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異世界からやってきた、自称・王国最強のハラペコ戦士とギャルJKのおかしな同居生活  作者: 釈 余白(しやく)
第一章 世界を跨いだ出会い

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5.脱出

 数十年生きて来て大概の経験はしてきたと思っていたがそうではないことを知った。まさか平民に召し抱えられる日が雇用とは。いや、ダジャレを言っている場合ではない。こうでもしないとこの世界で生きていくすべを見つける前にのたれ死んでしまうかもしれないから仕方ないのだ。


 そうなる前に帰る方法を見つけるか、または適応できるよう世界のことわりを知る必要がある。これまでは、降りかかる火の粉は払えばよいと言うのが持論だったが、どうやらここで火の粉をまき散らしているのは俺自身らしい。


「お前のような小娘が俺を召し抱えると言うのか?

 そんなこと言ってもお前、いやジョアンナは平民だろう?

 貴族や王に咎められたりしないのか?」


「平気平気、日本には権力を持った貴族や王様はいないから。

 かといって奴隷制度もないわよ?

 だから雇主と従業員ってことになるのかな。

 それとも誰かに仕えるのは嫌だったりする?」


「そんなことはないぞ。

 俺も何度か貴族に仕えたり護衛任務を引き受けたことがあるからな。

 ただ平民がそのようなことを言いだすとは、まったく想像の外だったわ」


「平民平民ってなんか見下したような言い方だけどさ、そう言うアンタはどうなのよ。

 どう見てもお偉い貴族には見えないけど?」


「俺は冒険者だ、誰の上でも下でもない。

 生きるため常に最善を探る探究者なのだ!」


「それでその探究者様は今生きるためにどんな選択をしようとしてるのかな?

 あ、結構いい時間になって来たね。

 アタシお腹空いてきちゃったなぁ」


 この娘、なかなか駆け引きがウマイではないか。今俺にもっとも必要なものはなんだと聞かれたら間違いなく飯と酒だと答えるだろう。つまりは金、さらに言えば金を稼ぐ手段だ。


 もちろん腕っぷしには自信があるし、やろうと思えば力づくで奪うことも可能だろう。しかしこの国の街並みと人々を見る限り暴力とは無縁だと思える。つまり安易な暴力行為は犯罪であると推測が立つ。


 オカたちのような警備兵が取り締まりを行い、日々犯罪者を捕らえて処刑しているとしたらむやみに逆らうこともできない。あのように貧相ないでたちで危険な任務についていると言うことは力に頼る必要のないマジックキャスターの可能性が高い。


 取り調べでは洗脳や精神支配をされなかったので攻撃特化型だろうか。それとも街中や建物内に罠が張り巡らされている可能性もある。もちろんこの病院も然り、ひと時も油断できない。


「ねえ、何考えこんでるの?

 返事しないならアタシもう帰ってご飯食べに行っちゃうよ?」


「ま、まあまて、お前の、いや貴殿の申し出はありがたい。

 しかし俺は今自由の効かない身だ。

 この牢から出ることが出来たら改めて考えさせてくれんか?」


「牢ってこの病院のこと?

 そんなの今から出ちゃえばいいじゃん。

 どうせ元気なんだし検査もいらないでしょ。

 いなくなっちゃえば、管轄外のオカさんたちだってそんな暇じゃないからわざわざ探さないよ」


「だが病院内や街中に罠が仕掛けられていて逃げだしたら処刑されるのではないか?

 いくらなんでも捕らえた者に対して監視の目が緩すぎる」


「あははっ、あんたってホント面白いね。

 臆病なんだか大胆なんだかどっちかにしなよ。

 そこらへんに罠なんて無いし、用があれば連絡来るから気にしないでいいってば」


「なるほど、やつの娘はおまえ、いやジョアンナの知り合いだと言っていたな。

 知らぬ仲ではないから住居は割れていると言うことか」


「うん…… そうだよっ。

 だから早くいこうよ、ご飯奢ったげるからさ」


「うむ、承知した。

 昨日来ていた服がどこかへ奪われてしまったようだからこのままでよいかな?」


「奪われたって…… 人聞きの悪いこと言わないの。

 ちゃんとこの引き出しにしまってあるじゃない。

 ほら着替えて着替えて―― ってなんでいきなり全裸になるのよ!」


「なんだまったく、着替えろと言ったり脱ぐなと言ったり忙しい奴だな。

 生娘でもあるまいし男の裸くらいで狼狽えるんじゃない」


「このバカッ!!」


 パチーンといい音がして背中が熱くなる。おそらく俺の背中には真っ赤な手形がついている事だろう。しかし今の態度ではっきりと分かった。ジョシコーセーというのは商売女の類だと思っていたが、オカの言う通りそんなことはなく、このジョアンナはただの町娘なのかもしれない。


 こうして俺はジョアンナの誘いに乗り病院を抜け出した。本当に生活がままならなくなってしまったらその時また考えれば良い。よくよく考えてみればこんな小娘が一人で出歩いてもなにも起きない世界だ。百戦錬磨の俺様がそう簡単にのたれ死ぬわけがなかった。



「しかし冷静になってよく見てみると街の作りが本当に奇妙だな。

 なぜ川もないのにあんなところに橋を架ける必要があるんだ?

 馬車と人の通る場所が分かれているのは合理的だと思うが、人と人を分ける必要があるのか?」


「ペデストリアンデッキのこと?

 こっちの駅ビルと向かい側のデパートの三階同士が繋がってるのよ。

 そうすれば電車を降りてすぐにビルの中へ行けるでしょ?」


 まったく分からないことだらけだったが、ジョアンナに色々と教えてもらい構造物のことは何となくはわかってきた。城のようにデカい建物はビルと言うらしく、中には様々な商店があるらしい。駅と言うのは連結している乗合馬車が走る専用の道と言うことで乗るには金がかかる。


「やはりどの世界も金か……」


「そう、お金がないと何も得られない。

 着るものも食べるものも、学校へ通うことだってできないし自由も得られない……」


 自由か。俺の目にはジョアンナは自由に見えるが、たまに見せる物憂げな表情やなにかを諦めたような物言いは気になるところだ。俺はジョアンナを横目で見ながら手に持った食い物に齧りついた。


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