1章15「『どうでもいい男性を恋の練習台にしましょう』は、ちょっとウソです亅
まだ続きます!
枕に顔を埋めて泣き続けているアリアに、エリはそっと声をかけた。
「アリア様……」
「エリ、おまえはうそつきで、イヤな子よ。もう部屋から出て行って……!」
「お望みでしたら、そう致します。でも、アリア様、私が言ったのは『今』のことだけです。これから、その方の心に恋を生まれさせればいいことです」
涙にぬれた顔をあげてアリアはエリを見た。
「そんなことができるの?今までだって、ダメだったっていうことでしょう?あの方のためのパーティーを開いたり、旅行のために必要なブーツをあつらえたり、手袋を買ったり、馬車を雇ったりしてあげたのに……。それに、あのカルス様をしつこく付け回すどこかの奥方をあきらめさせるために注文した、貴石のついた髪飾り……!その代金を立て替えてあげたりもしてきたのに……」
(そんなことまでさせられてたの……)とエリは呆れた。
(小石ひとつのお土産の代わりに、他の女への豪華な貢物を買わされてるなんて……)
と、エリは怒りで体が震えた。
ひそかに深呼吸をして、エリは胸の内の思いを静めた。
(必ず、その男と手を切らせなくては)
と、涙顔のアリアを見ながら、決意を新たにした。
(この方が幸せになる方法を見つけて、本人の意思で、未練なく腐れ縁を断ち切るようにしなくてはならない。周りがむりやり引き離すのではなく)
エリはアリアの涙を絹の布でぬぐった。
(もし、性急に誰かと縁組をしたとしても、下手をするとその男は、人妻になったアリア様にも関わって、夫の財産に手を付けさせるようなことをしないとも限らない。そんなことをさせてはならない)
「アリア様、先ほど私が言ったことを覚えていますか。愛を成就させるためには『練習』が必要だと……」
「練習?」
「はい、このままではアリア様の恋は実りません、おつらいでしょうが、それが現実です。なので、今までとは違うやり方をしてみてはいかがですか。なにごとも、向き不向きがあります。いままでできなかったことをできるようになるには、少しずつ練習をするのがよいかと、私は思います」
「恋をさせるよう、練習をするということ?でも、いままでやり方がうまくなかったんでしょう?なにか違うことをして、カルス様に嫌われてしまったらイヤだわ」
「カルス様相手ではありません、他の殿方に試すのです」
怯えた顔になってアリアは寝具の端を握りしめた。
「ほかの男の人に、色目を使えというの!そんなふしだらなことをしたら、あの方に嫌われてしまう」
「大丈夫です。色目なんかを使う必要はありません。若い貴婦人らしく、すっきりとした感じのいいドレスを着て、背筋を伸ばし、優しいほほえみを浮かべていればいいだけです。これは、世の中の礼儀にかなったことで、何ら非難されるようなことではありません」
(そう、ゴミみたいな相手へのアリア様の片思いを燃料にして、出会いのフィールドへ参戦していただきます!広い外界に出たら、おクズ様のクズ加減が、よく見えるようになるでしょう)
「でも、他の男性からプロポーズされてしまったら、あの方は去っていってしまうでしょう」
「おそらく逆です。違う男性たちからたくさんの愛を受けるアリア様を見たら、カルス様のお気持ちは変わるでしょう。その時、アリア様の魅力に気付いて恋の対象となるかもしれません」
(本当に次男殿の気を引いてしまったら困るけれど)
とエリは思った。
「本当?本当に本当?」
すがるような目つきで、アリアは枕から身を起こした。
「それが本当なら、練習ぐらいするわ!でも、本当にそんなことで、他の男性から恋をされるようになるの」
「すぐには無理かもしれません、まずは練習が必要です。そして、ぜひお伝えしたいことがあります……」
エリはアリアのそばに腰をかがめた。
「アリア様は本当におきれいでいらっしゃいます。白い肌に、大きな瞳、絹のような豊かな黒髪を持つ、磨く前の宝石のようなお方です。決して、御自分の価値を低く思ってはいけません。世の皆様にも、アリア様の美しさを、よく見えるようにして差し上げましょう」
読んでくれてありがとうございます。
誰かに、読んでもらえるのは、うれしいことですね。
引き続き、エリとアリアをよろしく……!




