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2章27「ひと目で彼女の素晴らしさを理解したことになっているひとめぼれの威力亅

 テリーは立て続けに飲み物や食べ物をアリアにすすめていた。録画が終わり、現在の様子が映っている。テリーはまた、アリアのために飲み物を取りに席を立って行った。


「エリ……?」


 とアリアの小声がエリの耳に届いた。


「アリア様、いかがですか?」

「やっと通じたのね、エリ。話しかけてもいないんだもん……。私、ずっとニコニコしてることしかできないのよ、これってどうなの?」

「アリア様……。ご立派です。美しい令嬢らしい、完璧なご様子です」


「そしてあの方は、ずっとご自分のことをしゃべり通しなのよ……。私のこと、興味がないのかしら」

「とんでもありません……!おそらく、テリー様はアリア様をひと目見ただけで、すっかり恋に落ちてしまったんです。

もうすでに、アリア様のすべてを全肯定して、受け入れているから、あらためて、人となりを探る必要がないんだと思いますよ亅


「ホントかしら。私、ほとんどなにも自分のことを話してもないのよ亅

「アリア様の笑顔が、すべてを語っているのですよ。きっとテリー様は、アリア様のことを、優しく思いやりのある、心の美しい女性だと理解して、疑うこともないのです。その調子で、優しくお相手してあげてください亅


「わかったわ……。キレイにしてパーティに出るのは初めてで、緊張したけれど、いい練習になったわ。今日お会いしたテリー様も、ずっとしゃべっていてびっくりしたけど、素敵ないい方だったし……。

もう、お会いすることはないかもしれないけれど、楽しかったわ」


 エリは心の中で


(もう会わないどころか、これがはじまりです)


とつぶやいた。まだ、アリアのなかではテリーは「素敵ないい人」どまりだが、イヤな印象は持っていないらしい。今夜のところはこれで十分だろう、とエリは考えた。


 そうこうしているうちに、テリーが戻ってきた。両手には給仕から奪ってきたらしい丸盆を持っている。立派な体格のテリーが、華奢なグラスをいっぱいに乗せた盆を持っている不慣れな様子は、なんだか可愛らしくエリには見えた。


(がんばれ、テリー)


「アリア嬢、もう、どれがあなたの好きなものか、考えてもわからなかったので、全部持ってきました。どうか選んでください。あ、そうだ、何か食べるものもいりますね」


 赤い顔で、あたふたとテリーは言った。


「いいえ、もうお腹いっぱいですの。では、こちらのジュースをいただきますわ。ありがとう」


「僕は女性に不慣れで、狩りばかりしていたものだから、女の人と何を話したらいいかもわからなくて。でも、今夜のように、話が盛り上がって、楽しく過ごせたのは生まれて初めてです」


 アリアの顔には、


(盛り上がった……?)


という疑わしい表情が一瞬浮かんだが、すぐ笑顔にかき消した。


「あなたといると、どんどん話が浮かびます。あなたのように、優しく、思いやりのある素晴らしい方と一緒だと、こんなに気持ちが明るくなるんですね……!亅

「……まあ、そう?ですの……亅


戸惑い気味にアリアは返事をした。

テリーは大きくうなづいた。


「はい!その通りなんです。分ってくださるんですね。

やはり思った通りです、ひと目見たときから、あなたは僕の言葉や、この気持ちを、たちまち分かって下さるかただと、すぐに確信したんです亅

「まあ……、それは……、あの、よかったですわ……亅


テリーはブンブンと頭を振って同意した。


「そうですとも!アリア嬢、あなたの言う通りです。ああ、僕たちは、実に気が合いますね!亅


エリは吹き出しそうになったが、ぐっとこらえた。

テリーは赤くなった顔のまま、目をキラキラさせて、微笑んだ。アリアもその表情をみて、作り笑いではない、優しい笑みを浮かべた。

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