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51「愛する人を取り戻すには」

 侯爵夫人はアリアをじっと見た。


「アリアさん、落ち着いてください。 いきなり隣国に兵士を送り込むわけにはいきません。それは戦争を仕掛けたのと同じことです。たとえ国内のことだったとしても、正面突破をしようとすると、人質の息子の身が危ないのです」

「では……、テリー様を救うには、どうしたらいいのでしょう」

「できるだけ穏やかに交渉を続けながら時間稼ぎをして、その間に、敵に悟られないよう、隠密に行動して、テリーを奪還するのが危険が少ない方法だと思われます」

「王家に助けを求めることはできないのですか」


 アリアは、にこやかに妹のリリアに言葉を与えている王妃を遠く眺めた。リリアは王子と婚約をして、いずれ王家と親戚筋になることは決まっていても、そういう場面で力になれるような少女ではなかった。


「わが侯爵家は、敵の家に頭をおさえられている状況です。つまり、隣国王家の敵対勢力の一味とみなされかねません。国王陛下はすでに、情報を得ているとは思いますが、報告を申し上げるのも、時期を見極めて慎重にしなくてはなりません。

 どちらにしても、王家は、我が家のためだけに、隣国の騒動に介入するようなことはなさらないでしょう」


アリアは痛みを堪えるように眉を寄せた。


「分かりました。 私の浅はかな考えで、軽率なことを申し上げて申し訳ありません。ただ……、どうしても、じっとしていられなかったのです……、お許しください」

「 許すだなんて……。 テリーのことをこんなに心配 してくれるあなたがいるだけで、私のつらさも和らぐ思いです。

  アリアさん、私も本当に苦しんできました。それは夫も同じですが、侯爵という立場上、情けないことは口にできないと考えて、夫婦で苦悩を慰め合うことはなかったのです。でも、ただずっと希望を持ち続けるだけでも難しいことで、ときどきは、気持ちが揺らぎそうになります。

  アリアさん、どうか弱気になりそうな私を、励ましてください」


 アリアは涙をたたえた目で見あげて、強くうなづいた。


「アリアさん、どうか、今夜私と話をした内容は他言しないようにお願いします。お父様の公爵さまに秘密をつくるのはつらいでしょうが、私たちがテリーを救う計画を秘密に進めている話は、アリアさんは全く知らないことにしておいてください」

「はい……」

「いまは、テリーが人質に取られている以上、その相手と、表面上だけでも、味方のような顔をわが侯爵家はしなくてはいけません。敵の首謀者は隣国ジョーン侯爵家長男の、ボースという人物です。私は……、その男を許しません……。テリーを取り戻したら、この苦しみの償いをしてもらうつもりです」

 

 アリアは侯爵夫人を黙って見つめた。


「テリー様は、ジョーンズ家で、無事にお過ごしなのでしょうか」

「ジョーンズ家から伝えられたことによると、清潔な環境で、食事もきちんととって、手荒な真似はされていないそうです。捕まる時にできた軽い傷は、治療を受けて、すでに回復しているそうです」


 アリアが返事をしようと口を開いたとき、父の伯爵が探すような顔で、人込みに目を走らせているのに気がついた。


「父が私を探しているようです。もう行かなくては……。侯爵夫人様、今宵はお会いできて、本当に嬉しゅうございました」

「アリアさん、くれぐれも内密に。……サリー、アリアさんをよろしくね」

「わかっていますわ。モンベーツ伯爵は、いまは王家との縁談を無事に進めることに、気を取られておいでだから……。アリアにとって、必ずしも味方ではないかもしれないし……」


 アリアは思い切った様子で侯爵夫人を見た。


「テリー様はいつ……、お帰りになるのですか」

「それは……」


 侯爵夫人は、一つ息をつくと、声を絞った。


「……おそらく、今から一月後、次の新月の夜になるでしょう」

 

 アリアはものも言えずに侯爵夫人を見つめた。


「秘密です。決して誰にも……」


 言い終わる前に、侯爵夫人は顔をそらした。そして、何気ない風で、背を向けてアリアのそばから離れていった。

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