プロローグ 「本当の愛は」
プロローグ 「本当の愛は」
嘘みたいな光景だった。
目の前には、静かに眠る綺麗な女性。
その瞳は閉じたままで。
現実に絶望した。
もう二度と開くことのないその目を真っすぐに見つめて。
私の声は震えていた。
震えて枯れたその声は、どんなに泣いたって、どんなに泣き叫んだって。
この人にはもう届かない。
私の気持ちは、もうこの人には届かないんだ。
全てを伝えたつもりだったあの試合。
伝えて叶えるはずだった約束の試合。
その約束を。
私の気持ちを。
「先輩……ごめんなさい……本当にごめんさい……」
今は謝ることしか出来ない。
謝っても、もうその声は伝わらない。
その思いは伝わらないんだ。
「先輩……ずるいです……先輩……結局、私……わからなかった」
私は先輩を愛していた。
先輩が大好きだった。
「約束したのにね……先輩が言ってた気持ちって……」
私は、先輩の顔のすぐ隣に。
叶えたはずの約束。
果たされるはずだった約束の一球。
「教えてください……先輩」
その硬式球をそっと。
そっと供えて。
「私に愛を教えてください」
枯れる声は気持ちを漏らすように。
大好きなあなたへ囁いた。