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57「仲間になるか、それとも亅

 恐る恐る中を覗き込みながら、シモンは室内に入った。エリもそのあとに続いた。

 地下室の中はかび臭いようなにおいがして、むき出しの土の床からは湿気が立ち上っていた。


「ん……。ああ、クソ、まだ僕はこんなところにいたのか、せっかくいい夢を見ていたのに!」


 ぶつくさ言いながら、カルスは上体をわらの上に起こした。額にはわらのクズがついて、顔には無精ひげがおおっていた。


「おい、執事。早く出せ」

「ああ、まだ生きておられた。心臓がちぢみましたよ」

「こんなところで、くたばるなんてごめんだよ。何を言っているんだ」

「ここにいるエリが、あなた様が死のうとして、毒薬をかくしているなどと言うものですから、驚いて見に来たのです」

「その娘は、アリアに会おうとしたのを邪魔した、生意気なメイドだな。おまえのせいで、アリアは僕と逃げてくれなかったんだぞ、もう少しだったのに」

「……カルス様、エリには構わないでください。まったく、その様子では死にそうにはないですね。でも、反省の様子がないなら、もう少し頭を冷やしていた方がよいかと存じます」

「なんでもいいから早く出してくれ。……もうじき、僕の母の誕生日なんだ……。心配ばかりかけたから、せめて誕生日くらい楽しく祝って差し上げたい……」


 カルスは自分の口にした言葉のせいで、急にしょんぼりとなった。

 執事のシモンは、エリを振り返った。


「このお客様は、この通りですよ。エリ、いったいなんの勘違いですか」

「確かに、毒薬を隠していると、この人は言っていたのです」


 言いながらエリは、扉の向こうで、誰かがはしごを降りてくるかすかな音を聞きつけていた。


「お客様、ちょっと立ち上がってくださいませ。シモン様、向こうのすみの、レンガを一つ外したところに、こわい薬を隠していると言っていたのです」

「どれどれ」

 

 カルスを立たせて、わらの寝床の後ろの暗い壁をエリは指さした。


「ほら、このあたり……」


 シモンが壁に目を近づけたところで、エリは、その膝裏のあたりにけりをくらわさせて、わらの山のなかにつき転がした。


「わ!?」

「シモン様、失礼します」

「エリ、何の真似ですか?!」

「シモン様、どうぞ起きないでください。このまま寝ていて下さったら、私は何もせずに済みます」

「どういうことです、あなたたちはグルですか?」

「私は、こんな女の敵みたいな人の仲間ではありません。どうぞ、お許しください。すべてはアリア様の笑顔のためです」

「アリア様の……」


 二人が話をしているすきに、カイルはこっそりと地下牢から抜け出そうとしていた。だが、素早くエリが戸口をふさいだ。


「逃げてもらっては困るわ」

「なんなんだ、おまえは。そこをどけ」


 その時、入口の方から黒い人影が静かに現れた。カルスはびくっとし、転がったままのシモンが息をのむ音がした。ドイルは低い声でカルスに言った。


「一緒に来るか、それともここで死ぬか、今決めてください」

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