第五話 選択の分岐点
宇宙は、再び静けさを取り戻していた。
だが――
それは、嵐の後の静寂だった。
「……さっきの、まだ続いてるのか?」
トシノリが低く呟く。
目の前の宇宙は変わらない。
だが、どこか“重なっている”。
「うん……終わってない」
ルルはゆっくりと答えた。
その視線は、ひとつの場所を見つめている。
「そこに……ある」
「何が?」
トシノリが目を凝らす。
最初は何も見えなかった。
だが――
徐々に、形が浮かび上がる。
もう一つの宇宙船。
「……あれ、俺たちの船……?」
同じ形。
同じ傷。
違うのは――
中にいる“二人”。
「な……っ」
そこには、もう一人のトシノリとルルがいた。
だが様子が違う。
ルルは倒れている。
トシノリが必死に呼びかけている。
「ルル……起きろよ……!」
声は聞こえない。
だが、確かにその光景が“存在”している。
「……これが……別の未来?」
トシノリが呟く。
ルルは静かに頷いた。
「うん……可能性のひとつ」
沈黙。
トシノリは目を逸らせなかった。
「……あれが現実になることもあるのか?」
「ある」
即答だった。
「でも――」
ルルは続ける。
「変えられる」
その言葉に、トシノリが振り返る。
「変えられる?」
「うん……“選べば”」
その瞬間。
空間が大きく揺れた。
複数の光景が重なる。
違う未来。
違う結末。
無数の“分岐”。
その中で――
ひとつの声が、響いた。
――選択せよ
「……っ!」
トシノリが歯を食いしばる。
「なんだよ……これ……」
ルルは目を閉じる。
感じていた。
これは、試されている。
「トシノリ」
「……ああ」
「どっちに行く?」
短い問い。
だが重い。
目の前には、二つのルートが現れる。
ひとつは――安全な航路。
何も起きない未来。
もうひとつは――
未知の領域。
だが、何かに“繋がっている”。
トシノリは少しだけ笑った。
「決まってるだろ」
ルルを見る。
「俺たちは、どっちに来た?」
ルルは、ふっと笑う。
「……危ない方」
「だよな」
迷いはなかった。
「行こう」
トシノリが操縦桿を握る。
ルルが隣に立つ。
その距離は、もう前より近かった。
宇宙船は、ゆっくりと進路を変える。
未知へ。
可能性の先へ。
その瞬間――
すべての“分岐”が収束した。
選ばれた未来だけが、残る。
宇宙は再び、ひとつになる。
だが。
その選択が、何を引き寄せるのか。
二人はまだ、知らない。




