2章24「完璧に美しい男、その胸のうち亅
「ところて、君だよ。どうしてあの場面で、ガッと二人をくっつけようとしなかったんだい。令嬢の意志に任せていたら、いつまでも愛する人の胸に帰れないっていうのに……」
「そうは言ったって、むりやり結婚相手を押し付けるなんて、したくないの……。ご本人に選んだ道を歩んで幸せになってほしい」
「君は、お人よしだね……。だけど、そこがいいところだ。ほら見てごらん、あのテリーの顔を、恋する男、そのものだ」
エリは窓に身を寄せて、こっそりと室内をのぞきこんだ。頬を上気させたテリーがなにか、一生懸命語り続けている。アリアのほうは相手の話より、純粋にワルツを楽しんでいる様子だった。
「がんばってきたエリにもご褒美をあげなくちゃね亅
リードが指を鳴らすと、窓の華やかなパーティーの様子はかき消え、そこには、灰色の都会の夜の道が映った。
紺のジャケットに、スポーツブランドのナイロンバッグを肩にかけた男が、歩道を歩いてきた。バッグの口からは道着がのぞいている。
「アキラ……!亅
エリは思わず窓に駈け寄った。
「アキラ!私よ……!聞こえる?亅
「残念ながら聞こえてない亅
後ろに立つリードが言った。
「君の声は届いていないよ。彼から見たら、この窓はただの道ばたのショーウインドウだ……亅
「アキラ、アキラ……!亅
夜道を歩くアキラは警戒する様子もなく、エリの前を通り過ぎようとする。優しい瞳、すっきりとした額、ジャケットに包まれたしっかりとした肩がエリの目のそばに近づいた。
見送るエリの前で、やがて後ろ姿となり、歩く人達の陰になり、視界から消えて行った。
「アキラ……、もうすぐ帰るよ。待っていて、だからほかのひとのものになったりしないで……!亅
エリはしゃくり上げた。リードは黙ってそばに立っていたが、やがて手を上げて宙をひとなでするしぐさをした。
都会の夜道を映していた窓は、パーティー会場を透かす、普通のガラスに戻った。リードはハンカチを差し出した。
「ほら、涙を拭いて……。だから、早いとこ、令嬢を婚約させなきゃ、だろ。モタモタしているヒマはないんだから……。
それにしても、君は本当に彼氏に惚れているんだね。実際、それほどの価値のある男なの かな……?君がそんなに執着するほどの亅
「リードなんかにはわかんないよ……!あなたみたいに、何でもできて、ギョッとするほどのイケメンで、人間ばなれした人から見たら、誰もがつまんない奴にしか見えないにきまってるわ亅
リードはちょっと身を引いて、少し黙った。ややあって、
「僕はそんな、万能な存在じゃない……。君が思うような特別な人間ではないよ。まあ、変な運命に巻き込まれて、人とは違った変わった目にあっているけれどね。
……君から見れば、僕は血も涙もない、非情な神サマか、悪魔みたいなもんなのだろうけれど、本当はそうじゃないんだよ……」
エリはリードのハンカチで目をぬぐいながら聞いていた。リードはしんみりとした調子で続けた。
「こう見えて僕だって、つらい時も、孤独な時もあるのさ。だからといって、みんなの幸せをねたんでいるわけじゃない。僕には手に入らないものを、僕以外の人は、しっかりとつかんで、離さないでいてほしいと願っているんだ……」
「それなのに、婚約目前の私を現世からこの世界に引っ張り込んだのね」
「言っただろう、君の恋人は、あのままでは他の女性のものになるはずだったって。ただ、彼が不誠実だったわけではないんだ……。仕方がない事情があるんだよ。ただ、今は教えられない」
エリは黙ってリードを眺めた。リードは遠くを見るような目で、華やかなパーティーの様子を眺めていた。どことなく寂しそうな影が、端正な横顔に浮かんでいた。
この美しすぎる男は一体何者なのだろう、とエリは改めて思った。
「あなたのいうことって、どこまで信じていいのかしらね」
「そうさ、全部ウソかもしれないしね」
リードはいつもの明るい意地悪な調子を取り戻して、気にしないように笑った。
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