれてよ」
ふむ。仕事の案件となれば話は別だ——もちろん納期と配送先によるけれど。俺はその女性の方を一瞬向いて、視線をまた元に戻した。安全運転第一だ。
「何を、どこに、いつまで?」
「あはは!何それー!ロボットじゃないんだからさ!」
「今日中にクレストに届けなきゃ行けない荷物があってね」
クレストという言葉を聞くと、その女性は目を輝かせた。
「いいじゃん〜!タイミングバッチリ!あたしってばツイてる!」
「・・・どういう意味だ?」
「これこれ!この手紙を町外れの鳩のブラウって男に届けてよ」
手渡されたのは一通の郵便物。
「悪いが・・・手紙は郵便屋の専売特許だから、俺は届けられないんだ」
「ええっ!そうだっけ?」
「それに、あんたの飛行能力ならクレストくらいあっという間だろ」
「いや〜〜そうなんだけどね〜〜」
まあ話を聞いてよとその女性は言う。長い身の上話を聞く気にはなれないが、何か理由がありそうだ。
「あっ!そういや名乗ってなかったよね。あたしはマーリン」
「——俺はナナシ」
「ナナシ?変わった名前だねえ。よろしくね。そんでまあ、本題なんだけど、見てよこれ」
マーリンの足に巻かれているのは、丸い筒形の封書だ。
「——ああ、あんた同業者か」
「そそ、伝書鳩ね」
伝書鳩は主に遠方の地域の人々への電報や速達を届けることを生業としている。郵便物は基本的に郵便屋の専売特許だが、鳩はとにかくスタミナがあり、郵便屋の大組織と違って小回りが利くので、このような速達便に限り業務委託を請け負っているのだ。
「いつも思っていたんだが、何で郵便物を足に巻いてるんだ?」
「これが一番スピードが出るのよ。手だと取り落としたりするリスクがあるからね」
そう世間話をしながら、マーリンは続けた。
「それでさ、あたしが依頼を受けているのは逆方向のリナレスでさ・・・これからひとっ飛びしなきゃなのよ」
「じゃあその後に届ければいいんじゃねえの?」
「甘い!恋のお便りってのはねえ・・・鮮度が大事なの!」
ここで手紙の中身を知ることになるとは思わなかった。恋のお便りってことは、ラブレターのことか。
「なおさら引き受けられねえよ・・・俺はクピドでもねえし・・・」
「そこを何とか!運命だと思って!」
「ええ〜〜〜〜〜・・・」
厄介ごとはごめんだ。
恋の相談事ってのは普通はクピドに依頼して成功率を高めてもらうのがセオリーだが、クピドはそもそも希少種で引っ張りだこな上、屋台骨が恋愛感情と言う水物なので料金も非常に高い。
まあ・・・若い伝書鳩にそんだけの財力はないよなと思って、俺はため息を吐いて少しだけ考えた後、一つの解決策を提案した。
「あんた、その手紙の封は切れるかい?」
「えっ!なに、ナナシ!あんた人のラブレターに興味あるの?」
下世話だねえ、とマーリンが苦笑いするのに対して首を横に振る。
「ちげえよ・・・なんか小さいプレゼントを買って、贈り物と一緒に同梱すんだよ」
「・・・封を開けて?」
「そーだよ。ラブレターは信書だからな・・・蓋を閉じずにそのまま誰でも読めるようにしておけば、添え状扱いになんだろ」
「ふーーーーん・・・?」
この伝書鳩は今ひとつ内容が分かっていないようだったので、もう一つ例題を出してやった。
「だから・・・通販で何か買った時の請求書とかさ、あれ封筒に入ってるけど糊付けはされてないだろ?あんな感じだよ」
「ああ〜〜〜!あれってそう言う意味があったんだ!ただ封筒に何となく入れてるだけかと思った」
マーリンは納得したようで、なるほどと言って封筒をビリビリとその場で破った。想いをしたためた恋文じゃないのかと思ったが、同時に勢いだけはいい女だなとも思った。
「・・・そんで?肝心のプレゼント?あたし、そんなの持ってないんだけど」
それもまたもっともな話だ。マーリンはこれから長距離のリナレスまで仕事で向かうわけで、贈り物に最適な小物なんて持ち合わせているわけはない。俺はそこで、今日の話の核心を突くことにした。元々——当初の目的だ。
「・・・あんた、この近くにある赤い屋根のカフェの場所知ってるか?」
「赤い屋根・・・?・・・あっ、それって、もしかして——」
「・・・そそ。あそこで焼き菓子ギフトを買ってさ、一緒に送ったらいいんじゃねえの。そのラブレターの中身を添えてさ」
俺がそう提案すると、マーリンは目を輝かせた。
「それいいね!乗った!あのカフェでしょ?」
「そーだよ。そのカフェで合ってる」
あの、だとかその、だとか、やたら指示語が多くてカフェの名前が一向に出てこないのがお互いにちょっと笑えて来る。そしてお互いに指を揃えて息を吸い込んで、いっせーのーせ、で名前を出した。
「「カフェ・マグノリア!」」
ということで、道案内は、マーリンが担当してくれることになり、彼女のプレゼント探しと俺のコーヒーブレイクを兼ねて、赤い屋根のカフェ・マグノリアに向かうこととなった。
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