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第二話 光の正体

宇宙船は、ゆっくりと“それ”に近づいていた。




光。




だが、それは星の光ではない。


惑星でも、恒星でもない。




ただ、そこに“在る”としか言えない存在。




「距離、あと500……いや、違う。300?」




トシノリが計器を見て眉をひそめる。


数値が一定しない。




「おかしい……距離が安定してない」




ルルは冷静に画面を見つめていた。


しかし、その瞳の奥には、微かな揺らぎがあった。




「近づいてるのに……遠ざかってる?」




その言葉の直後。




――ピタッ




すべてが止まった。




エンジン音も。


計器の点滅も。




時間そのものが、凍りついたように。




「……トシノリ?」




ルルが呼ぶ。




だが――




返事が、遅れて届いた。




「……ああ、聞こえてる」




わずかにズレた声。




まるで、違う時間から届いたような。




ルルの心臓が、小さく跳ねる。




(なに……これ)




再び、時間が動き出す。




だが違和感は消えない。




同じ言葉が、頭の中で反響する。




“近づいてるのに……遠ざかってる”




“近づいてるのに……遠ざかってる”




「ルル?」




トシノリの声で、意識が現実に戻る。




「……うん、大丈夫」




そう答えながらも、ルルは気づいていた。




自分だけが、何かを“感じている”ことに。




それは音ではない。


言葉でもない。




もっと直接的な――




心に触れてくる“何か”。




(……呼ばれてる?)




その瞬間だった。




光が、わずかに形を変えた。




波紋のように広がり、収束し、


まるで“意志”を持つかのように揺らぐ。




「……あれ、動いたぞ」




トシノリが身を乗り出す。




次の瞬間――




ルルの視界が白く染まった。




――観測




――選択




――可能性




断片的な“概念”が、直接流れ込んでくる。




「……っ!」




ルルは思わず胸を押さえた。




「ルル!?」




トシノリが駆け寄る。




「大丈夫か!?」




「……うん……でも……」




言葉にできない。




ただ確かに、“何か”と繋がった感覚だけが残る。




その時――




警告音が鳴り響いた。




「まずい!」




トシノリが操縦席に飛び込む。




宇宙船の制御が、勝手に書き換えられていく。




「操縦が……効かない!」




船体が大きく揺れる。




光に、引き寄せられている。




「このままじゃ――!」




トシノリが必死に操作する。




ルルは深く息を吸った。




(落ち着いて……)




さっき感じた“何か”を思い出す。




恐怖ではない。




敵意でもない。




――観測




その意味だけが、はっきりと残っていた。




「トシノリ!」




ルルが叫ぶ。




「逆らわないで!」




「え!?」




「この動き……攻撃じゃない!」




一瞬の判断。




トシノリは迷った。




だが――




ルルの目を見た。




その瞳に、確信があった。




「……分かった!」




操縦を最小限に抑える。




宇宙船は、そのまま光の前で静止した。




沈黙。




そして――




光が、ゆっくりと収束する。




まるで、満足したかのように。




「……止まった?」




トシノリが呟く。




ルルは静かに頷いた。




「うん……たぶん、私たちを……見てた」




「見てた?」




「観測してた……そんな感じ」




その言葉の直後。




光が、最後に一度だけ強く輝いた。




そして――消えた。




完全に。




宇宙は、元の静けさを取り戻す。




だが。




何かが、確実に変わっていた。




「……なあルル」




トシノリがぽつりと呟く。




「今の……なんだったんだろうな」




ルルは少しだけ考えて、答えた。




「分からない……でも」




トシノリの方を見る。




「また、会う気がする」




その言葉に、トシノリは苦笑した。




「だな。そんな気がする」




短い沈黙。




そして――




「さっきさ」




トシノリが少しだけ照れたように言う。




「ルル、すごかった」




「え?」




「俺、一瞬パニックになりかけたけど……ルルがいたから助かった」




まっすぐな言葉だった。




ルルの心が、また小さく揺れる。




「……トシノリも」




「ん?」




「ちゃんと、信じてくれた」




少しだけ微笑む。




その表情に、トシノリは一瞬見とれた。




宇宙は、何も変わっていないように見える。




だが――




確かに何かが始まっていた。




未知との接触。




そして――




二人の距離もまた、少しだけ変わっていた。

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