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3章43「妹の婚約が先になってもかまわない。それよりも……!亅

屋敷のあちこちで、軽く足を引いて歩く伯爵の姿をエリは見かけるようになった。あいかわらず、穏やかで優しい言葉を使用人にもかけてくれる当主だったが

、隠しきれない苦悶の様子が見えた。

エリはそれを、長女のアリアが大事な人を失うかもしれない危機のためだと思っていたが、それ以外にも、伯爵の悩みはあったのだった。


「アリアお姉様……!亅


モンベーツ伯爵の二番目の娘、リルアは金髪を揺らしながら、居間で冷たいお茶を飲んでいる姉に近づいて、隣にストンと座った。


「私、午後からお買い物に行くの。良かったらお姉様も一緒に行かない?亅


アリアは首を横に振った。


「私はいいわ、行ってらっしゃい。最近、忙しそうね亅


リルアはモジモジと座ったまま体を動かした。


「私、もうすぐ婚約すると思うの……亅


エリは居間のあちこちにはたきをかけながら、二人の会話を聞いていた。


「おめでとう……。リルア、わたしの心配をしてくれていたんでしょう。大丈夫よ、気にしないで、幸せになって……亅


と、アリアは微笑んだ。


「お姉様の大切な方、領地に行かれてるのでしょう。早くお戻りになるよう、私もお祈りするね……亅

「ありがとう亅


妹の後ろ姿を見送ったアリアは、


「エリ、ここにきて、扇いでくれる?亅


と呼んだ。

隣に腰を掛けて話を聞いてほしい、という意味なのだった。


弱々しく微笑んで、アリアは話し始めた。


「お父様が、あの子の婚約の話をしてくださったの。どうやら、私より先になりそうで、気にしておられるのよ。そんな気づかいはいらないのに……亅

「はい亅


「なんとなくわかっていたことだけど、お相手をはじめて聞いたわ……。あの子、王子様と結婚するのよ……!第三王子様のフィリペ様……。

それで、お父様が困っていたわけがわかったわ。王家の方がお相手では、いつまでもまたせてはいられないわ。お父様は私が可哀想だと思っていたのね……亅

「王子様でしたか。それは……亅

「私、べつにリルアが王家の方に見初められたから羨ましいとは思わないの。いまの私にはテリー様がいるから亅


と、アリアは優しく微笑んで、そしてまたふっと淋しそうな顔になった。


「ただ、このことで、婚約のお披露目をするみたいなのよ。表立っては王妃さまのお誕生日祝ということで、殿下とリルアの結婚が決まったと皆様に知らせることになっているそうよ……亅

「パーティは10日後でしたね亅


アリアはうなづいた。


「私、親族なので出席したほうがいいのだけれど……亅

「アリア様、ムリをなさらないで下さい亅

「そうね亅


最近のアリアは食欲が落ち、夜もよく眠れていない様子だった。あまりテリーのことは口にしなかったが、思い悩んでいる様子なのは明らかだった。


突然、玄関の方から、


「アリア!亅


と呼びかける声が響いた。カルスの声だった。

アリアはびくっと身を震わせた。

メイドたちや執事のシモンが押しとどめようとする声が聞こえてくる。


「……おやめください亅

「……お引き取りください!何をするんですか!亅

「アリアお嬢様はお会いになりませんよ!亅


エリはアリアのそばに座って、肩を抱いた。


「大丈夫ですよ、アリア様。寝室に行きましょう亅


そう言って、立ち上がらせた時、カルスの声がホールに響いた。


「アリア!僕だ。聞こえるか!?亅

「行きましょう亅

「君の男は帰ってこないぞ!亅


アリアの肩がエリの腕のなかでビクっと震えた。


「まわりのやつらは秘密にしてるんだろうが、その男は盗賊に取っ捕まって行方不明さ。はっ。とっくに拷問にあって、谷底に転がされているさ。いまごろは野ネズミのエサになってるよ……!亅


アリアは手を口でおおって、目を見開いた。


「アリア、聞こえるか、アリアー!君の恋人は、盗賊と立派に戦って、死んでしまったんだろう。りっぱな最期だな。だが、男らしく戦死してしまったら、もう君には会えないな。ははっ、僕を裏切って、他の男に色目をつかったから、君にバチがあたったんだよ亅

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