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第7章 「アピールしなきゃ」

第7章 「アピールしなきゃ」

「セカンドぉぉぉぉ!」

 白組の司令塔であるキャッチャーが大きく叫ぶ。

 紅組の一番打者が、平凡なセカンドゴロを放った。

 しかし、正面のゴロ。その簡単なゴロを。

「あわわっ!」

 セカンドの優馬はついつい弾いてしまう。

 味方チームである白組のキャッチャーが大きな声で。

「まだ間に合うっ! 拾いなおして一塁っ!」

 その言葉の通り、優馬はボールを慌てて拾いなおして一塁へ送球。

 が、しかし。

「!」

 ボールが大きく逸れてしまう。

 大きく逸れたボールは、一塁側のベンチに座る未来の足元まで転がり。

 主審の郷田が。

「ボールデッド! ベンチにボールが入ったため、テイクワンベース!」

 試合が一旦止められる。

 優馬の悪送球により、無条件で打者走者が二塁まで行ってしまった。

「……」

 味方である白組の面々は何も言わない。

 ベンチに座っていた未来が。

「酷いわね。ミスに対してなんの掛け声もないなんて……」

 すると、同じく一塁側のベンチに座っていた紅組の神島が。

「そりゃ、そうや。勝つことが目的とちゃう。この試合は、個々のアピールが目的っちゅうこっちゃ。」

 神島の言葉に、鋭い視線を未来が送る。

「むしろ、腹ん中ではしめしめと思ってるんちゃう? ああいうミスは減点材料になるし」

 確かにそうかもしれない。

 今日の試合は、勝つことではなく、個々の能力を見るための試験にすぎない。

 元来味方であるはずの仲間も、試験の前ではみんなライバルとなる。

「チームワークや協調性は審査対象にならないのかしら?」

 未来が神島に尋ねると。

「おまえさん、本当にそう思って聞いとるのか? 最初にあっちの常務が言うてたやろ。『結果が全て』やって。野球は馴れ合いとちゃうんやで。プロの世界で聞いたことあるか? 優しくて協調性があるからプロに入れましたっていう奴。おるかいな?」

「……」

 神島はさらに続ける。

「ここにいる連中は皆、プロを目指すっちゅう奴がくる場所なんや。傷を舐めあう温いやりとりするところちゃう。喰うか喰われるかそういう世界なんや」

 厳しい神島の言葉。

 未来はスコアに、たった今起きたプレーを書き記す。ピンクのボールペンで。

 ゴロの表記を書いて【4E】と記す。

 エラーを示す【E】の文字。

 その【E】を見つめて。

 足元に転がったボールを拾って俯く優馬に。

「優馬! 何下向いてんの! キャッチボールの時言ったでしょ。送球の基本。」

 励ましながらボールをピッチャーに直接投げ返す。

「!」

「バシンっ」

 大きな捕球音。

 投じたボールは鋭く伸びて、取りやすい高さでピッチャーがキャッチする。

 その送球に思わずベンチの受験部員達が。

「すげぇ球だな。あのマネージャー」

「美人で元天才少女とか、さすがよな」

 神島が嗜める。

「しゃーしゃーとお前らもうるせぇなぁ、本当にお前らこの学園でプロを目指す気あるんか? あれくらいの球なら、股にええもんついとるお前らだって投げられるだろが」

 言われ受験部員の一人が。

「男の俺らからしたらしっかり投げれば、あれくらいは投げれるだろうけど、女子であんな可愛い上に野球うまい人なんてめったにいねーよ」

 興奮気味語る部員。

「女子とか男子とか関係ねぇ。あの女は逃げたんや。よぉ事情はわからんが、能力があっとっても野球を続けてへん以上、ただの見物人や。外野にいちいちリアクションとったって何んにもならへん」

