表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

1/69

1章1「召喚されたのは、努力でブスを脱出したから?亅

「アリア様、メロメロに溺愛される美女になりましょう……!」

「エリ……?ほんと?こんな私でも、愛されるような人になれるの?」

「おまかせください。大丈夫です。アリア様が本来持っている美しさを、世間の皆さまにも見えるようにしてさしあげましょう……!」


**


突然、エリはデートの帰りに別世界に召喚されてしまった。それは地下鉄の階段を下っていたときだった。


いきなり暗い霧に包まれ、意識が遠のいていく……。その時、男の声が脳内に響いた


「結婚がしたい?」


誰の声がわからなかったが、夢うつつのまま、エリは答えた。


「ハイ……亅

「したいんだね。それから、ちょっとだけ大変だけど僕の手伝いをしてくれるかい?」

「手伝い?」

「そうさ。無理をしないであきらめるかい?それとも、結婚したい?」

「結婚したい、アキラと幸せになりたい……」

「OK、じゃあ、がんばるんだね」


ドン……!

突然の衝撃がきて、エリの意識は闇に呑まれた。


やがて、エリは目をさまし、自分がまぶしい陽射しに包まれて、大木のそばの草むらに倒れているのに気がついた。

半身を起こして 辺りを見回していると、樹木の影から、金色の髪をした冷たいほど美しく整った男の顔が現れ、エリを黙って見下ろした。

エリがたじろいでいると、男は不意に、美貌に似合わぬ、無警戒な笑顔を大きく広げて、エリに親しげに話しかけた。


「やあ、僕はリード。ようこそ、この世界へ。さっそくだけど、エリ、僕の仕事をサポートしてくれないか」


若葉の影が、リードの輝く髪に揺れていた。


エリはまだ、いきなり、中世風のこの世界へきた衝撃でボンヤリしていたが、はっとしてリードの美しすぎる顔を見上げた。


「ここはどこですか!?もとの場所にかえしてください!」

「もちろん、かえすさ。ただし、ミッションが無事終了したら、ね!」


エリは柔らかな草の上にペタンと座ったままだった。


「アキラのいる世界に帰して!もうすぐ……、きっと次のデートでは、プロポーズしてくれるはずなのに……」

「それは、その時にならなくちゃわからないさ」


完璧な歯ならびを見せてリードは微笑んだ。


「あんなに、婚活に苦しんできた君ならわかるだろう、本当に結婚できるまで、なにが起きるわからないんだって」


リードは、ウンウンとひとりで合点するようにうなづいた。


「君の大事なアキラくんは、このままだと別の女に出会ってしまうことになっているよ。7歳も君より若い、可愛いコだ。そして、その子が選ばれる。それでもいいのかい?」

「えっ……!?亅

「僕の頼みをきいてくれたら、その出会いを回避させてあげるよ……!


君の使命は、みんなにダサいと思われている陰気な令嬢を、とびきりの美女に変えることさ。ほら、君ならカンタンだろ?ダサブスからプチ美人に努力で変身したんだからさ」


リードは地面に片膝を付くと、エリのあごをつまんで、クイッと上げさせた。

顔を近づけられて、エリは視線だけ横にそらした。


「プチ美人……というのは失礼だな。少なくても、君の瞳はとてもキレイだ……」

「……離してください」


リードはあごから手を離すと、エリの口を手のひらでおおい、今度は横からプニっとエリの口をつまんだ。エリはヒヨコのような口になった。


「遊ばないで……!」

「ハハ、怖い顔すると、プチ美人がだいなしだよ。『婚活のプロ』がそんな顔をしたら、だめさ亅


リードの言葉に、エリは自分の婚活生活を振り返った……。


**

現世にいたころのエリは、婚活を始めてから、2年以上が経っていた。


結婚しようと思いついたころは、仕事ばかりの毎日に疲れていた。当然 彼氏はいない。

勤め先の予備校の幼児部門で、お受験に向けての、行儀や、あいさつを教えるクラスをエリは受け持っていた。週末に休めない仕事は、なかなか出会いが作れない。


思えば学校を卒業してからデートに行ったこともない。エリは自分が女として、どのように見られているのかと心配になった


「結婚したいんだよねー」

友人たちとの飲み会でエリは言った。

「出会いがないよね……」

口々にあきらめの返事が返ってきた。


そういう友だちは、寝ぐせのついた髪に、何年も着ている毛玉のついたカーディガンなどを着ている。似合わないメガネはなんとなく曲がっていたり、眉毛を描いていなかったりしている。


友人はおのれの鏡だ、とエリは悟った。


(ダサい……。そして、たぶん私が一番ダサい……)


エリは、友達と写っている写真をあらためてじっくり見たり、街を歩くとき、自分の姿が映るガラス窓や、姿見に注目するようになった。


なにが違うのかわからないが、世の中の女性と比べると、どうも自分のセンスはダサいらしいと、エリは気がついた。そして、自分がいかに、男性にとって魅力のない女だったかということを知って、今さらショックを受けた。


エリは評判のいい男性美容師に、恥じ入りながら、たずねた。


「私、ダサいですか?」


美容師は一瞬固まったが、


「ダサい、わけではないです」


と、苦しい答えをした。


「でも、もっと素敵に、いや、めちゃ美女になれます……!」


と、キッパリ答えた。


「今までのスタイルや、こだわりをいったん保留して、おもいきって変えてみませんか。僕にお任せいただけるなら、さりげなく流行を取り入れて、素敵にしてみせます」


モッサリしたヘルメットのような頭から、ゆるフワ愛されヘアーができあがった。


そして、メイク、ファッション、持ち物、姿勢や、会話……。人に習ったり、本を読んで勉強したり、ようやっと人並みのレベルまで達したと自分では思った。


デートはできるようになったが、結婚となるとまた話は別だった。

婚活パーティー、マッチングアプリ、そして最後に、結婚紹介所に行きついた。かなりの金額を投じたが、それでも自分が納得できる相手には出会えず、自己肯定感はどんどん下がる一方だった。


ついに、もう一生ひとりでもいい、とエリはあきらめた。それなら、見栄も、女らしさもいらないから、自分の心に正直に、やりたいことをやろうと考え、選んだ趣味は中学校までやっていた空手だった。

エリは道場に通い始め、すぐにのめりこんだ。


恋も結婚も忘れて、仕事帰りに道着を抱えて通っているうちに、思いもよらない出会いがあった。それが、同い年のアキラだった。

差替えました。2023/9/14

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