1章4 「伯爵家の執事は茶色い巻き毛のウェービーヘア亅
「さっそく娘のアリアに会わせたいが、すねて部屋から出てこようとしませんでな。どうか、あれの部屋に行ってもらえますかな、エリさん」
「どうか、ただ、エリ、とお呼びください。ではアリアお嬢様にご挨拶に参ります」
「執事に案内させましょう」
現われた執事は……、茶色のウェーブの髪をひとくくりにして垂らした、非常に端正な顔の男性だった。
(すごいきれいな巻き毛……)
「シモンと申します亅
と言ってエリを見た執事は、整った美貌に似合わない、ふわっとした、親しみのある微笑みを送った。
(あまり厳しそうな人ではないわね)
とエリは判断した。
「では、アリア様のお部屋まで案内しましょう亅
リードと伯爵を残して、いかめしい御先祖様の肖像画が並ぶ廊下を、年若い執事のシモンに連れられてエリは歩いた。美少女を男性にしたようなシモンの整った顔は薄暗い室内では、あたりから浮き上がって見えた。
「アリア様のことでは伯爵様はとても心を痛めておられます。エリさんが無事に解決してくだることと信じていますよ、伯爵様のためにも、そしてアリア様のためにも……亅
と、シモンは語りかけた。
「はい、精一杯努めさせていただきます亅
「リード様は、すぐにお帰りになるそうです。エリさんはすぐにお仕事にかかって、早朝から、アリア様が床につくまで、そばをはなれず、お世話しながら、有効な作戦をドンドン考えてくださるとか……。そのようにリード様にはお話をいただいています。足りないものがあったら、届けさせるからとのことづけでしたよ」
エリがしょっぱい顔をしていたのに気づいて、シモンは意外な顔をした。
「あれ、違います?もしかして聞いてませんでしたか?亅
「……もちろん、聞いておりました、ハイ!」
シモンはなにかいいたげな顔をしたが、プロらしく黙って、咳ばらいをした。エリも顔を改めてシモンを見た。
「シモン様、私のことはさん付けではなく、ただ、エリとお呼びください。ここのお屋敷に参りましたからには、私はその間こちらの使用人でございます。ゲストではございませんので、どうか皆様にも、呼び捨てで頂きますよう……。お役目があれば申しつけてください亅
「ではエリ、よろしく頼みますよ。役目といっても、今回はお嬢様のことだけをしてもらえればいいのです。当館の女中頭は交代したばかりの若輩者で、執事のわたしがメイドたちを実際に監督しているのです。立派にベテラン陣が取り仕切っているお屋敷からきたエリから見ると、頼りないメイドたちに見えるでしょうが、その分、余計ななわばり意識で張り合うものもいないので、自由にできるでしょう」
エリはそれを聞いて少しほっとした。ひと様の仕事の場所に乗り込んで、生意気を言って嫌われることは避けられないだろうと、覚悟していたのだった。
「みんな、どちらかというと、おとなしい、のんびりした子ばかりです。ほんとはそれではいけないのですが、ご主人様が使用人を厳しくしつけるのをお好きではないということもありまして。
そういう次第ですから、エリもあまり固くならなくてだいじょうぶですよ」
「わかりました、みなさんに受け入れてもらえるように、心がけます。
……ところでシモン様、あの……、伯爵様が困っておられる、お嬢様のこととは、どういったことなのでしょうか。私、実のところ、まだうかがっていないんです」
「うえっ!?」
と、今度ばかりは驚きを隠せずに、シモンはのけぞった。
「あなたは、つまり何も聞いていないのに、ここにやってきたということなのですか。度胸がありますね……、いや、さすがです。リード様が絶対の自信をもって進めてくださっただけのことはあります」
「それほどの度胸も、自信もあるわけでは……、いいえ、もちろん、どのようなお困りごとでも、お引き受けしたからには、手を尽くしてやってみます。先に内容を聞いていたとしても、私の考えでお断りすることは、どのみちできなかったでしょうし……」
シモンはこの少女は何者だろうという顔で、しげしげとエリを見た。
「あなたは全く大した子ですね。なんだか私も、お嬢様のことは、エリに任せればうまくいくような気がしてきましたよ……!」
「恐れ入ります。……解決しなくては、たぶん、私はウチに帰れませんので」
……そして、自分も結婚のチャンスをつかめませんので、とエリは心の中で 付け足した
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