3章34「愛する人の代わりに、心を癒やしてくれるのは亅
テリーは立ち上がった。
「アリア嬢、しばらくお別れの間、僕の代わりに、といっていいのかどうかわかりませんが、優しいあなたのそばにいて、僕の代わりにあなたを守るために、用意していたことがあるのです。どうか、気に入っていただけたらと思います……」
そう言うと屋敷の方へ向かって手を振った。遠くから、フワフワの毛をそよ風になびかせて、執事のシモンがかごのようなものを抱えて走ってくるのが見えた。
「シモンに預けていたのです。アリア嬢どうぞ、ご覧になってください」
アリアはエリに支えられて、よろめくように立ち上がった。泣き笑いのような顔のシモンが、両手に抱えていたかごに向かって、アリアは近づいた。
すると中から、
「クーン」
と甘えるように鼻を鳴らす音が聞こえた。アリアがかごをのぞき込むと、薄茶色の毛並みをした、可愛らしい子犬がアリアを見あげた。
「まあ……」
と言ったきりアリアは子犬を見つめた。
「アリア嬢は犬がお好きとうかがいました。どうか可愛がってやってください」
アリアは震える手を差し伸べると、子犬を持ち上げ、胸に抱いた。
「テリー様……」
「この子はまだチビですが、きっとあなたを守る立派なしもべになります。僕も、領地で勤めを果たして、自分がアリア嬢を愛するにふさわしい男だと、両親に、いえ、あなたに思ってもらえるようはげむつもりです」
アリアは瞬きで涙を押し込み、子犬を胸に抱いたまま、がんばって笑顔を作った。
「どうか、ご無事で……。お待ちしています、テリー様……」
**
「こっちよ、カイザー」
アリアは優しく呼びかけて、駆け寄ってきた子犬を膝に抱き上げた。やわらかい毛をなでていると微笑みが浮かんだが、押えられないようにためいきをもらした。
「この犬種は大きくなりますよ。今はこんなにぬいぐるみのように可愛らしいけれど、すぐにりっぱになるでしょう」
リードはカイザーと名づけられた子犬を見下ろして言った。
「それではこんなふうに抱っこしていられるのも今のうちだけね。この子をなでていると気持ちが休まりますの。ね、カイザー亅
カイザーは小さな舌を出してのぞき込むアリアの顔をなめた。
「あら、うふふ亅
リードは手の中のスコーンをひねりながら、尋ねた。
「テリー氏からは便りがありますか亅
お茶を注いでいたエリは、リードが遠慮なくデリケートな話をし始めたので、ぎょっとなった。
「ここ半月は何も……。旅立ってすぐの頃は毎日のようにお手紙をいただいていたのですが、……きっとお忙しいのでしょう」
アリアはそういうとため息をついた。
「ご無事ならいいのですけれど……」
リードはうなづいた。
「きっと大丈夫ですよ。彼は責任感のある男ですから、仕事に一生懸命になって、ひまがないのでしょう。心配いりません。
僕と彼は、何度か一緒に狩りをした仲です。不器用で、自分より他人を優先してしまうような人間ですが、それだけ信頼できる、誠実な男だと僕は思いますよ」
「ええ、本当に亅
とアリアは答えた。
「早く帰ってくるといいですね」
「リード様、ちょっとこちらへ」
エリはリードに目で合図を送ると、と部屋の隅へ連れて行った。
「リード、どうしてアリア様に、あんなにズケズとテリー様のことを聞くの?」
「いいんだよ。みんなはれ物にさわるように、テリーの話を避けてるけれど、アリア嬢はむしろ話をして、不安を紛らわせたいんだよ。
それに、男性からもテリーの評価を上げておいた方がいいだろうと思ってね」
エリは疑うような目でリードをじっと見た。
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