姫路茶屋華は不敵に笑う
「潮くん! コンテスト入選おめでとう!!」
「ありがとう茶屋華ちゃん」
ある日の記憶。
夕焼け空の下、二人きりの時間。
「これで潮くんは、天才ポエマーだね!」
少女は、少年の肩を叩く。
「もう、やめてくれよ……。ははっ、正直みんなに見られるのが恥ずかしいな。でも、嬉しいよ」
少年は照れながら笑う。
つられて少女も笑う。
それは二人にとって一番平和だった時。
二人にとって一番幸せだった時。
この学校の名は三途川高校。
中学時代に悪名を馳せた不良達が集う極悪高校。
しかし、その実態は……。
「ひいいいっ! 許して! ごめんなさい!」
「いやいや許さねえよ。ごめんで済むなら『校則』はいらねえ」
学ランを着た金髪モヒカンの大柄の男に殴る蹴るの暴行を受けているのは、同じ学ランを着たおかっぱ髪に丸眼鏡のひ弱な少年だった。
「いいぞ! やっちまえ! "ジョ七さん"!」
「校則違反は重罪だア〜! ボコボコにしてやれ!」
野次馬共が騒ぎ立てる。
(ううっ! 痛い! こんなことなら、こんな場所で半端に場違いな正義感なんか持たなきゃ良かった!)
ドゴッ! とモヒカン男の拳が少年の顔面を吹き飛ばす。眼鏡はバキバキに破壊されてしまった。
「がはっ!」
「全く、とんでもないクズだな。あの有名な鷺中学の"万引き王"が『カツアゲ妨害』だなんて、ガッカリだぜ!」
少年は泣きながら顔を教室の床に擦り付けさせられる。
(結局僕はこうなんだ……!)
彼、渦川傘太は中学時代、同級生達からいじめを受けていて、何度も何度も万引きを強要されていた。
早めにバレて捕まっていればまだ運が良かったのだが、彼には本当に不本意ながら「そういう才能」があり、コンビニやスーパーマーケットに、DVDレンタル店、家電量販店などの多くの店が多額の被害を出すほどの万引きを成功させてしまっていた。
最終的には捕まるのだが、いじめの主犯達が怖くて真実を話せず、彼は「三途川送り」となってしまった。
「『校則第三十一条、強者が弱者から金品を巻き上げる行為は校則の下に守られる権利である。何人たりとも妨害することは許されない』ですよオオオ!!」
ここは三途川高校。不良校の姿をした「反社会的組織構成員育成施設」である。
ある時、政府は、「非行少年達を更生させるのではなく、社会から隔離し、必要悪として育成する」という方針を立て、そのためにこの「三途川高校」を設立したのだ。
勿論それは秘密裏に進められる計画であり、表面的には「非行少年達の更生」の為の特殊な高等学校として、更には「不良校」という偽の不名誉な肩書まで世間に流布させて存在している。
"万引き王"と呼ばれた渦川も、善良な一般市民としての人生を奪われ、この闇の鎖国城に放り込まれた哀れな少年だった。
「先公にチクっちまおうぜ!」
誰かが言う。すると、渦川は真っ青になって懇願する。
「や、やめてください!『不良教師陣』には言わないで!!」
「じゃあこうしよう」
モヒカン男が提案する。
「おまえは一生この俺、上條ジョルジョマッジョーレ上助様の奴隷として生きる。奴隷契約も『校則』で認められている。どうだ?」
モヒカン男の上條は邪悪な笑みを浮かべて渦川に近寄る。
「い、いやだ! どっちにしたっていつか殺される! た、助けてーーーッ!!」
「馬鹿か! ここではこれが正義だ! 助けなんてこねえよ!」
その時、
「いや、わたくしが助けます!!!」
教室のドアを蹴破り飛び込んできたのは、学ラン姿の少女だった。
「誰だテメエ!」
上條が怒鳴りつけた。
「わたくしが誰かですって? では教えて差し上げましょう」
上着を全開にして、上半身はほとんど裸で胸にサラシ……ではなく、トイレットペーパーを巻いた長い茶髪のその少女は、高らかに宣言する。
「わたくし、姫路茶屋華と申します。この度はこの学校はぶち壊しに参りましたわ」
奇妙な少女は不敵に笑った。