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43.デート

 やはり…… 予想はしていたが、ジョアンナは俺一人が専有していいような人材ではないのだ。いずれ王に値する立場の者に仕え、民のため国のために働くことになるのだろう。先ほどのつぶやきはだからこその言葉に違いない。


「ごめんね、なんだか急に涙が出ちゃって。

 なんか少し弱気になっちゃってたんだよね。

 でも大丈夫、月曜からまた頑張れそうな気がするよ」


「勉強が大変なのか?

 やはり国の宝ともなると期待値も高いのだろ?

 俺はもう覚悟できているから心配するな。

 なあに、こんな平和な国だ、なにがあっても生きていくことに不安はないさ」


 俺はカッコよく決めたつもりでジョアンナとつないだ手に少しだけ力を込めた。すると――


「はあ? 何言ってんの?

 確かに勉強は大変だけどさ、国の宝って何のこと?

 それにうみんちゅの覚悟ってなによ、また勝手にあれこれ想像しちゃってるわけ?」


「いや、だから、王立だか国立だかの大学へ行くのだろ?

 と言うことはその後、国のためにその身を捧ぐと言うことになろう。

 その時が来たら俺のような無能を抱えることはできないだろうからな。

 俺も自立に向けて心構えはしていると言うわけだ」


「だからドヤぁ、じゃないわよ……

 相変わらずトンチンカンな事ばっか言っちゃってさぁ。

 国立を目指してるのは事実だけど卒業後に公務員になるなんて思ってないっての。

 別にそんな制限はないし、たとえ公務員でも自由はあるんだからね。

 第一…… ―― な、なんでうみんちゅが自立する必要があるわけ?」


「国立なのにその後の身の振り方が自由だと!?

 この国はそこまで緩いとは、まったく忠誠心や愛国心はどうなっているんだ?

 では俺はまだあの家にいていいのだな?

 それならばなぜずっと子供でいたいなどと言ったのだ」


「なによ、そう言う気分になることだってあるっての。

 まだ一年以上あるとは言えお気楽な高校生活も終わりが近づいて来てるしね。

 ちょっと感傷的になるのが早すぎたかな」


「だがな――」


「はい、もうこの話は終わり。

 アタシもうみんちゅも今まで通りだから心配する必要なし!」


 結局はぐらかされてしまったが、ずっと一緒にいたいと言うのはなんだったのだろう。あの言葉、裏を返せば一緒にいられなくなると言うことではないか。だが今は言いたくないようだしこれ以上の追及はすべきではない。俺はそう判断し航海の続きを楽しむことにした。




「おおおおおお!!!! ここが海か!? 海なのか!?

 こんなに沢山の水を貯めるのは大変だっただろうな!

 おお!! ちょっと! アレを見てみろ!

 巨大な魔方陣が建っているがいったいあれはなんなんだ!?

 恐ろしくデカいがなにか強大な魔法を撃ちだす兵器か何かなのか!?」


「はいはい、魔法魔法、ってさぁ、アレは観覧車って言うのよ。

 ゴンドラに乗って一周するって乗り物ね、乗りたい?」


「はぁ…… あれが乗り物なのか。

 いい加減慣れたつもりだが、この世界にはまだまだ未知の代物が沢山あるな。

 だが俺は高いところがあまり好きではない。

 言っておくが怖いわけではないぞ? 良さがわからないと言っているんだ」


「つまり高所恐怖症ってことね?

 アタシも乗ったことないし、それじゃ行ってみよー」


 ジョアンナは強引に俺を引っ張って観覧車へ押し込み、短い間の遊覧飛行を楽しんだ。ジョアンナは本当に怖いわけではなかった俺の態度に不満そうだったが頂上へ着くころにはすっかりご機嫌だったし、俺もゴンドラの中でははしゃいでもいいと言われたので夢中で景色を眺めていた。



 こうしてひとしきり遊びほうけ、夜になってから自宅へと帰り着いた。


「今日はずいぶん遊び歩いちゃったわね。

 なんか久しぶりに夏休みを堪能したって感じ。

 うみんちゅは楽しかった?」


「うむ、屋台が沢山並んでいるところが特に気に入ったな。

 かき氷にはしてやられたが……」


「なんでも一気に食べ過ぎなのよ。

 なんかちょっとしたデート気分だったなー」


「デートとはなんだ?」


「うーん、こうして二人で遊びに行って体験を共有することかな。

 その度に親密になってくって感じで良くない?」


「つまり観光だな? そうかこれが観光だったのか!

 いやあ貴族にでもなった気分だぞ!

 こうやって知らない楽しみを教えてくれて、ジョアンナには本当に感謝している」


「な、なによ急に。

 アタシこそうみんちゅが来てから一人じゃなくなってすっごく楽しいよ。

 こっちに来てくれてありがとね。

 でもたまにうみんちゅが帰っちゃう夢見るんだ…… そんでまた一人になる夢……」


「心配はいらない、俺はジョアンナがいらないと言うまでそばにいる。

 それに俺はこの世界が最高に気に入ってるんだ。

 誰が何と言おうともンダバーへ戻ったりするもんか」


「だがそれでは困るんじゃがなぁ。

 間違いは正さねばならん、これが天の意思なのじゃ」


 俺たちが慌てて振り向くと、そこには誰もいなかった。では声の主はどこに!?


「おいおい、そんなにキョロキョロするでない。

 お主らが呼び付けたのじゃろ? こっちだこっち」


 声の主は、庭に作った石碑の上でとぐろを巻いている白い蛇だった。


「なにやつ!? というかそこに現れたと言うことは神の一種なのか?

 この世界には蛇の神もいるなんてなぁ」


「一種とは無礼な! 我は蛇神、金運をつかさどる神じゃぞ?

 我を敬わぬならお主らの金運を最低まで下げてやろうか?」


「ふん、それならばこの俺様が金が全てではないことを教えてやろう。

 人の幸せ、喜びは金だけで賄われているわけではないと言うことをな!」


『パチン!』

「あんた何言ってんのよ、失礼にもほどがあるわ。

 お金は大切に決まってんじゃないの!

 ってそうじゃなくて、せっかく神様が来てくれたんだから失礼なこと言わないの」


「ほう、娘っ子はわかっているようじゃの。

 詳しいことは水神から聞きだしてある。

 それに稲荷も加担しているらしいな」


「加担ってなに? もしかしてなんか怒られてる?

 お稲荷様はあったことないけど、祠を借りたことかしらねぇ」


「協力したのなら共犯、同罪じゃ。

 まったくンダバーの神もだが、立場をわきまえろと言いたいわ。

 神のくせに倫理観と言う物はないのか、まったく……」


「さっき困るって言ってたけど、まさかうみんちゅが地球に来ちゃったことを言ってんの?

 ていうか金運の神様がそんなこと気にするの?」


「我だって迷惑じゃわい。

 手が空いているからと言って統率神様に命じられて様子を見に来たんじゃからな。

 動物供養の神は担当があまりはっきり決まっていないのでな。

 その時々、近いものが割り当てられるんじゃから迷惑な話よ」


「だから蛇神様がココに来たってわけ?

 それとうみんちゅがどう関係あるの?」


「そりゃお主らの願いを聞いていれば普通でないとわかるに決まっておる。

 どちらも都合の良過ぎる欲深いものじゃったがな」


 この蛇の神はすべてお見通しらしい。まあ神へ願っているのだから知られているに決まっている。だがそれを公にしてもいいとは限らないはずで、まさに今訪れようとしている出来事を予見し、俺とジョアンナは顔を見合わせて、お互い気まずそうにしていた。


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