 未来は眉一つ動かさない。

 冷静を貫く。

 自分のやるべきことに集中する。

 主審の郷田が試合再開を合図する。

 未来は大きな声で。

「セカンド! 左バッターよ! バントはないわっ! インコースに来たら、また打球が飛んでくるわよ」

 左打者がインコースの球を基本通りに打つと一二塁の間であるセカンド方向に打球が飛ぶことになる。それに、この試験においてアピールが必要な立場である彼らにとって、自分が犠牲となってランナーを一つ先の塁へ進めるバントなどするはずがない。自らのバッティングでアピールし、審査点を稼ぐことが目的であるからだ。

 神島が珍しそうな表情で。

「マネージャーがかけるような言葉かいな」

 笑いながら言う。

 すると、初球だった。

 その指摘したインコースにキャッチャーが構える。

 ピッチャーのボールはそのインコースに投じられ。

 その瞬間、二塁にいたランナーは三塁目指しスタートを切る。

(盗塁!?)

 未来が目を大きく開ける。

 投じられたボールを打者が引っ張り打つ。

「!」

 鋭い打球音。再びセカンドへ。

 今度は大きく空いた一二塁間の守りから遠いところへ、地を這うような強烈な打球が転がっていく。

「セカンドぉぉぉぉぉ!」

 白組のキャッチャーが叫ぶ。

「優馬!」

 未来も叫ぶ。しかし、その打球は簡単に一二塁間を抜け……

 と思ったが。

 寸前のところで優馬が横っ飛び。

 そこにいる。打球の先に。グラブを差し出し飛び込む優馬が。

 しかし、ボールはグラブに収まらず。

 そのボールはグラブに当たり、優馬の目の前にぽとりと落ちた。

 白組のキャッチャーが。

「まだ間に合う! ファースト投げろ!」

 と叫ぶが。

 ベンチに座る未来が叫ぶ。

「違うわっ! ホーム! バックホーム!!!!!」

 投球時にセカンドランナーがスタート切っており、既に三塁を回って、俊足の走者がホームへと向かってきていて。

 優馬は声の通りに。その声を信じて。

「バックホーム!」

 言いながら、ボールを投じる――


――『投げたい方向へ真っすぐに肩のラインを合わせて、軸足の土踏まずを垂直置く。』


 迷いなく腕を思いっきり振る。


――『真っすぐ左を足踏み出さないとボールは真っすぐ行かないし』


 未来のアドバイスを思い出しながら。


――『体が開くと腰、肩、肘、手、指先とうまく連動させて強いボールが投げられないの』


 優馬の送球は、鋭い伸びを見せて。

 これ以上にないキャッチャーの取りやすい絶妙なところへいき。

 ファーストへ投げるように指示していたキャッチャーが、慌てて構えなおし、ホームへ滑り込んでくるランナーに備える。

 そして…ボールをキャッチ。

「!」

 ホームを狙う走者が突っ込んでくる。

 タッチする。アウトか、セーフか。

 審判の郷田がコールする。 

「アウトぉぉぉ!」

 その声が澄み切った上空にこだまする。

 状況を見ていた受験部員たちが言葉を失う。

「よっし! ちょっとはアピールになったんじゃないの。優馬」

 小さく呟き、左の拳を握りしめる未来。

 横っ飛びでユニフォームに泥をつけた優馬は、顔を地面に打ち付け汚れてしまったが。

 一連のプレーを見ていた神島が。

「やるやないの。アイツ。今の強烈な打球を、まともに捕れへん詰めの甘さはあるが、根性だけはあるみたいやな。おい、須藤。俺らも準備するで。今日の守りは、俺一人で9回完封や。それで俺は合格。あとはしらん。万が一、紅組の俺らも1点も取れへんかったら、最悪は引き分けになるやろが、それは知らへん」

「おう、ブルペンでピッチングだな」

 二人はブルペンへと戻っていった。

 その後、1アウトランナー1塁から白組は何とか後の打者を抑えた。

 1回表。スコアボードには無事『0《ゼロ》』が刻まれたのだった。

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