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3章30「愛した過去、愛される今。道を決めるのは自分自身亅

アリアはエリを見つめた。


「ねえ、エリ、カルス様は私の相手をするのは、気まぐれか、またはお金目当てで利用するためなんでしょう?エリにはわかっていたのよね?亅


エリはアリアの視線を受け止めて、うなずいた。


「おそらくそうなのでしょう。でも、それはアリア様のせいではありません。お会いしたことはありませんが、おそらくカルス様という方は、心に愛がない方なのでしょう……亅

「心に愛がない……亅


と、アリアはつぶやいた。


「はい、または自分だけを愛している、と言ってもいいかもしれません。

自分そのものや、自分をドキドキさせてくれる刺激が大事な人はいます。そういう人でも、女性を好きになることはありますが、静かに大切にする愛というよりは、走りながら、追いかけながら、手に入らないものを求めていく、という感じではないでしょうか」


「そうかもしれないわ……。あの方は、社交界で目立ってキラキラした女性を追いかけて、プレゼントをして、でも、うまく仲良くなってしばらくたつと、飽きたように離れてしまっていたのよ……。私はいつも、噂で聞いたり、カルス様のお話から気づいたりしていたけれど……亅


アリアは目を伏せて首を振った。


「私、本当は知っていたのに、自分に都合のいいようにねじ曲げて受け取っていたのね。カルス様が色々な女性に近づいて行くのは、気まぐれなゲームみたいなもので、本当に魂が通じ合っているのは、そんな軽薄な付き合いを超えた、長年のお友達の私だけなんだって……。

自分だけはあの方の特別な存在だと思いこもうとしてたのよ。でも、なんてことないわ、本当は女性として見てもらえていなかっただけなのよ。今となったら、よくわかるわ亅


エリを見るアリアの表情には、以前よりずっと大人びた様子があった。


(成長なさった)


とエリは思った。


「人の心は不思議ね、エリ……。カルス様のことを『心に愛がない』とエリは言ったけれど、この私自身もそうかもしれないわ……亅


とアリアは寝間着の胸を押さえて、考えながら言った。


「私をいい加減に扱ったカルス様を好きになって苦しんでいたのに、他の方に自分が大切にされるようになったら、だんだん気持ちが薄れてしまっている。それなのに、私を思ってくれるテリー様のことを、どうしたらいいかわからなくなっている……。

テリー様のことは嫌いじゃないけれど、いえ、少しずつ好きになっているのかもしれないと思うけれど、以前カルス様に執着していたころのような気持ちではないわ。私、気持ちを一方的に送るか、一方的に受け取るか、そればかり……。

愛してくれる人に愛を返せなければ、愛し合うことはできないでしょう?エリ?」

「アリア様……亅


エリはアリアの手を取った。アリアは揺れる瞳でエリを見つめて言った。


「エリ、私、自分の心がわからない。人を好きになって、簡単に忘れてしまえる自分の気持ちが……。

このまま何も考えずに、テリー様と結婚してしまって……、もし、申し込んでくれたらだけれども、それで幸せになって、お父様も、妹も、家の皆も喜んでくれるならそれでいいじゃない、とも思うけれど……。まだ、迷っているなんてワガママよね……?亅


エリは首を横に振った。


「ワガママなんて、そんなことはありません。アリア様の人生なのですから、自分の思うように決めていいんです亅

「私の、人生……?亅


エリはうなづいた。


「そうです。誰かのために人を好きになったり、好きになったお返しにこちらも好きにならなくてはならない、そんなことを思うことはありません。

結婚のこともそうです。申し込みをされたから結婚する、家族が安心するから結婚する、そうやって自分の気持ちにフタをして人生を決めてはいけないんです。

たとえ、自分の決心でしたことと同じ結果になったとしても、仕方なくした結婚では、なにか困難があったときに、勇気を出すのがつらいことがあるかもしれません」

「……困難があるのね……」

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