2件目 鉱石代が安く済んだので良しとする
今回の依頼人は、ファンキーで調子のいい商売人のおじいさんです。このお話の主人公、ナナシが持っている能力の一部が公開されるよ!
「うーん・・・そろそろ燃料が切れるな・・・」
宅配業と言っても、取り扱っているサービスやその形態は様々である。
例えば、スピードを何より優先するタイプと、重量やサイズを考えると割安なタイプ、郵便物のような小型包装物を得意とするタイプなど様々だ。
もちろん俺が話しているのは、あくまで中小規模や個人事業―いわゆるフリーランスのグループに関してだ。大手の運送会社は割と手広くやっているので、このルールには縛られない。マンパワーと資金力はどんな世界でもモノを言うのである。
それでも、どの運送業を営んでいる者にも等しく共通する相棒がいる。それは——乗り物だ。
鉱石代が安く済んだので良しとする
俺の相棒は長年使っているエアロという乗り物だ(正式にはエアロラッドレス7207という機種だ)。うまく形容しがたいが、タイヤなしの大きなバイクのようなイメージで、後ろが少し広くなっており、人や荷物を載せて走らせることができる。そして名前の通り、地面を走らずに空を掛ける。この世界じゃそんなに珍しい乗り物じゃないが、動力に金がかかるため、ビジネスをやっているヤツか、金持ちしか持っていない。
じゃあ、これの動力は俺の魔力かって?
いやいや、そんなわけない。魔法使いでもない俺が、こんだけの鉄の塊を飛ばして長距離移動をするなんて到底無理だ。ちょいと浮かせて隣町に行く前に魔力の底がついてしまう。
つまり、エアロの燃料は特殊な鉱石なわけだが、値段もそれなりに高価だ。一度鉱石を交換するとそれなりに長持ちはするが、ポンポンと買うことはできない。要するに、使うたびに経費が掛かるってことだ。
遠出するには燃料が必要なのは当たり前だから、遠方の依頼を引き受ける際はもちろん送料も嵩む。そういうわけで、送り主は通常、送料を天秤にかけて依頼するかどうか決めるわけだが——
「・・・・・・クレストまで。期日は明日の夕方までで頼む」
そら来た。
エアロの燃料である鉱石を売っているヘルムのじいさんは、俺が鉱石を交換しに来る度に、毎回この調子で無茶ぶりしてくる。ちなみにクレストってのはこの近辺でとても大きな商業都市だが、エアロをフルスピードで飛ばしても丸半日はかかる距離だ。つまりたったこれ一件で一日分の労働というわけだ。
俺はクレストという街自体は嫌いじゃない。むしろ好きだ。まず規模がでかいし、活気づいている。クレストでしか手に入らない珍しい品物は確かにあるし、一仕事した後の飯も酒も旨い。だからクレスト宛ての依頼が何件が重なれば、タナボタ配送で、仕事上りについでに自分のための買い物の一つでもする気になるってもんだけど・・・
「——おい、じいさん。そりゃあいくらなんでも割りに合わないって」
明日の夕方までだと、もうクレスト宛ての他の荷物を待っている余裕がない。つまりこれ一件のためにエアロを飛ばせということだ。
「・・・頼む、ナナシ。お前にしか頼めない」
「そりゃあ、じいさんにとって俺は一番都合がいいからな・・・」
「この通りだ・・・一生のお願いだ」
「じいさんの一生のお願い、もう既に五回ぐらい聞いてやってる」
「・・・頼む、ナナシ・・・六生のお願いじゃあ・・・」
このやりとりはもう何度もしている。一生のお願いを使い切った後、二生のお願いから大体同じ流れだ。
そもそも、なぜヘルムのじいさんは毎回「一生のお願い」と言うのか分からないが、多分、俺に何度お願いしているかいちいち覚えていないんだろう。そういう所が、都合のいい男扱いされてるって分かっているんだが、燃料を売ってもらっている手前、無下にも断れない。
