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6.初任務

 俺が横目で見ていることに気が付いたのか、ジョアンナがこちらを向いた。人がごった返す飯屋の中にいると言うのに建物の外を歩いている人が見えるなんて不思議な造りで落ち着かない。病院にもあったのだがこの透明な壁は魔法障壁や結界のような物だろうか。


「ハンバーガーなんて食べたことないでしょ?

 おいしい? どんなふうに感じるの?」


「何を言ってるんだ?

 肉サンドは今までも普通に食べていたぞ。

 こちらの世界のほうがパンも肉も柔らかいが味は最悪だな。

 どの食い物もポーションみたいな味がしやがる」


「ポーションって薬のことかな?

 化学調味料のせいかしら。

 アンタったら意外に繊細、オーガニックが好みなの?」


「相変わらず何を言ってるかわからん。

 しかし食い物にそう違いはなさそうだな。

 病院で出て来たのも粥だろう?

 味は異なるが食感は似たようなものだったし、果物もヨーグルトも食い慣れたものだ」


「なーんだ、ツマラナイ。

 もっとすごいリアクションを期待してたのにさ」


 奢ってもらっているのでお世辞の一つでも言ってやったら良かったかもしれんが、本当に何の感動もなく見慣れたものを食べたので大げさな表現はできなかった。しかし――


「ぶあっはっ! なんじゃこりゃ!

 魔法か!? 攻撃されたのか!?」


 俺が口にくわえたものを吐き出しながら辺りを見回すと、隣のジョアンナが牛の角を握ったかのごとく得意げににやりと笑った。


「流石にコーラは飲んだことなかったようね。

 それは若い子ならだれでも飲むような一般的な飲み物よ。

 全然魔法なんかじゃないっての」


「コーラ…… というのか……

 今まで食べたどんな果物よりも凄い甘さだな。

 それにこの口の中がやけどしたような強酸攻撃……

 こんなものを体に取り込んで害はないのか?」


「別に毒物じゃないから心配しないのー

 あーオカシぃ、もっと何かないかな。

 本当に別の世界から来たって実感がわいてきて楽しくなってきたー」


 どうにも合点がいかないが、どうやらジョアンナは俺の存在を娯楽か何かと考えているんじゃなかろうか。それでもコイツの言うことを聞いていないと生活がままならないのは事実、今のところはおとなしくしているしかないだろう。


 飯を悔いながらこの世界のことを色々と聞かせてもらうと見えてくるものがあった。人間は十八になるまでは子供とみなされ親の元で保護されながら生きていくらしい。そいつらが同じ場所へ集められ教育を受ける場所が学校であり、魔法や剣術を研鑽するために通うものと仕組みは大差無さそうだ。


 それにしても色々な記憶があると言うのに自分に関するものだけが欠落しているのは一体どういうことなのだろう。名前はいっさい覚えていないし、何者だったのかもあやふやだ。ただ一つ、武を極めんとして修行の旅をしてそれなりに腕が立つことははっきりと覚えていた。


 今のよりどころはこの腕っぷしだけであり、それを買われてジョアンナの配下になったのだから、それが思い込みでないことを願うのみである。


 そしてそれを確かめる機会はすぐにやってきた。


「おい、ジョジョ子、そんなガキと何してんだ?

 昨日はすっぽかしやがってよお。

 今日はちゃんと来るんだろうな、指名が入ってるんだぜ?」


「なによ…… その呼び方やめてって言ってるでしょ!

 それに今は学生タイムなんだから話しかけてこないでよ。

 誰かに見られたら面倒じゃないの。

 昨日だってオカさんに捕まってたんだからね」


「あのお前にご執心なロリコンオマワリか。

 たまにはいい思いさせてやってんのかよ。

 たっぷりサービスするから見逃してえ、なんて言っちゃってんのか?」


「そんなことしないっての!

 見りゃわかるようにデート中なんだからほっといてよ!」


「デートって、うへへへ、笑わせるなよ。

 ガキのお守りでもしているようにしか見えないぜ」


 どうやら話しかけてきたこの男とは良好な関係ではないようだ。しかし仕事に関するやり取りにも思えるので無関係ではあるまい。まあこういう下衆なやからはどこにでもいるものということか。必要であれば殺ってしまっても構わんだろう。


 俺はジョアンナの足を軽く小突き合図を送った。しかし意図が伝わらなかったのか蹴りかえされてしまいそのままだ。この不快な男はなおもここに留まろうとし、ジョアンナの肩に手を掛けた。


 さすがにこれは捨て置けん。俺は揚げ芋の切れ端を男の顔へぶつけて気をそらそうとした。しかし思いのほか勢いよく飛んでいき眼の上の辺りにあたったようだ。


「痛てえええ、何しやがったコイツ!

 ふざけやがって痛てえ目にあわせっぞ、ゴラアァ」


「ちょっと何してるのよ、コイツに手を出すのはヤバいって。

 普通の人じゃないんだからさ……」


 ジョアンナはなにか心配するように耳打ちをしてきた。俺も小声で言葉を返す。


「事情はよくわからんが嫌がらせを受けているように感じたのでな。

 護衛を仰せつかっているからには手出しはさせぬ」


 しかしジョアンナは立ち上がりカバンから何かを取り出してその男へ握らせている。おそらく金だろう。これ以上騒ぎを大きくしないためということなら悪いことをしてしまった。


「おい、こんなはした金で許されると思ってんのかよ。

 そのガキ置いていけ、立場ってもんを教えてやらねえとな。

 裏へ連れてってしっかりとシメてやるぜ」


「つまり俺とやりあおうって言いたいのか?

 お前程度の小者風情が?」


「ちょっとやめなさいよ、これ以上怒らせてひどい目にあわされたらどうするのよ。

 早くいきましょ、外へ出て逃げちゃえばいいんだからさ」


「なぜ逃げるんだ?

 こいつは犯罪者のように思えるんだが、警備兵は取り締まらないのか?

 やってしまって構わないならこの場で懲らしめてやれば良かろう」


「ごちゃごちゃうるせんだよ!

 この辺りで舐めた真似してタダで済むと思うなよ」


 やれやれ、こういう輩は台詞まで似通って来るものなのか。今まで似たような経験は散々してきているが、やられたことは一度もない。まあなくはないが子供時分までさかのぼる必要がある。


 ジョアンナは心配しているのか俺の背後で服を摘まんで引っ張っている。店内は騒然としているし、この場でやりあうのはおそらくまずいだろう。俺は男の後ろへついていき路地裏へと入っていった。


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