1章18「褒められ慣れてるみたいに『ありがとう(微笑) 』が美女の返事です亅
「では、リード様にもうかがって見ましょう。ところでリード様、何をしに来たんですか」
「ひどい言い方だな、エリがどうしたか、心配していたのに」
「心配だなんて、いったいどの口が……、いえ、アリア様のことです。実は先ほどから、およばれの時の作法について、お話をしていたんです。アリア様の笑顔を見て、リード様はいかが思われましたか」
リードは腕を広げて、感激した様子を見せた。
「もちろん、なんて可愛らしい、素晴らしい令嬢だろうって思ったよ!心からそう感じたのです」
言葉の最後はアリアに向け、リードはにっこりとして見せた。
「え……、そんなわけは、だって私なんか、可愛くないし、地味だし……」
と、アリアは赤くなって口をとがらせると、黙ってうつむいた。
「アリア様、ほめられたときは『ありがとう』と笑顔だけで、十分です。否定したり、自虐したりはいりません。
あっさりと受け流しても、謙遜を知らない思いあがった令嬢だとは誰も思いませんよ。賞賛の言葉は慣れっこだというように、さらりと応対するといい感じに、すてきに見えます。さ、がんばって……」
アリアは改めてリードに顔を向けると
「ありがとう……」
と微笑した。
「練習したばかりですが、とてもうまくできましたね。では、リード様に、もう少し聞いてみましょうか。
先ほど初めてアリア様をご覧になったとき、まだほほ笑む前はどう思いましたか」
「かわいい方だなと思ったよ、もちろん。
そして、お顔がなんだか沈んで見えたので、お疲れなのかな、それとも、僕のことをお嫌いなのかな、とちらりと思ったかな……」
エリが疑わしそうに言った。
「それは本気ですか?リード様みたいな方が、自分が嫌われているかどうかなんて、考えてみることがあります?」
「僕を何だと思っているんだい。だって、もしかしたら知らないところで、エリが僕の悪口を吹きこんでいるかもしれないじゃないか……。
けれど、アリア様が可愛くほほ笑んでくれたから、そんな心配も吹き飛んで、ああ、素敵な方だなとしみじみうれしくなったのです」
アリアはびっくりした顔でリードの言葉をきいていた。
「こんな輝くような美しい男の方でも、私の笑顔のあるなしで、そのように風に思われるなんて……。
私、いままで、どんなに出会った方に、機嫌が悪いのかな、自分が嫌いなのかな、と思わせてきたのかしら……。 私の表情で、相手の気持ちが変わるなんて、まったく思ってもみなかった……」
考えに沈むアリアに、
「ちょっとだけ失礼します」
と声をかけて、エリはリードを声の届かないところまで引っ張っていった。
「作戦くらい、教えてくださいよ。自己流でやるしかなかったじゃないですか亅
「それも君の仕事のうちだ。首尾よくいってるかい?」
「まだ始めたばかりよ。なんとか、アリア様の信頼を得るところまではこぎつけたけど……」
「さすがはエリだ」
「私のことより……、聞きたいことがあるの」
エリは声を絞った。
「ミルヘザー子爵家次男のカイル様ってどんな人。ここの執事様によると、あまり良くはない人みたいだけれど」
「ああ、通称『くわせもののカイル』だ」
「やっぱりそうなのね」
「こちらの令嬢が執心なのがそいつだ。控えめに言ってクズだし、ありていに言えば詐欺師だ。
エリ、君のミッションはつまりカイルを忘れさせて、結ばれるべき男性と愛し合うように仕向けることだ」
溜息をエリは落とした。
「まあ、そうよね」
「世慣れないお嬢さんだから、あんなのに心を惹かれてしまうんだ。十分にきれいなんだから、もうちょっと社交の場に慣らして、崇拝者を山ほど集めてちやほやされたら、目が覚めるだろう」
エリは大きくうなずいた。
リードはあごに手を当てて考えた。
「そうだな、あのしかめっ面と猫背を直して、……あとあの古臭いドレスをもうちょっとなんとかして、髪ももう少し、いやだいぶ本気で手入れして……、と。やることがいっぱいあるなあ、がんばれエリ!」
エリは冷たい目で、リードを見た。
「そんなの、私に頼むより、あなたの魔法でチャチャっとやっちゃえばいいんじゃないの?
なんだって、できるんでしょ?私の顔を変に見せたり、自分の顔を絶世の美男子にしてみたり。それができるなら、わざわざ私になんか頼まなくたっていいじゃない」
リードは口を尖らせた。
「僕は魔法使いじゃない。できるのは、大きいところでは転移と、召喚。あとは、見かけを若くすることとか、小さな技とかぐらいだよ。
もともと、ただの人間なんだから、そうなんでもかんでも、できてたまるかい」
「?!」
エリはまじまじとリードを見つめた。
「ええ〜!じゃあその、ふつうじゃない美しい顔は、自前なの?」
「そこ?」




