3章39「なんのことをおっしゃっているのかわからない会話亅
次回より木曜日、日曜日投稿になります。必ず完結しますのでお付き合いください。
カイルは黙ってアリアを見下ろしていた。
座れとも言われていないので立ったままだったが、目線はちらちらと、アリアのドレスや、扇子や、リボンにとびまわった。
「そのドレスは素敵だね。ウォルバックの店のものだろう。すっかり、洗練されてしまったんだな」
「ありがとうございます」
顔色も変えずにアリアは答えた。
エリは感慨深い思いでアリアを見ていた。
初めて会ったころの、春先のアリアなら、こんな風に褒められたら、
(カイルはほめているのではなく、嫌みを言っているのかもしれないが)
きっと、あたふたしながら、
「え、そんなことはありませんわ。こ、これは、家のものが心配して、ちゃんとしたドレスを着なさいというから、仕方なく着ているだけで、似合ってないのはわかっているけれど……」
というように、自虐か謙遜かわからないように、弁解していたのだろうと思う。
おそらく、カイルもそう思っているのだろう。自分に夢中だったはずの、世慣れない娘が、美しく装い、言葉少なく、落ち着きをもって、あっさりと自分を拒絶している……。
どうやって、穏やかにカイルにお引き取りいただくかとエリアが考えを巡らせているところへ、菜園から摘んだ青菜のかごを持ったメイドのポリーが屋敷へ歩いていくのが遠くに見えた。エリは、念を込めてポリーを見ているとポリーが振り向いた。
エリは、執事のシモンを呼んでもらうにはどうしたらいいかと考え、自分の頭の横でひらひらと手を振って見せた。これは、
「フワフワ巻き毛のシモン様を呼んできて」
との意味だった。
ポリーは同じポーズをしながら、脇にかごを抱えて、考えている風だったが、はっと気づいたように頭から肩にかけて、ヒラヒラと手を動かし「フワフワ巻き毛」のジェスチャーをし、大きくうなづいてから、お屋敷にパタパタと走っていった。
着席もすすめられないことに、カイルはとうに拒絶の意味をくみ取っているはずだが、それでも、なんとかアリアの心に関心を呼び覚まそうとしているようだった。
「君はどうやら、僕がしばらく会いに来られなかったことに、すねているようだね。無理もない……、僕と君のように、深い魂の会話ができる相手というのは、そうはいないというのに、僕はこのさすらいを運命づけられた身とはいえ、君を孤独のままにしてしまった……。
僕の不在が、君はつらかっただろう……?」
「あら?まったく平気ですわ。御心配には及びません」
「……んん、そうだね、僕の態度も悪かった。僕は、自由に結婚もできない身だとか言ってみたりして。まあ、君ならわかってくれるだろうと思っていっていたんだが、そういうことではないんだ。
二人で力を合わせて、それぞれの家を説得すれば、それもかなわないことじゃない。可哀そうに、君は意固地になってしまったんだね」
「何のことをおっしゃっているのか、よくわかりませんわ」
「……君は、まったくもって、美しい!」
突然、話の脈絡もなく、噛みつくように叫んだカイルにも、
「ありがとうございます……」
あっさりと興味がない顔で、アリアは答えた。
「その扇子も素敵だ」
アリアはあおいでいた手を止めて、思わず自分の扇子を見た。そして、黙ってエリに顔を向けた。アリアの表情はこう言っていた
(なにそれ)
エリは思わず吹き出しそうになったが、まばたきをしてごまかした。
アリアは子犬を地面におろして、言った。
「少し遊んでおいで、カイザー亅
「かわいい犬だ亅
「そうなんです……!亅
アリアは初めて心からの笑顔になった。
「そんなに犬が大事なら、僕は犬以下ということだな、君にとって亅
「あら亅
驚いたように、アリアは目を見張った。
「そんなことはありませんわ亅
と、力を込めた。
「カイザーは大切な家族ですもの。よその家の方と比べて、以上も以下も、ありませんわ。思いもよらないことです亅
犬より下だと言われたカイルはムッとして黙った。




