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1章14「そのおクズ様はアリア様のことは恋してません(金づるです※心の声)亅

昨日忘れたので、もうひとつ投稿します。

「エリの言うことが本当だとしたら、男の人が女の人をみて感じることって、めちゃくちゃね」

「実際、理屈が通っていないのです、としか答えようがありません」

 とエリは済まして言った。


 アリアは用心深い目でエリを見上げた。

「ねえ、そもそも、エリはどうしてそんなことを知ってるの?自信たっぷりだけれど、エリが男性になって考えるわけにはいかないじゃない?誰か男の方に教えてもらったの?」

「男性ではありません。男心を解く秘伝の本がいくつかありまして、それを読んで勉強いたしました」

「そう、どんな本」


(言えない……。『ぜったい結婚するための方法』『若くもないあなたが幸せをつかむ婚活』『恋愛弱者から卒業』なんて)

「魔法の書物です。今は手の届かない、私の故郷にありますが……」

「ふうん、エリはすごい魔法を知っているのね」

 エリはほほ笑んでうなずいた。


アリアは考える目になって尋ねた。

「……でも、今までエリが話したことって、普通の男の人の場合でしょう。カルス様は、そんな臆病ではないわ。女の人でも男の人でも何のこだわりもなく自分から話しかけるもの。カルス様に通じる話ではないと、意味はないじゃない」

「確かに、カルス様は、あまり人付き合いに恐怖心はない方なのかもしれませんね」

「そう、あの方はいつも大胆よ。平凡なそこらへんの男性とは違うわ」

得意そうにアリアは答えた。


「とはいっても、カルス様はまだ、アリア様に恋ができると、気づいていないのではないですか」

と、エリが遠回しな言い方をすると、アリアはきっとなってエリをにらんだ。

「エリにはわからないのよ、二人でいるときに、どんなにあの方が特別な想いを込めて私を見つめるか、そして、いろいろな言葉に、なんともいえない秘密の意味を持たせて、甘くささやくか……」


「アリア様、お耳の痛いことをこれから言います。どうか怒らないで聞いてくださいますか?」

 黙ってアリアはエリを見た。しばらく二人の間に沈黙が落ちた。ややあって、

「なに?言ってみて」とアリアがうながした。

「もし、カルス様が本気でアリア様に恋をしていたら、とうに結婚を申し込んでいるはずです。でも、そうではありません。カルス様は今の時点ではアリア様に恋をしてはいないでしょう……」

 アリアは怒りに燃えて、立ち上がった。

「エリ……!だから言ったでしょう、あの方は御自分の意思で婚約者を決めることができなくて……〇▽□……!」


あとは、言葉にならない声をまくしたてるアリアの前で、エリは口を出さずに、怒涛のようなアリアの怒りが落ち着くのを待った。

「それは、カルス様が、優しやゆえに気を使って言っている言葉です。つまり、社交辞令です」

(本当は、金づるを宙ぶらりんにつなぎとめていくための方便です)


「そうじゃなくて……」

「心から愛している女性がいるのに、婚約の希望を自分の両親にも相談せず、相手の女性にも申し込まず、はじめっからあきらめて、のほほんと笑っていられるでしょうか」

(本当は、言質を取られないようにあえて一切肝心なことを言わず、甘いムードでだましているだけです)


「そんなこと言ったって……」

「もう一度申し上げます、今のところは、……今のところはですよ……?カルス様は、アリア様を、恋しては、いま、せん……!」

(本当にまったくもって恋などしていません。その男はただの不誠実な遊び人です!)


アリアはベッドに身を投げると、わっと泣き出した。

(やっと結論を一つ言うところまではこぎつけた)と、ため息を押し殺しながらエリは思った。

(なんて、遠回しに話を持ってきたことだろう。だけど「本当に、本当な、本当のこと」をストレートに言ったところで、アリア様は反発するだけだけで、聞く耳をもたないだろうから……)

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