何よりじいさんが取り扱っている鉱石はかなり品質が高い。一般的な鉱石よりも長持ちすることはマジな話で、商売仲間にも教えたくないぐらいだ。
「・・・ちなみに依頼の品は?」
「おお、おお・・・いつも悪いのう」
「いや——まだ引き受けたとは言ってないけど・・・」
依頼の品が「どんなもの」か興味本位で聞いてみたのが悪かった。こちらの「依頼品に対する好奇心」を逆手に取って、なぜか自然と引き受ける流れに持っていこうとするじいさんは、流石根っからの商売人というか、強かだ。俺みたいな若人の考えていることは全部お見通しってか。
「これじゃよ、これ」
「んー?どれだ・・・?」
ヘルムのじいさんが指を差した方向を見ても、何も見えない。目を凝らしても同じだ。じいさんの方を向き直って、「どれだ?」という目配せをすると、ヘルムのじいさんは、もう少しだけ指を上に掲げた。
「お前さん、どこを見とるんじゃ?これじゃよ、この白い——」
「はァ!?冷蔵庫!?」
「なーにを言っておる。これはただの冷蔵庫じゃないぞい。これはじゃな——」
じいさんが得意げに話そうとしているのを「ちょっと待ってくれ」と制して、依頼品(にされそうな物品)を上から下まで舐めるように見た。どう見ても大家族用の冷蔵庫だ。このサイズ感であれば、通常は俺たちのように個人事業で細々とやっている者の手には負えない。もっと大手の配送業者が運ぶものだ。
「じいさん・・・いくらなんでも足元見すぎだろ?ここまで来ると営業妨害だぜ」
「おぬしならこのくらい、ちょちょいのちょいじゃろ?」
「ちげえよ・・・あんた、俺のスキルをどんな便利な能力だと思ってんだ」
「めちゃくちゃ便利でカッコイイ能力じゃと思うとるよ」
「・・・・・・・・・・・・・・・そうかい」
・・・・・・白状しよう。なんだかんだ完全にこのじいさんの手玉に取られている。
カッコイイと言われるのは単純に嬉しい。それは綺麗なお姉さんから言われるより、こういうくたびれたじいさんから言われる方が、意外と嬉しかったりするもんだ。
——要はおだてて依頼を引き受けてもらおうって魂胆だろ?分かってるよ。
頭では分かっている。じいさんの依頼はそもそも合理的ではないし、ビジネスとしてもそんなに旨い話でもない。それでも、勇者や魔法使いや戦士がいるこんな華やかな世界で、しがない宅配業をしている一般男をカッコイイと言ってくれることは、やっぱり何物にも代えがたかったりする。
「・・・・・・・・・鉱石代、ちょっとオマケしてくれる?」
「そうじゃのう・・・それじゃあ、ひと欠片分の代金はタダでどうじゃ?」
「いーね。それ乗った」
交渉成立。高価な鉱石が一つ無料になるのは単純にありがたい。もちろんタダになるのは小さなサイズの分だろうが、鉱石は鉱石だ。立派に燃料の役目を果たしてくれるだろう。
「・・・そんで?これは誰宛てに運んだらいい?」
「わしの末娘じゃ。クレストで家庭を持っておる」
「じいさん・・・あんたやっぱ本当に強かなやつだよ・・・」
俺を褒めて落とす作戦が失敗したら、娘のため、家族のためという泣き落としパターンにでも持っていくつもりだったのだろう。俺がジト目をしても、じいさんはどこ吹く風だ。
「それよりも、早くいつもの、見せんかい」
「はいはい・・・わーってますって」
依頼が成立したのだから、とっとと荷造りをして出て行ってくれというわけではない。このじいさんは単純に俺のスキルを見るのが好きなのである。
俺はまず、依頼品である冷蔵庫を三回タップしてスナップを利かせた。そして次に両手をカメラのように構えて、片目でレンズを見るような形で対象物を見る。最後にその両手をググっと互いの方向に少しずつ寄せて、指で作ったカメラレンズを小さくして——
「・・・・・・スクイーズ」
「おお・・・!!」
