お母さんみたいと振られ続けた私〜魔力チートで育児してたら弟子たちが全員ヤンデレになりました〜
初投稿です。
本当は長編を書きたいのですが、まずは短編で…!
どうぞよろしくお願いします。
■主人公視点
『お母さんみたいでごめんなさい』
「……ほんと、ごめんね。でも君って、恋人っていうより、お母さんみたいなんだよね」
——また、同じセリフだった。
今まで何度も繰り返された別れの言葉。
私、花守 春香は、恋人に尽くことが好きだった。相手の好みを覚えるのも、疲れてるときにそっと気遣うのも、自然にできた。
でも、なぜかそれは「重い」「母性が強すぎる」「恋人として見れない」と言われて、別れを告げられる。
三十歳の誕生日を目前にして、これが五人目の失恋だった。
電車に揺られながら、ぼんやりと窓の外を見つめる。
通勤帰りの人々が行き交う交差点、信号が変わる——赤なのに。
「あっ……」
ブレーキ音。クラクション。誰かの叫び声。
次に目を開けたとき、私は、空に二つの月が浮かぶ世界にいた。
* * *
「——転生者。確認。適性:全属性所持。魔力量:王族超え。称号《慈母の器》付与」
え、え、なにこれ!? RPG!? 脳内に響いたメッセージに思わずパニックになる。
でも、すぐに気づいた。
——死んだんだ、私。
でも、死んだだけじゃない。転生してる。そして……なんか強い。すごいチートっぽい。
それから、私は森の中で数日間過ごした。魔法の使い方は自然に分かった。風で火を起こし、水で体を清め、土で寝床を整える。生きることに困りはしなかった。
けれど、その森で出会ったのが——彼だった。
* * *
「う……ぅ……い、たい……」
焼けただれたような顔、皮膚のただれ、指先が赤黒く膨れ上がっている。小さな子ども。まだ、五歳にも満たないだろう。
私はすぐに駆け寄り、その子を抱きしめた。
「大丈夫、大丈夫だよ。痛かったね……怖かったね」
その子はびくっと体を震わせた。
普通ならここで魔力が暴走し、周囲を吹き飛ばすはずだった。だが——何も起こらない。
「……ふぇ……? い、痛く、ない……?」
「私、魔力いっぱい持ってるから、受け止められるのかも」
そう言いながら、その子の傷に優しく魔力を流す。すると、みるみる肌が元に戻っていく。
——この世界では、魔力が多すぎると「魔力暴走」を起こし、皮膚に膿やただれが現れる「魔力呪障」が発生する。
そんな子どもは、忌み子として捨てられる。人里から離れた修道院や森に隔離され、誰にも触れられず、愛されることもなく消えていく。
私は知っていた。前世で「母性が重い」と言われた私の、この性格。
もしかして、この世界の子どもたちにこそ必要なんじゃないか、と。
「うん……いい子だね。じゃあ、明日から一緒に魔法の練習、しようか」
そうして、私は“先生”になった。
* * *
最初は一人だけだった。けれど噂が噂を呼び、数週間で十人、数ヶ月で三十人の子どもが集まってきた。森の中に、私は簡単な木の家を建てて「子どもたちの魔法学校」を作った。
子どもたちは、皆魔力が多く、暴走しやすい。けれど私がそばにいれば問題はない。魔力の使い方を教え、一人一人の適性に合わせてトレーニングを重ねる。
「先生、火の玉がきれいに飛んだよ!」
「ねえ先生、膿が出なくなった! 痛くない!」
——私が与えたのは、魔法だけじゃなかった。
食事、寝かしつけ、読み聞かせ、けんかの仲裁、涙を拭って、夢を聞く。
「先生……僕ね、大きくなったら先生と結婚する」
そんなことを言って笑う男の子に、私はやんわりと首を横に振った。
「ありがとう。でも、先生はお母さんみたいなものだからね」
そう言ったのを、私は後悔することになる。
* * *
数年後——子どもたちはみんな立派に成長していた。
魔法の才能を開花させた彼らは、王国の魔導師団、騎士団、冒険者ギルドにスカウトされ、今では“天才魔導士たちの育て親”として私は有名人になっていた。
ただ一つ、誤算だったことがある。
「先生に近づく男がいた? ふぅん……どうやって消そうかな」
「先生を“恋愛対象”として見るなんて、無礼極まりない」
「先生の寝床の周囲に結界を張ったのは僕です。ほかの男が近づけないように」
……あの、ちょっと待って? なんでみんな、そんなに執着してるの?
