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1章12「恋愛する前の準備段階亅

「エリ、じゃあ、私はどうしたらいいの」

「そうですね……」


と、考えてみせたエリは内心、


(落ち着いて)


と自分に言い聞かせていた。


(うまく、話を運んでいかなければ……。ここが、アリア様を説得する正念場なのだから)


「アリア様は、練習をする必要があるかと……」

「練習?」


と、面食らった顔をしたアリアは、


「いったい何のこと、何の練習なの?それがカルス様と、何の関係があるの?」

「まさに、愛を成就するための練習です」


預言者のような口調で、厳かにエリは告げた。

 アリアは息を吸い込んだ。エリはその目を見てつづけた。


「愛にもいろいろな種類があることは、お判りでしょう。家族の間の愛、友情の愛、そして男性と女性の間の愛……」

「それは……、そうだけれど」


と、アリアはおののいた。

エリは重々しくうなずいて言葉を継いだ。


「家族や友情は、いくつもの人と分かち合える、開かれた愛です。ここには秘密がありません。隠す必要もありません。それに対して……」


 エリはヘアブラシをスツールに置いて、そっと立ち上がった。


「男女の愛は、ひとりの人とだけに結ばれる、特別な愛です。これは、想いあう二人だけの世界を作ってほかのものを締め出す、閉じた愛です」


 アリアは小さな口を両手でおおった。


「エリ、そんなふうに言われると、なんだか怖いわ」

「そう、その通りです。恋愛は、ほかの無邪気な愛とは違う、近づくのに恐れを含んだものなのです」


 少し考える風に黙って、アリアは切り出した。


「でも私、そんな恐ろし気な考えで、カルス様のことを思ってはいないわ」


「それは、アリア様が、カルス様のことを最初はお兄様のようにお慕いして、少しずつ水がしみこむように、恋慕の気持ちに変えていったからでしょう。でも、もし、カルス様が初めて出会ったときにいきなり、


『女性として君のことを特別な感情で好きになった、君も僕を特別に男性として好きだろう』


と切り出して来たとしたら、どうでした?」

「カルス様はそんな方ではないわ」


口をとがらせて、アリアはとがめた。


「でももし、そんな方だったら、イヤでしょう?」

「それはイヤ、というより逃げたいわ」

「怖いですよね。まさに、そこです。男の人にとっては、女性に恋を告げると『怖い人』と思われる危険があるんです。ですから、男性が恋をするには『私に私に恋をしてもいいですよ』という女性からの合図がないと、難しいんです……」


「ちょっと待って」


と、アリアは手を振った。


「こんがらがってきたわ、いったいどういうこと。なにが、女性からの合図なの」


 しばらく黙って、エリはアリアを見守った。そして、口を開いて端的に答えた。


「『笑顔』そして『女性らしい身なり』です」


アリアは失望の表情を浮かべ、椅子の背もたれに体を預けた。


「あーあ、エリも結局、みんなと同じことを言うのね」

「同じように聞こえるでしょう。ですがその意味は、まったく違います」


 エリは落ち着いて答えた。


「違わないわ、愛嬌がないから私はダメだという話でしょう。そんなの、聞き飽きたわ」


エリは静かに首を横に振った。


「アリア様、笑顔や女性らしい身なりは、男性の好むものだから必要だ、ということではありません。女性が自分が恋愛をする準備があると、世間や、殿方に示すためにあるのです」

「どういうこと?」


 上目遣いで尋ねるアリアに、エリは優しく答えた。


「まず、笑顔、について一緒に考えましょう。笑顔は、恋愛だけではなく、いろんな方に向ける合図の一種です。……アリア様は、他の方とお話したりするときに、緊張したり、自信がなくなったりすることはありませんか」

「あるわ、……というか、いつもそうよ」


「じつはそれは、アリア様だけではないのです。たいていの方は、笑顔のない方を見ると怖いのです。

一見、落ち着いた大人の方でも、例えば初めて会うアリア様に、じっと見つめられると、まるで自分の値段を読み取られているような気がして、落ち着かなくなっているのです、たとえ、表面では笑顔を作っていても」

「え?!私のような若い娘が相手でも?」


エリはうなずいた。


「中には全く気になさらない方もいるでしょうが、かなりの方が、何食わぬ顔をして、内心では多かれ少なかれ、笑顔のない方には警戒心を感じてしまいます、相手の方が、自分よりずっと若い方でも」

「そうなの……!私、まったく思いもしなかったわ。みんな、私のことを、魅力のない娘だとバカにしているのだと思って……、それで、……それ以上恥をかかないよう、身構えていたの……。


でも、ほかの人たちも心の中ではこんな私と話すことを不安に思っていたのだとしたら、よけい緊張をさせてしまっていたのね……」

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