すると、俺の背丈より遥かに大きな冷蔵庫がみるみるサイズを萎ませていく。ヘルムのじいさんはそれを見ながら始終目を輝かせている。
「・・・からの、デフレート」
「おおおお・・・!」
そうして、実物の三割程度にまで小さくなった冷蔵庫を、今度はさらに三回タップしてスナップを利かせて、左手の小指から親指に掛けてぎゅっと握り込んで自分の方に軽く肘を引き寄せる。まるで空気を抜くような仕草だ。すると、ミニ冷蔵庫はガタガタと音を立てて、そしてシーンと静かになった。
「・・・・・・持ってみる?」
「ええのか・・・!?」
「あんたのそれさ——毎回一字一句同じだからさ。いい加減慣れてきたよ」
まあ好きに持ってみなよと言って、俺がミニ冷蔵庫の方を指さすと、迷わずにヘルムのじいさんはそれに触れて軽々と両手で持ち上げる。
「ぬおおおお~~!」
ヘルムじいさんのはしゃぎっぷりに、俺はふは、と笑みをこぼした。これだけ喜んでもらえるなら、割に合わない仕事でも、たまにはいいかな?と思えてくるのは不思議だ。
「ナナシ!これは一体、どうなっとるんじゃ?」
「ええー・・・・・・」
「やっぱり企業秘密か?ナイショってやつかのう?」
「いんや、企業秘密ってわけじゃないけどさ・・・・・・・・・まあ、物品のサイズや重量を調整できるスキルだよ」
そのまんまだろ?というと、宅配業のお前さんにもってこいのスキルだと言われて、「まさにおっしゃる通りで」と肯定する。この辺りは先日のローザさんと話した内容と一字一句同じで少し笑える。
ヘルムじいさんから配送料を受け取って、ウエストポーチから釣銭を渡そうすると、じいさんは首を横に振って「向こうでの飯代にでも使ってくれ」と言ってくれた。こういうちょっとした気まぐれなお駄賃も、たまに貰えるとありがたい。俺は「あーざっす」と言って、手に持っていたそれをポケットに突っ込んだ。
つくづく対人関係スキルの高いじいさんだなと思う。人をおだてながら自分の望む方向に持っていく。このじいさんには到底勝てる気がしない。
「・・・そんじゃあ、俺は今から出るわ」
「んん?ナナシ、お前さん、もう向かってくれるのか」
「ああ。相棒のメンテナンスも終わったし、これから出発しても遅めの夕方は間に合うしな」
相棒の後ろに小さくなったミニ冷蔵庫を置いて紐で落ちないように固定する。魔力が込められて強度が高まっているこの太い紐であれば、多少手荒い運転をしても品物が振り落とされることはない。
そうして燃料も新調して腹いっぱいになったエアロのエンジンを蒸かして、俺は上空にふわりと舞い上がった。
燃料が満タンだと、滑空はもちろん、高度を上げたり下げたりするのも楽ちんだ。ちょいとレバーを切るだけでスムーズに上がったり下りたりできるし、音に関しても、ガス欠の時のような情けない音はしないからダサくない(ガス欠だとエアロがバスンバスン鳴るから、周りからは「ケチってないでいい加減に燃料を交換しろよ」というちょっと恥ずかしい空気になる)
「やっぱ鉱石を替えたてだと操作が気持ちいいな」
「当たり前じゃ。これからはもっと頻繁に替えに来んかい」
「ええー。そりゃあ、安くしてくれたら考えとくよ」
エアロを空中でホバリングさせながら軽口を叩いて、ヘルムじいさんに手を振りながら別れを告げた。
そうして俺はナビ替わりのコンパスを指で弾いて行き先を伝える——クレスト中央広場から少し離れたクレスト東地区へ、と。コンパスはチカチカと鈍色に二度光って行き先が固定された。
次の目的地まで、あと三時間半。
ナナシの能力はこの世界では結構レアです。だからこそその能力を生かして、誰にも縛られずにフリーランスとして依頼が途切れないというわけです。
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