1章11「想いがいくら強くても、告白成功にはつながらないのに亅
「あの方は、いろんなところに旅をしているの。見分を広めて、自分を磨くため、そして、カルス様の才能を認めて、引き立ててくれる方と出会うために」
(バクチで借金をしたり、人妻に手を出したり、悪さが過ぎていられなくなったら河岸を変えるってことね)
「旅先から帰ってきたときには、私のもとへきて贈り物をしてくれたわ。河原で拾ったきれいな小石や、貝殻や、咲いていた野ばらのようなロマンチックなもの……。
豪華な宝石が付いた髪飾りや、首飾りみたいなありきたりで、お金だけ出せば手に入るような当たり前のものではなく、そういう詩的なものを選ぶのがカルス様らしいところだと思うの、そして、私はそういう他人には理解できない価値を共有できる特別な相手だと認めてもらっているということなのよ、あの方もそう言ったわ」
「それはそれは……」
(アリア様のためにはびた一文使わないということね)
とエリは思った。だが、
(万一、アリア様の見立てが本当で、執事のシモン様が勘違いしているだけだとしたらどうだろう)と考えた。
念のため、世間に顔の広いリードに聞いてみよう。多方面から噂話や相談事が持ち込まれる彼なら、真実に近い情報を持っているに違いない。
「アリア様は、その方を心からお慕いしているのですね」
「そう、この思いの強さは他のどの女性にも負けないわ。あの方は魅力的だから、いろんな女性を引き付けているのは知ってる。でも、私のように、今まで他の男性を愛したことがなく、幼い頃からずっと思い続けているのは私だけだと思うの。
ねえ、エリ。この想いをカルス様に打ち明けてもいいかしら。それとも、心の中でずっと思い続けて、自然にあの方にわかってもらうほうがいいと思う?」
エリはぐっと詰まった。下手に告白などしたら、人でなしの次男坊は、君のその愛は本物なのか、とか何とか言って、ますます図に乗って、自分に有利なだけの要求をしてくるに違いない。
「アリア様、そのことは、そうですね、あわてて行動するのはよくはないと思います。慎重に、よく作戦を練ってからにしませんか」
「作戦?」
不審そうにアリアは問い返した。
「私の真心をありのままに伝えることに、作戦がいるの?」
「そうです……。少なくとも、今アリア様とご子息様は、お友達として仲よくしておられますね。残念ながら、もし告白がうまくいかなかった場合、いま、楽しく過ごしているお付き合いが、だめになってしまうこともあり得ます」
「え、どうしてよ、そんなことがあるの……?」
早くもアリアは泣きそうな顔になっている。
「人の心はわかりません、ご子息にとって、アリア様は天使のように可愛らしいお友達や、大事な妹のように考えていることもあり得ます。その時に、アリア様から女性としてお慕いしていると聞かされたら、良心的な男性ならなにかしらの責任を感じて、びっくりすることでしょう」
「……」
さっきまで浮き浮きと恋の話を語っていたアリアは、しぼんだ風船のようになった。
「その方は、家族の事情でしょうが、結婚も自由にできないご様子。その立場で、伯爵家のご息女の心を迷わせたとあれば、格上の伯爵様に対して面目が立ちません。ご子息は身を引いて、二度とアリア様と会えなくなるかもしれません」
(まあ、その気のない普通の男性ならそうするでしょう。女心につけこんで利用できるだけむしり取ろうとする、ろくでなしなら別だけれど)
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