私の前に現れた好青年の冒険者が、弟子たちに囲まれ、目に冷たい光を宿す彼らに静かに言い放たれる。
「「「“母さま”に色目を使うな。彼女は……俺たちだけの存在なんだから」」」
——この世界でも、私はやっぱり“お母さんみたい”だった。
でも今度は、子どもたちがそれを、絶対に誰にも譲らないつもりらしい。
■弟子①レオン視点
『母さまは俺だけのもの』
母さまの手は、いつもあたたかい。
魔力暴走でただれた俺の顔に、怖がらず触れてくれたのは、母さまだけだった。
「大丈夫。レオンはとっても優しい子だよ」
「痛いの、全部ここにおいで」
その声を聞いたとき、俺の世界は終わった。
それまでの孤独も、恐怖も、全部、母さまの中で溶けたんだ。
だから決めたんだ。
母さまを、守るって。
……でも。
最近、あの男が、母さまに近づいていた。
冒険者のくせに、ろくに礼儀も知らない癖に、花を渡してた。
「貴族とは違う形で、君を守りたい」とか――
バカか?
守るっていうのは、隣に立つことじゃない。
後ろで、誰にも気づかれずに“排除”することだ。
俺は母さまの笑顔が見たい。
だけどそれは、俺だけに向けて欲しいんだ。
他の誰かに向けられたその微笑みが、俺の胸を灼いた。
何度も、何度も――
焼けただれた皮膚みたいに、ズキズキと疼いた。
◆
その夜、俺はそいつの家に忍び込んだ。
簡単だった。アイツは“信じる”って言って、背中を母さまに向けていた。
……笑わせんな。
俺はナイフを首元にあてながら、こう囁いた。
「母さまの笑顔、見たか?」
「でもあれ、お前のためじゃないんだ。俺のためなんだ」
目を見開いたその男に、俺は静かに刃を滑らせた。
誰も知らない。
母さまの家の裏庭に、小さな“秘密の穴”があることを。
もう何人入ってるかなんて、数えてない。
◆
翌朝、母さまは「またいなくなっちゃったのね」と少し寂しそうに呟いた。
俺は、そっと膝をついて、母さまの手を握った。
「……俺が、います。母さまには、俺がいるから」
「だからもう、他の誰もいらない。ね?」
母さまは少し戸惑ったように笑って、「ありがとう、レオン」と言ってくれた。
その笑顔だけで、俺の世界は満ちる。
だけど――
もしまた、誰かが近づいたら。
もしまた、あの笑顔を誰かに見せたら。
俺は、笑って殺す。
この手で、全部。
だって、母さまは――
俺だけのものなんだから。
■弟子②ノエル視点
『母さまが大好きすぎて壊れそう』
母さまのごはんは、おいしい。
母さまの手は、やわらかい。
母さまの声は、魔法みたいに心にしみる。
ねえ、知ってる?
世界でいちばんの宝物って、もう見つけたんだよ。
それは、母さま。
前にね、母さまの髪に花飾りをつけたの。
そしたら、母さまが笑ってくれたんだ!
その笑顔、忘れられなくて――
でも、最近は他の人にも同じ笑顔を見せる。
あの商人のお姉さんとか、街の子供とか……。
……ねえ、なんで?
母さまは、ボクのものでしょう?
だからボク、考えたの。
いらないんだよ、他の人なんて。
母さまの笑顔を奪う人は、みーんな、いらないの。
だから昨日、そのお姉さんの家、火事になった。
……誰のせいかな? わかんないな〜?
あははっ。
母さまの笑顔、守ったよ。えらいでしょ?
ボクが一番がんばってる。
だって、だって……!
「母さまのこと、誰よりも愛してるの、ボクだから!」
ねえ、ぎゅーってして?
この気持ち、ぜんぶ、ボクの中に入りきらないの。
「ねえ母さま、ボクとずっと一緒にいて?」
「他の子になんか目を向けないで? ずっと、ボクだけ見てて?」
だって、そうじゃないと――
心が、割れちゃうんだよ?
■弟子③カイン視点
『言葉にしない執着ほど、深く沈む』
母さまに拾われたとき、私は壊れていた。
声を出すことすらできなかった。
魔力過多によって音の波が狂い、言葉は棘となって耳に返ってきたからだ。
でも――
母さまは、私に「音の魔法」を教えてくれた。
痛くない声の出し方を、優しく、丁寧に。
「カインの声、綺麗だよ。わたし、好き」
その一言で、私は決めたのだ。
母さまを、この命に代えても守ろう、と。
母さまは、人を疑わない。
だから、狙われる。
言い寄る者も、利用しようとする者も、少なくない。
私は静かに調べる。
母さまに微笑まれた相手の素性。
どこに住んでいて、どのような手段で近づいたのか。
……そして、静かに排除する。
証拠は残さない。
母さまの手が汚れぬよう、完璧に。
ノエルやレオンは派手にやりすぎる。
でも、彼らの気持ちはわかる。
だって私たちは皆、母さまに“初めての愛”をもらった子供だから。
けれど――
母さまの時間が、笑顔が、声が、誰かのものになる未来など、私は望まない。
「母さまは、私たちとここでずっと暮らすのが幸せなんですよ」
「……他の選択肢なんて、必要ないでしょう?」
願わくば、母さまも“それ”に気づいてくれますように。
誰かが死ぬ前に。
――もしくは、母さま自身が逃げ出す前に。
けれど、もしも逃げるなら。
そのときは私が、世界ごと閉じてあげます。
母さまがどこにも行けないように。
“優しい牢獄”を、私が作りますから。