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55「新たな仲間亅

「エリ、耐えるんだ。つらいだろうが、ここでためらっていてはいけない」

「お屋敷のみんなは、私のことを恩知らずの、イヤな奴だと思ってがっかりするでしょうね」

「僕だけは、君が素晴らしい女性だとわかっているよ。もう少しだ、エリ、僕と力を合わせて頑張ろう、そして、アリア嬢とテリーの愛を成就させよう。……君の気持ちはわかるよ。僕だって、何度となくつらい別れをしてきた。祝福されて、笑顔でさよならを言えたことなんかほとんどない。いつも、何も言えずに姿を消すか、裏切り者とののしられて追われてきた……」

「……リード」

「僕は今回のミッションは、君がいてくれることでとても救われているんだよ。君につらい思いをさせるのは本意ではないけれど、どうか我慢してくれ。一緒にあの二人の夢をかなえよう……!」


 エリは、リードの目を見てうなずいた。


「わかった、やるわ」

「それでこそ、エリだ」


 リードはうなずくと、パーティー会場を見回した。


「いまは、伯爵も、二人の令嬢もパーティーに引き留められている。さっそく決行しよう」


 二人を乗せた馬車は来た道を戻って行った。


「エリ、聞くまでもないけれど、君は馬に乗れないよな」

「本当に聞くまでもないわね。馬で移動するの」

「その通りだ、テリーの腹心の部下のドイルの話をしたね、彼が馬を用意することになっている。

 大丈夫、ただ乗っていれば、馬が連れて行ってくれるよ。癖のない馬を君に準備するから」

「全然、大丈夫だとは思えないけれど、やるしかないわね」

「ドイルが旅の支度をしている。僕の家で落ち合って、馬に乗り換えたら、君の勤め先のお屋敷に行くぞ。伯爵が留守のすきに、カルス君を奪い去ろう」

「カルスが言うことを聞かなかったらどうするつもり」

「ドイルがいれば、ふんじばってでも、連れていくだろう」

 

 馬車はリードの住む屋敷へ着いた。ここでは、おそらくリードの操作によって、エリがリードの「弟」ということになっているので、エリはあまり顔を御者に見られないようにしながら、できるだけ男っぽい動きで馬車を降りた。

 廊下を並んで歩くリードが、前を見たままで言った。


「このまま部屋に入らずに突き当りから外に出るよ」

「わかった」


通用口のような扉を開き、しばらく行くと、夜の木立の陰に、馬をつないでいる気配が感じられた。


「ドイル、いるか」


 リードが低い声で、太い木に向かって声をかけた。


「は、ここにおります。リード様」


 大木の陰から、背の高い、がっしりした体躯の若い男が現れた。月明かりでかすかに表情が見分けられたが、落ち着いた、意思に満ちた顔をしていた。額に残る傷は、おそらくテリーとともに襲われたときのものだろう。


「エリを連れてきた。あとはおまえが頼りだ」

「心得ております」

「このエリは、伯爵家に仕えるメイドということになっているが、実は東洋のさる貴族の令嬢だ。今は、こんな男のような身なりをしているが、僕の大事な友人だからそのつもりで」

「……そうなのですね。心得ました」


(え?)

 

という顔をするエリに、リードは小声で話しかけた。


「そうじゃないと、君が僕にタメ口で話しているのが変だろう?大丈夫、現代、日本で暮らしてきた君は、ここの人達から見れば、貴族様みたいなものだ」

「いいかげんね……」

「僕だって、本当は貴族でもお坊ちゃまでもない。君と同格にしておかないと、なにか危険があったとき、君を犠牲にして、僕を助けかねないだろ。そういうことにしておいたほうがいいんだ」

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