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3章31「 もし、時間をかけてアリア様が考えたいのでしたら……亅

「どんな道を選んでも、生きている限り困難があるでしょう。人生はずっと同じではありません。変化があったり、大変なことがあったり、それは避けることができないものです。

でも、自分で選び取った人生を歩んでいたら、きっと、力を出すことができるのだと、私は思うんです……」

「そう……、当然よね。私、結婚したら、夫になる方が私を幸せにしてくれて、自分は何もしなくていいような気がしていたけれど、考えたらそんなわけはないわ……」


 アリアはエリを見つめた。


「結婚したら、夫婦になるのですもの、おたがいに支えあって、助け合わなくてはいけないのね。私、自分だけが甘えて、頼って生きていけるような考えでいたけれど、浅はかだったわ……。

妻になり、そしていつかはお母さまになるのですもの、フワフワした気持ちでいてはいけないわ。でも、こんな、優しい立派な方に愛されて、人から見たら幸せで、恵まれているようなときに、迷ったり困ったりしている私が、お母さまなんかになれるのかしら」

「大丈夫ですよ。その時が来たら、自然に力が出てきます、きっと。アリア様なら、立派なお母さまになれますよ」


「私……、お母さまが生きていてくれたらって、思うわ……。優しい、いいお母さまだったって、みんなはいうけれど、私、ほとんど覚えていないの……。だから、お母さまってどんなものか、本当はよくわからないのよ」


 エリはアリアの手をなでながらうなずいて聞いていた。


「でも、きっとお母さまは、私の幸せを祈ってくれているような気がするわ」

「はい、その通りですよ」


 アリアは少し笑って見せた。


「話していたら、少し心配な気持ちが薄らいだわ。ありがとう、エリ。私、ちょっと考えすぎだったのかもしれないわね」

「アリア様、不安になったり、困ったりするのは当然のことですよ。大事なことを、人生で選ばなくてはいけない道にさしかかっているのですから。

でも、もう少しゆっくり考えたいのなら、このエリがお手伝いします」

「どうするの」

「テリー様がプロポーズをしようとしたら、ちょっとおじゃまをします」

「ええっ!?」


「正確に言うと、プロポーズするムードになったら、雰囲気をぶちこわします

「ほんとうに?」


 アリアは笑ってしまった。


「すごいわ、エリ。どんなふうにするの」

「そうですね。てっとり早いのは、テリー様が大事なことを言いそうな雰囲気の時に、割って入って、

『お茶のおかわりはいかがでしょうか!』

と大きな声でじゃまをするとか、でしょうか」


 手をたたいて、アリアは面白がった。


「いいわね……!私、見てみたいわ。でも、そんなことをされたらがまんできずに笑っちゃいそうよ」

「なにか、扇子やハンカチみたいなものをご用意した方がいいかもしれませんね。お顔をかくせるように」

「うふふ。私、なんだか楽しみになってきたわ」


 エリはヘアブラシをとりあげて、ふたたびアリアの髪をとかしはじめた。


「アリア様、テリー様が来られるときは、今まで通り、私はあまり遠くないところで控えていますから、何か困ったことがあったら、合図を送ってください。

扇子を振るとか、ハンカチを口元に当てるとかでもかまいません。いつでも、私がお助けしますから、安心していてください」

「わかったわ。エリがいてくれるなら、だいじょうぶね」

「もし、テリー様がそれでもプロポーズをなさったら、すぐにお答えしなくてもだいじょうぶなんですよ。

お礼を言って、大切なことなので、よく考えさせていただきます、と言っていいんです。ほんとうにそうなのですから」

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