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第四話 揺らぐ境界線

宇宙は、静かだった。




あまりにも静かで――


逆に、不自然なほどに。




トシノリは操縦席で、小さく息を吐いた。




「……何も起きないな」




第三話での出来事が、まるで嘘のようだった。




だが。




「……うん」




ルルの返事は、どこか上の空だった。




その視線は、窓の外――


何もないはずの空間に向けられている。




「ルル?」




「……ここ、変わってる」




小さな声。




「変わってる?」




トシノリが眉をひそめる。




「さっきから……同じ場所を通ってる気がする」




「は?」




トシノリはすぐに航路データを確認した。




異常なし。




座標も、進行方向も、問題はない。




だが――




「……そんなわけないだろ」




そう言いながらも、違和感が消えない。




その時だった。




――ピッ




警告音が鳴る。




「またか!?」




トシノリが操作する。




だが今回は違った。




エラーではない。




“予測”だった。




「この配線……3秒後にショートする」




ルルが、ぽつりと言った。




「は?」




トシノリが振り返る。




「何言って――」




――バチッ!




火花が散る。




ルルが指差した場所の配線が、正確にショートした。




沈黙。




「……今の、偶然か?」




トシノリの声が低くなる。




ルルは首を振った。




「違う……分かったの」




「どうやって?」




「分からない。でも……見えた」




その言葉に、空気が変わる。




トシノリは真剣な目でルルを見る。




「……ルル、それ」




言葉を選ぶ。




「さっきの“適合”と関係あるのか?」




ルルは少しだけ迷って、頷いた。




「たぶん……」




その時だった。




宇宙が、揺れた。




「……っ!」




視界が歪む。




星の配置が、一瞬で変わる。




さっきまで何もなかった場所に――




巨大な惑星が現れていた。




「なっ……!?」




トシノリが息を呑む。




「こんなデータ、なかったぞ!」




だがルルは、違うものを見ていた。




「……違う」




「え?」




「あれ……最初からあった」




「は?」




「ただ、見えてなかっただけ」




その言葉に、トシノリは言葉を失う。




“見えていなかっただけ”




その意味を理解するのに、時間がかかった。




宇宙は、変わっていない。




変わっているのは――




認識の方。




「境界が……ズレてる」




ルルが呟く。




「境界?」




「見えるものと、見えないものの境目」




ルルの瞳が、わずかに光る。




「それが、揺らいでる」




その瞬間。




視界が切り替わった。




宇宙船は同じ場所にいる。




だが――




周囲の景色が、まるで別の宇宙のように変わっていた。




色が違う。


光が違う。


空間の密度さえ違う。




「なんだ……ここ……」




トシノリの声が震える。




ルルは静かに答えた。




「可能性のひとつ……だと思う」




「可能性?」




「同じ場所でも、違う未来がある」




ルルはゆっくりと息を吸う。




「その“境界”が、今……壊れてる」




沈黙。




トシノリはルルを見た。




さっきまでと違う。




どこか遠くに行ってしまいそうな、そんな感覚。




「……ルル」




名前を呼ぶ。




「無理すんな」




短い言葉だった。




だが、強くて、優しかった。




ルルは一瞬、目を見開く。




そして――




少しだけ笑った。




「……うん」




その声は、いつものルルだった。




トシノリは少しだけ安心する。




だが次の瞬間――




ルルの表情が変わった。




「……トシノリ」




「どうした?」




「あなたも……」




言葉が止まる。




「……何?」




ルルはゆっくりと続けた。




「選ばれてる」




静寂。




「……俺も?」




「うん」




ルルの瞳は、はっきりとそれを見ていた。




「私だけじゃない」




宇宙が、再び揺れる。




境界が崩れる。




そして――




二人は、もう後戻りできない場所に立っていた。

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