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2章25「そんなセリフで誘われても……困ります。結構、本気なんですね亅

「まあ、僕もいやいやミッションをこなしているわけじゃない。いろんなシチュエーションを楽しんでもいるし、僕の手際で、幸せな人になった人たちをみると少しはいい気分にもなる。一緒にミッションを遂行してくれる相棒も、僕が選ぶことがっできるしね」

「それはそれは。選んでいただいて光栄ですこと……」

「冗談じゃなく、本当に僕は、君を厳選して選んだんだ。

もちろん、恋人を失いかけていた君に機会を与えて救う目的もあるけれど、ちゃんと目的を果たしてくれるだけじゃなく、誰かを幸せにするという心を分かち合えるような、温かい気持ちで一緒にいられるような、そんな人に来てほしかったんだ。

そうじゃないと、ぼくのミッションは誰かに与えて、去るばかりの、とても殺伐としたものになってしまう」


「リードはどうして、そんなにミッションをこなさなくてはいけないの?」

「遠い昔、僕はある過ちを犯してね……。結局それを償わなくてはいけない羽目になった。僕は100人の女性の幸福を正しい道に修正しなくてはいけない。このアリア嬢を救うことができたら16人目だ。まだ道は遠いけれど、いつかは終わりがくるはずだ。とにかく終わりが来ると信じて、進んでいくしかない」

「……そう」


 リードはエリを振り返って、笑った。


「おや、どうしたんだい。僕が可哀そうだとでも思ってくれたのかな」

「まさか、あなたなんか」

「冷たいなあ、君は僕が選びぬいた、一緒に戦う相棒だよ。心の支えになってくれなくっちゃ」


 リードは体をエリに向けると、手を優雅に差し出した。折からそこへ、新しい楽曲が始まって、パーティー会場でも大きく人の波が動く気配がした。


「踊ろう、エリ……!」

「えっ……?」

「令嬢たちは無事に楽しい夜を過ごしているよ。今夜のところは心配はいらない。成功を祝って、二人で踊ろう。……いや、ぜひ、僕の願いを聞いて下さい、エリ。君と踊りたいんだ……!」


 リードの笑顔はいつになく無邪気で、断られるわけがないと信じているように楽しげだったので、それを見たエリの警戒心は解けてしまった。


「じゃあ、いいわ。でも私、踊り方なんかわかんないよ」

「大丈夫、僕が君を導くから」


 リードの笑顔は嬉しそうに輝いた。

 エリは右手を取られ、左手をリードの肩にかけて、楽しそうなリードの腕の中で、軽やかに回転させられた。


「目が回りそうよ、そっとして」

「わかった、ごめんよ」

「私、社交ダンスなんて、初めて踊ったわ」

「おや、僕が初めての相手か」

「そうよ。現代日本に普通に暮らしていたら、男の人と踊ったりすることは、あんまりないわ」

「じゃあ、今日が君のデビューの日だ」


 メイドの服装のままで、エリは芝生を踏みながら、人生で初めてのワルツを踊った。


「エリ……、君さえよければ、このまま僕と一緒に旅をしないか?」


 リードが踊りながらささやいた。エリは驚いて、リードの顔を見あげた。リードは優しくほほ笑んで言葉を続けた。


「アリア嬢の婚約を見とどけたら、僕はまた違う令嬢の人生を見守る役が始まる。君とは離れなくてはならない。

本当は、僕のアシスタントを探していたとき、道場の君を見て、こんな人と、ずっと一緒にいられたら楽しいだろうなと思っていたんだ……。

もちろん無理強いなんかはしない。君が恋人を大切に思っていることも知っている。だけど、少し、考えてみてくれないか……」

「リード……」


 エリはリードを見つめた。金髪が光の環のように優美な顔を囲んでいる。なんて美しい人だろうと、あらためてエリは思った。

エリの胸は高鳴った。

 こんな出会いではなく、大きな運命を課せられた男と、召喚された女という二人ではなく、普通の男女として、まだ大切な人がいないときに出会っていたならば……、とエリは思いめぐらした。


(私はどう思っていただろう……)


 一瞬、エリはリードと二人で時空の旅をする自分を想像した。さまざまな異世界を、手に手を取って、ワルツのように踊りながら一緒に流れていく自分を……。

 だが、そのイメージはすっと溶けて消えた。


(私は、そんな風に生きていくのはいや)


 リードは完璧に美しく、万能で、そして孤独な人だった。


(この人は遠くから眺めていたい人かもしれない。でも、そばにいて、同じ運命を共にしたい相手じゃない)

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