第11話 私の出番が…ありませんわ!
目玉ちゃんと元騎士ミカリオは、どこかに落下した。
強い力で吸い込まれたので、目玉ちゃんもミカリオも床に激突した。
だが、床はブヨブヨとしており、二人に大きなダメージはなかった。
「お、お嬢様は?」
ミカリオの言葉を、目玉ちゃんは無視してあたりを見回す。
そこは円形の広間のようなところで、道が何本か続いているのがわかった。
床も壁面もボコボコとした突起物があり、これまで通ってきた道と同じく、赤ピンク色の空間だった。
まずいな、と目玉ちゃんは思った。
目玉ちゃんは、基本的にはコミュ障なのである。
ほとんど初対面の男と2人で、どうしたらいいのかと思っていた。
ラファエラと最初からコミュニケーションが取れたのは、彼女のあの性格のお陰なのである。
「目玉ちゃん!とにかく、お嬢様を探しに戻ろう!」
逆に、元騎士はコミュニケーションの権化、一度会えばもう友達、パーリーピーポー気質のタイプだった。
「さぁ、行こう!」
「君…さっきまでへばってなかった?」
「心配してくれてありがとう。」
ミカリオはさわやかに笑って、言葉を続けた。
「さっきお嬢様にもらった薬のお陰で、元気になったから、大丈夫。」
「目玉ちゃんって呼ぶの、やめてくれない?」
「なんで?」
「僕、そんな名前じゃないんで…」
目玉ちゃんはそっぽを向いて応えた。
やりづらい…というのが目玉ちゃんの本音だった。
「そっか!目玉ちゃんって、愛称なんだ?じゃあ俺は、目玉って呼ぶよ!」
それはどうなんだ、と目玉は思ったが、もう何でもいいやとも思った。
「戻るより、先に進んだ方がいいよ。ラファエラも別の道に吸い込まれていったみたいだし。いずれにせよ、ダンジョンの主の居場所は一か所だから。」
ミカリオはぱぁぁっと満面の笑顔を作って、目玉ちゃんに同意した。
「問題は、どの道を進むかだけど…」
「こういう時は、右へ行け!ってお嬢様が言ってたよ。」
目玉ちゃんは、思わず半眼になるのを抑えられなかった。
なんとなく、こいつはイライラする。ラファエラといる時とは、また違ったイラつきを目玉は感じていた。
ミカリオが一番右の道を進もうとすると――
壁がボコボコと波打ちだした。
目玉ちゃんとミカリオは身構えた。
それまで複数あった道が、すべて閉じられた。
まるで丸い球体に閉じ込められたようだった。
ボコボコとした波は移動して、ミカリオの前まで来ると――
床から白いコック帽が生えてきた。
ミカリオは剣を構える。
コック帽が上空に留まると、そこから黒い靄が集まりだした。
ヒュッ
風を切る鋭い音とともに、ミカリオは相手に切りかかった。
すると、相手の黒い靄は瞬く間にぼうっと炎に包まれた。
ラファエラが使える、と言っていたのは間違いではなかったようだ。
だが――
コック帽はくるりと宙を舞いミカリオから距離をとると、また靄が集まった。
ミカリオは素早く再度切りかかるが、コック帽はするりと斬撃をかわした。
そして、そいつは実態を表した。
白いコック帽に白いコック服を着たそいつは、服以外は真っ黒だった。
黒い顔にオレンジ色の瞳が不気味に光っている。
そして、両手に握られた巨大な包丁も、鈍く光っていた。
こいつは、グラトニー≪暴食≫の眷属の中でも厄介なモンスターだ。
テリトリーに侵入したものを、完全にミンチにするまで追って来る。
意思もない自動殺戮マシーンだ。
倒すには本体を破壊するしかないのだが…
目玉ちゃんは冷えた目でミカリオを見た。
彼は確かに、魔力量は並みの人間に比べれば高い。
戦闘の感もよさそうだ。
だが――
「はぁー、はぁー、はぁー…」
ミカリオの息は不自然に上がっていた。
自分の体が異様に重く感じる。
まだ、一度魔術を放っただけだ。
なのにどうして、こんなに魔力が消耗しているのか…
コック帽が斬撃を繰り出した。
ミカリオは剣でそれを受け流す。
が――
包丁を受け流した剣が、ドロリっと溶け出した。
ミカリオは即座に剣を捨てて、コック帽の斬撃を避ける。
そして手のひらに魔力をためると、シュッと素早く壁の近くまで移動し、コック帽と距離をとった。
ミカリオが何やらつぶやく。
次の瞬間、ごぉぉっという音が広間を満たした。
彼の手からすさまじい魔力が放たれた。
魔力は炎となり、鳥の形をかたどって、広間の中央にいるコック帽に向かっていく。
灼熱が空間を揺らしていた。
コック帽は、それを包丁で受け止めた。
だが、包丁の刃が赤熱し、ぐにゃりと歪んだ。
コック帽の体を炎が焼き尽くす。
しかし、白いコック帽だけが、くるっと飛んで炎から逃れた。
コック帽の周りにはまた、黒い靄が集まり始めた。
「はぁー、はぁー、はぁー…」
ミカリオは立っていることもままならなくなっていた。
片足をついて、苦しそうだ。
このままではまずいな。
上空から両者の様子を俯瞰していた目玉ちゃんは思った。
これではミカリオはもたないだろう。あいつがどうなってもどうでもいいが、ここから出られないのは困る。
それに――
――オーホッホッホッホ
目玉ちゃんはラファエラが気がかりだった。
仕方がないと、目玉ちゃんは諦めた。
スーっとミカリオに近づくと、目玉ちゃんはミカリオに言った。
「あいつの本体は、あの帽子だよ。あれを壊せば、それで済む。」
「はぁー、えっ…はぁー…で、でも…」
「魔力なら、仕方ないから僕のを分けるよ。あの変な飲み物よりはもつでしょ。」
そう言うと、目玉ちゃんは――
水色にぼんやりと光りだした。
その光はミカリオも包んでいく。
「あっ…」
ミカリオは、不思議と魔力がみなぎるのがわかった。
コック帽は体も包丁も元通りになっていた。
ミカリオに向かって、中央から斬撃を放つ。
ミカリオは――
ヒュッと軽く斬撃をかわした。
かわした直後、背後の壁がジュッと嫌な音を立てて溶け出した。
コック帽は、キョロキョロと、標的を失ったようであたりを探している。
「悪いけど…いつもより絶好調なんだ」
音もなく、コック帽の後ろにまわったミカリオはそう囁いた。
そして――
ミカリオは白いコック帽を掴む。
彼の手の中で、それは燃えて消し炭になった。
「やったーーー!」
黒い靄が霧散すると、ミカリオは両手を上げて喜んだ。
それまで消えてしまっていた道が再び現れた。
道は一つしかなかった。
目玉ちゃんがパタパタと道に進んでいく。
のを、むんずとミカリオは掴んだ。
「ところでさ、目玉って、何者なの?」




