3章42「知らせのゆくえ亅
「シモンがあんなに心配して、私を守ろうとしていたのに、バカだったわ。……執事のシモンにはわかっていたのね。それなのに、強情な態度ばかりとって、シモンを悪者みたいに扱って……、イヤな子だったわ」
「シモン様はそんなことを気にはなさりませんよ。それより、アリア様が幸せになることが皆の望みです……」
アリアはしみじみと言葉を続けた。
「自分に自信がないときって、だめなものね。あんなゴミみたいなプレゼントをもらって喜んでいたなんて、自分で自分が可哀そうになるわ」
「今日のアリア様は、優しく、しかも気高く、とても美しく立派でした。カイル様のような困った方のつけ入るスキはまるでありませんでしたよ……」
「私、あの方のいうままに、大事なお父様のお金も使わせてしまって、お詫びを申し上げなくては……。
お父様は堂々として、とても立派だったわ。そして、お父様はいつもお母さまのことを大切に思っておられるのをとても感じたの。……エリ、私、お父様とお母さまの子に生まれて幸せだったのね。いつか、そんな家族を私も作りたいわ……。……あの方と」
アリアは夢見るようにほほ笑んだ。
「さあ、エリ、私、もうあのゴミみたいなプレゼントと手紙を捨ててしまいたいわ。燃やしてちょうだいな」
「小石や、枯れた花は庭に埋めてきます。手紙は……、まさかとは思いますが、カイル様が、なにか言いがかりをつけてきたときのために、しばらく保管してよろしいでしょうか。お目につかないようにシモン様にお願いいたしますから」
「エリがそういうなら、そうしてちょうだい。なんだか、騒ぎがあったから、眠くなってしまったわ……」
アリアの着替えを手伝い、ベッドに寝かせたあと、エリは執事のシモンを探して執務室に向かった。シモンが伯爵に何事かを耳打ちしていた様子を思うと、胸が騒いだ。
(なにかの知らせがあったに違いない……)
早足で廊下を渡っていくエリは、ちょうど伯爵の書斎から出てきたシモンを見た。
「執事様!亅
シモンは眉根を寄せて、エリをみた。
「ああ、エリ。あなたにも話しておかなくてはなりません。当面、アリア様には秘密にしたほうがいいとおもうのです亅
「なにか、あったんですね?亅
シモンはコクコクとうなづいた。
「テリー様のお家から使者が来ました。実は、両家の間で、内々に縁談のお話があったのです。……申し込みが、ご子息様からあれば、両家は異存はないという下ごしらえができていました亅
そういうこともあるだろうなと思いながら、エリはうなづいた。
「ですが、話の内容はいいことではありませんでした。テリー様が、盗賊のでる領地で行方不明になったとのことなのです……亅
エリは目を見開いて絶句した。
シモンは続けた。
「従者の方と見回りをしていたとき、盗賊のひとりと出くわしたそうなのです。二人で追っているうちにはぐれて、テリーさまはそのまま小屋に戻らなかったとのことです。
どこかで負傷しているか、または一味に捕らえられたか……。実は、テリー様はその日に帰路につく予定で、無事帰還なさったらお祝いにお招きされることになっていました亅
エリは大きな息をついた。
「なにかのまちがいであってくれたら……!アリア様にはお知らせせずにいてよろしいですね亅
シモンはうなづいた。
「アリア様にはしばらくは伏せておきます。エリの頭の中だけにいれておいて下さい亅
シモンは大きく歎息した。
「本当に、無事でお戻りくださるのを祈るばかりです。アリア様がどれほどお嘆きになるか……!これから幸せになろうというその時に…亅




