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1章8 「見た目で愛されるなんて、真実の愛じゃないわ亅

エリはアリアの不機嫌にはまるで気づいていないかのように、静かに一礼してから近づいた。

現世で、幼い生徒たちのお世話をしていた頃を思い出した。


(きっとこのアリア様も、小さな子どものような、不安といらだちを、まだ手離せずにいるのね。きっと)


「アリア様、お手紙が届いたら、私がすぐにもって参りますね、ほかの者にもそのように知らせておきましょう。もう少し、お休みになりますか?お布団を整えましょう」


 そして、枕をふくらませながら、さりげなく執事のシモンに顔を向けると、もうここは任せてくださいという意味で視線を送った。シモンは小さくうなずき返した。


「それでは、私はお客様のご対応をしてまいります。アリア様、失礼いたします」


 返事の代わりに、アリアはため息をついて、けだるい顔をそむけた。


 エリは素早く部屋に視線を走らせた。


(アリア様が寝台から戸口に向かうまでの通り道に、椅子とテーブルが邪魔をしているから配置を変えたほうがいい)


(できればカーテンと敷物を入れ替えて、さわやかな色柄にしたほうがいいけれど、それはもっと自分になじんでくれてからだ)


(壁際のテーブルにあまり大げさではない香りのいい花を活けるのもいいかもしれない)


(シーツが湿っているから、あらかじめ準備をして、アリア様がお食事や入浴の時に、人手を出して一気に交換する必要がある。もちろんその時には、換気と、掃除も済まさなければ)


 だがまずは、この方に心を開いてもらって、敵ではないと思ってもらうことだ。


エリの目は、小さな化粧机の上に置かれた、いくつかの手紙の束に留まった。その周りには、すべらかな小石と、貝殻、そして枯れてバラバラになった紅バラの残骸があった。


探す目で見まわすと、部屋の隅に放り出された衣装屋の包装袋と、リボンを見つけた。


「あちらの机の上のお手紙の束は、リボンでまとめてもよろしいですか。そうすれば、お休みの時でもおそば近くに置いておけますよ」


アリアはぼんやりとした視線を机に向けた。


「私が触ってもよいでしょうか?」


と、エリがたずねると


「……こっちに持ってきて、私が結わえるわ」


と答えた。


 アリアは掛布団の上で受取った手紙の角をそろえると、思いのこもった手つきで赤いリボンを丁寧に結んだ。その顔には先ほどまでの小さい獣のような荒々しい様子は消えて、寂しげな、思いが報われない悲しみが現れていた。


「はあ、クラクラするわ亅


 エリはアリアの肩を支えて、再び枕に頭をのせるのを手伝った。

エリに背を向けて、手紙のリボンに指をからませていたアリアは、


「おまえは、あの子の婚約の手伝いに呼ばれたの?」


とポツンとつぶやいた。


「……いいえ。私はアリア様おひとりのお世話のために参りました。妹のリルア様のためではありません」


「そう、私なんかに仕えることになって、残念ね。あの子のところなら、みんな楽しそうで、よかったのに」

「そんなことはありませんよ。アリア様のおそばに来られてうれしいです」

「……あの子みたいに、私は見た目も、気立てもかわいくないもの、わかってるのよ」


 手紙から指を離すと、枕に顔を埋めてしまった。


 エリは、執事のシモンが涙を浮かべて心配していたことを思い、また、老伯爵が助っ人のエリを迎えて飛びつかんばかりにしていた姿を思った。

この人はこんなに愛されて、皆に幸せを願われているのに、それを素直に受け入れられなくなっているのだと思った。


「……リルアは見も知らぬ人に愛されて、それできっと結婚してしまうのだろうけれど、そんなのでいいの……?そういうものなの?」


 枕の中からくぐもった声がした。


「本当の愛、ってただ、見た目だけを気に入られて、それで決まってしまうようなこと?」


 アリアは不意に半身を起こすと、大きな黒目を見開いてまともにエリを見た。


「その人がどういう心を持っているか、それをわかってから好きになること、それが本当の愛じゃないの?世の中の男の人たちが、どうして見た目だけで人を好きになったと思いこんで、相手の本当の心を知りもしないで結婚を申し込むのかわからない、女の子だって、それだけのことで浮かれて、愛し合ったことになってるんだもの、そんなの変よ……」

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