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1章2「迷える令嬢を救うためにはうってつけの人材(元ブス)亅

 清潔感のある感じのいいルックス、まじめな勤め人のアキラは、もし婚活市場で会っていたなら最高の優良物件だったが、はじめのうちエリは、アキラを恋や結婚の相手として、まったく意識していなかった。道場でのエリは、髪を振り乱し、化粧もはげたままの道着姿で、稽古に没頭していて、出会いは頭の外にあったのだった。


逆に、そんなエリのひたむきな姿がアキラの心を捕らえたのだから、なにが幸いするかわからない。


 順調な交際が続き、そして「大事な話」が到来したのだった。エリは幸せをつかもうとしているはずだった。だが、アキラが奪われようとしている?自分より7歳若い女に。

7歳という半端な数字に、ぞくっとするようなリアリティがあった。

 

 ため息をつくと、エリは地べたに座り込んだまま、空を見まわした。木々の梢には新緑が揺れ、レースのような柔らかな影を宙に描いていた。


「さあ、説明だよ。君に与えられた時間は、次の週末、夜景デートの待ち合わせまでの一週間。

だが、安心していいよ。君の世界の1日はここのひと月だ。つまり君には7か月間の猶予がある、がんばってね」


 にっこり笑うイケメンに、エリは仏頂面を向けた。


「令嬢の成婚をプロデュースする、まさに君にしかできないミッションだ亅


リードは言いながら自分でうなづいた。


「幼い人たちに作法を教えてきた職歴。がっつりの婚活経験。つまり自身も、婚活に苦労して、ブスからほとほどの美人に変身した成功体験亅

「ブスとか言わないで。しかも、ほどほど、って、なんなの、失礼でしょう、それ亅


リードはまったく無視して、言葉を続けた。


「そのように若い女子の気持ちに寄り添える素養、そして、武道の心得がある心身のタフさ。まさに、君にしかできないよ、エリ」


 リードは見上げるエリに手を差し出した。


「行こう、僕の屋敷で支度をしよう」

「だいたい、あなたは一体、誰ですか」

「おや、とっくに名乗ったじゃないか、僕はリード。君の友達だよ」


 にこやかに輝く美青年の笑顔の奥から、とつぜん太い、しわがれた、低い声が響き渡った。


「この世界にいる間は僕が君のあるじだ。許された、限りある時間のなかで、使命を果たさねば、欲しいものはその手に入らぬぞ……!」


 声にならない悲鳴をあげて、エリは手を引こうとした。だが、リードは白い手を握ったまま、エリを離さなかった。

明るい青年の声に戻って、リードは言った。


「……僕は転移者さ。いや、トラベラーというべきか。いろいろな時空を、さまざまに立場を変えて渡り歩いている。時には貴族の子息、時にはラクダで砂漠を渡る商人、またある時はタクシーの運転手……。

時空の中には、いくつもの違う時代と、違う前提の世界が存在している。そして、ときどき、それぞれの世界が何かの拍子にほんのちょっとずれるときがある。そんなとき、おせっかいをするのが、僕のつとめ。

でも、なんでも自分で片付けるのに少し飽きてきてね、手助けにちょうどいい人物をスカウトして、要所要所に配置する。最近はそんな感じなんだよ」


 リードは言葉を区切って手を離した。


「そうはいっても、ただ働きはさせない。務めを果たしたアシスタントには大きなごほうひをあたえるのが僕のやり方だ。君もそのために取引に応じたはずだ。後は進むだけさ」


 言葉を区切って、エリの決意を測るように顔を見つめた。


「この世界は危機に瀕してる。つまり、ある令嬢が、結ばれるべき男性と遠ざかろうとしている。令嬢が産む女児が成長したあと、皇太子に嫁ぎ、やがて二人の間にこの国を変える名君が産まれることになっているのに、どうも、変な方向へそれていこうとしてるんだ。……ちなみに、ここでは僕は、さる侯爵家の社交的な三男ということになっているが、まあ、化けてるんだね。侯爵家に実は三男はいないのさ」


 混乱した頭の中で、エリは自分を落ち着かせようとつとめた。目の前の、この世のものならず美しい男は、悪魔か、天使か。

いずれにしても自分が太刀打ちできるような存在ではないことは明らかだ。運悪く、このような存在に目を付けられてしまった自分の不幸を呪いたくなったが、


「僕は選択肢を示したよ、選んだのは君だ」


 そうだ、自分は選んだのだった。あんなに恐ろしい闇のなかで、それでもアキラを失いたくない、と強く思ったのは確かだ。連れてこられたのは無理やりだとしても、何が欲しいか決めたのは自分の意思だと、エリは居直りのように腹を決めた。


「もし、ミッションが果たせなかったら、私はどうなるの」

「残念だが、ただ元の世界に帰って、はいサヨナラ、とはいかない。次の課題を与えられて、また別の世界を僕と一緒にさまようことになる。そうなってから戻っても、もう世代が変わっているけどね」


「浦島太郎になるということね」

「それは君次第だ。エリ、君ならできると見込んで僕は連れてきた。ぜひ、その胆力を見せて、君自身と、迷える少女を救ってくれたまえ」


 エリは、表情を変えずに、町の屋根の連なりを遠く眺めていた。そして、少し息をつくと、答えた。


「オ・ス」

そして空手の構えをした。

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