第2話 私、就職しましたわ!
元伯爵令嬢―ラファエラ・ヴァルディエは、ダンジョン004の入り口に仁王立ちで立っていた。
これまで派遣された者が誰も戻っていないという、危険なダンジョンリストの上から4番目にあたるダンジョンである。
静かな森の中に、不自然にぽっかりと開いた空洞が存在していた。
(完璧すぎて死すら遠ざける私が、このダンジョンを丸裸にしてやりますわー)
「オーホッホッホ」
静かな森の中に、元伯爵令嬢の高笑いが響いた。
「いざ!行きますわー!」
元伯爵令嬢が、空洞に足を踏み入れる。
べちょっ
「ひぇあっ」
(いけない。私ってば。
うっかり、はしたない声をって…)
べちょっ べちょっ
ラファエラは完全に状況を理解した。
スライムが、降っているのである。
ヌメヌメとして、ヒットすると気持ちが悪い。
「まったく、私の顔が好きだからって、そう顔にばか――ゴホっ」
やたらと顔にヒットするスライムに苦しみながら、元伯爵令嬢は一本道をずんずん進む。
突き当たりに行き着くと、スライムはピタリと止んだ。
彼女は自分にくっついているスライムを剥がして、まじまじと見てみた。
それは、やたら蛍光色をしていた。
(このスライムたち…
なかなか美しいですわね)
ラファエラは、来た道に落ちているスライムを確認した。
美しいものを激選して拾い、それを、肩から下げているポシェットにしまっていく。
ポシェットの中身は大丈夫なのだろうか。
「ダンジョンって、大変なところですのね。魔術省が私にダンジョンの調査役を命じたのも、納得ですわ。っと、レポート、レポート」
盛大な独り言を述べて、ラファエラはポシェットから紙をとりだした。
(えーっと、入ってすぐにスライムが降って参ります。
痛みもありませんが、顔にくっつかれると息ができなくなるので、要注意ですわ。
っと)
彼女が思っていることを紙に書くと、書かれた文字はすーっと消えた。
「よし!これで報告完了ですわ。さすが優秀な私。完璧にダンジョンの内部調査という、難しい仕事をこなしていますわ!いざ、先に進みますわよ!」
当然、その場に彼女以外の姿はない。
彼女は、右と左に分かれた次の進路を順に見た。
(さて、こういう時は右に行く、と私は決めてますけれど)
元伯爵令嬢は、腕を組んで少し考えた後
「決めましたわ!」
と言って左の道に進んだ。
(右が正解のはずですもの。
先に、ハズレを確認していきませんと。
私ってば仕事ができるぅぅぅーー?
……あら?
なんか、道がすっごくゆっくり動いてますわ?
これ、どこまで行きますのー?)
カァーカァーカァー
自動で動く道の先では、カラスが鳴いていた。
ダンジョンの入り口に戻されたらしい。
元伯爵令嬢は再びダンジョンに入り、ずんずん進む。
そして、突き当たりを華麗に右に曲がった。
ぽよんっ
道が弾んで元伯爵令嬢は吹っ飛ばされた。
また、入り口に戻された。
また、元伯爵令嬢はずんずん進む。
「どーなってますのー?」
元伯爵令嬢は、突き当たりの壁をドンと叩いた。
カシャン
「あら?なんの…」
ガコン
「きゃーーー」
どしゃん
元伯爵令嬢は、ぽっかり空いた落とし穴に、落ちて行った。




