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第三話 観測される側

宇宙は、何も変わっていないように見えた。




静かで、広くて、どこまでも無限に続いている。




だが――




「……まだ、いる」




ルルがぽつりと呟いた。




トシノリは振り返る。




「え?」




「さっきの“光”……消えてない」




計器には何も映っていない。


センサーも沈黙している。




それでもルルは、はっきりと“感じていた”。




「見られてる」




その言葉に、空気が変わる。




トシノリは周囲を見渡す。




何もない。




だが――




「……確かに、変だな」




違和感だけが残る。




まるで、“ここ”だけ切り取られているような。




「ルル、何が見える?」




「見える、っていうか……感じるの」




ルルは目を閉じた。




そして、ゆっくりと言葉を選ぶ。




「私たちが……“記録されてる”みたいな」




「記録……?」




その瞬間だった。




――ピッ




宇宙船のモニターが、勝手に点灯した。




「なっ!?」




トシノリが操作しようとするが、反応しない。




画面に映し出されたのは――




トシノリ自身の姿。




「……え?」




それは現在の映像ではなかった。




数秒前。




いや――




数分前の、自分の動き。




「これ……さっきの……?」




ルルの声が震える。




映像は続く。




第一話の航行。


第二話の接触。




すべてが――記録されている。




「なんだよこれ……誰がこんな……」




トシノリが呟いた、その時。




映像が止まった。




そして――




視点が変わった。




「……っ!?」




それは、宇宙船の外からの映像だった。




二人の船を、遠くから見ている。




さらに――




その“視点”は、一つではなかった。




複数。




無数。




あらゆる角度から、二人を捉えている。




「これ……全部……」




ルルの声がかすれる。




「私たちを、見てる……」




トシノリは言葉を失った。




観測していたのは、自分たちだと思っていた。




だが違う。




観測されていたのは――自分たちだった。




その瞬間。




ルルの意識に、再び“あの感覚”が流れ込む。




――対象確認




――記録完了




――次段階へ移行




「やめて……!」




ルルが思わず叫ぶ。




頭の中に直接響く“何か”。




だが今回は違った。




前回の“光”とは、明らかに違う。




もっと冷たく、無機質で――




そして、上位の存在。




「トシノリ……これ、前のとは違う」




「違う?」




「あれは……観てるだけだった。でもこれは――」




言葉が詰まる。




トシノリが代わりに呟く。




「……選んでる?」




その言葉に、ルルの瞳が見開かれる。




「……うん」




静かな肯定。




その時だった。




宇宙が、わずかに歪んだ。




光でもない。




影でもない。




だが確かに、“何か”が存在している。




それは形を持たない。




だが、意志だけははっきりと感じられる。




トシノリは無意識に前に出た。




ルルをかばうように。




「……ルル、下がって」




「でも――」




「いいから」




短い言葉。




だが、強い意志。




ルルは一歩だけ下がる。




その背中を見て、胸が締め付けられる。




(どうして……こんな時でも)




(守ろうとするの……)




宇宙は、完全に沈黙していた。




その中で、“それ”だけが存在している。




そして――




ルルの中に、最後の言葉が流れ込んできた。




――観測完了




――対象:適合




――次の段階へ




「……え?」




思考が止まる。




次の瞬間。




すべてが元に戻った。




モニターも。


宇宙も。




まるで何もなかったかのように。




長い沈黙。




トシノリが、ゆっくりと息を吐く。




「……今の、なんだったんだ」




ルルはすぐに答えられなかった。




ただ、ひとつだけ分かっている。




「……私たち、選ばれた」




「選ばれた?」




「うん……でも、それがいいことかは……分からない」




トシノリは少し考えて、笑った。




「まあ、どっちにしてもさ」




ルルを見る。




「一緒なら、なんとかなるだろ」




その言葉に、ルルの心が強く揺れる。




怖いはずなのに。




不安なはずなのに。




それでも――




「……うん」




自然と、そう答えていた。




宇宙は静かだ。




だが、その奥では。




確実に“何か”が動き始めている。




それは観測ではない。




もっと先の――




選択の物語。

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