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異世界からやってきた、自称・王国最強のハラペコ戦士とギャルJKのおかしな同居生活  作者: 釈 余白(しやく)
第一章 世界を跨いだ出会い

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4.申し出

 遅い、遅すぎる。いったいいつになったらあの男はやってくるのだ。俺は空腹のせいも有り大分イライラしていた。追加の飯は来たものの、薄っぺらいパンが一枚とジャムに乳製品がついて来たのみで何の足しにもならなかった。


「はあ、それにしても落ち着かない場所だな。

 飯は足りんしどこもかしこも真っ白で目が痛くなるわ。

 さっき飯屋を見かけたが、どうやら金が必要らしいし……」


 オカのやつがくれば食わせてもらえるだろうが、その前に検査とやらもあるはずだ。それが全部終わってからとなると、腹が膨れるのは一体いつになるのやら。


 一人でベッドに腰掛けブツブツと一人ごとを言っていると、ドアを叩く音がした。ようやくオカがやってきたのだろう。


「遅かったじゃないか。

 まったく腹が減って敵わんぞ?」


「なんだ、元気そうじゃない。

 病院で注射でも打たれて泣いてるかと思ったわ。

 それにしてもいつもお腹すかせているのね」


「なんだジョアンナじゃないか。

 どうしてこんなところまで来たのだ?

 貴様も俺をえむあーとかいうのに入れて処刑させるつもりか?」


 とにかく病院内は落ち着かず武器も防具もないので心もとない。昨日は何とも思わなかったこの女も今はどこからかの刺客に見えてくるくらいである。


「もしかしてMRIが怖いの?

 ああいう機械見たことない?

 全然怖くないからついていってあげようか?」


「そうやって俺を騙そうとしているんじゃないのか?

 さっきここの兵士が頭を割るような話をしていたからな。

 警戒せずにはいられん」


「もう、臆病なんだから。

 それでオカさん待ってるの?

 あははっ、案外かわいいところあるのね」


「くぅ、貴様!  愚弄するのか!

 俺は身を護るための勘を頼りにここまで生き残ってきたのだ。

 こんなわけのわからない施設の中で処刑されてたまるか!」


「処刑なんてされないっての。

 いったいどんなところで育ったのか知らないけどさ。

 日本で普通に暮らしてたら簡単に殺されるなんてことないよ、普通はね」


「なにやら含みのある言い方だな」


「そりゃね、たまにはおかしなことも起こるよ。

 絶対安心の完全な安全が無いなんて当たり前でしょ?」


 俺はゆっくりと頷いた。昨日も感じたこのジョアンナの負の部分、きっと何かを心の中に抱えているのだろう。だがそれをわざわざ聞きだすほどの仲でもないし必要性も感じられない。今の俺に必要なものは自由と飯だ。


「でもさ、そんなに検査が嫌ならなんで逃げ出さないの?

 あんたの身体能力なら余裕で逃げられるでしょ。

 それともオカさんに義理立てでもしてるの?」


「あやつに義理なぞないわ。

 あるとすれば飯の恩だが…… それももう切れそうだな。

 まったく腹が減って敵わんよ」


「病院のご飯て質素だもんね。

 食堂で何か食べる?

 お金持ってないなら出してあげようか?」


「ぐっ、確かに金はない……

 それにここがどこだかも未だわからん。

 だから仕方なく留まっているのだ。

 とりあえずあやつの言うことを聞いていれば飯と宿が手に入るからな」


「へえ、以外と冷静だけど臆病なのね。

 いや違うか、生きることが最優先で何事にも慎重ってことかな」


「まあそうだな、この世界のことはわからんが、俺がいた世界ではいつ死んでもおかしくなかった。

 選択を間違えることが即死に繋がる、そんな世界、だったような…… 気がする……」


「すごいね、まるでゲームか映画みたいだわ。

 いわゆる異世界転生ってやつでしょ」


「異世界…… 異なる世界と言うことか。

 やはり俺が元いた世界とは異なり戻ることはできないのかもしれんな」


 俺がうつむいて考え事をしていると、ジョアンナが優しく声をかけてきた。


「さみしいの?

 向こうにはお友達とか家族とかいたのかな?

 慣れるまで大変かもしれないけどアタシに出来ることがあったら力になるよ?」


「ああ、心配をかけてすまない。

 向こうでそれなりに持っていた財産はどこへ行ったのか考えていたんだ。

 金目のものがあれば食うくらいできるだろ?」


「なーんだ、寂しくはないの? 不安とかさ」


「不安がないわけではないが、食うことだけ何とかなればどうにでもなろう。

 狩りをしてもいいんだが狩猟道具がないしなあ。

 そう言えば俺の武具はどこへ行ってしまったのだろうか。

 あ、ああ、寂しいかって聞いてるのか。

 身よりも親しい友人もいなかったからまったく寂しくないぞ」


「それはそれで聞いてる方が寂しいわよ……

 ねえ、あんたって強いの?

 力はすごくありそうだったし身のこなしもタダものじゃないって感じだったわよね」


「俺は強いぞ? 昨年の御前試合では決勝を務めたくらいだからな。

 まあ御前試合は模擬戦だが、実戦でもそこそここなして来たぞ。

 冒険者ランクはゴールドだったからな」


「ランクなんてあるんだ。

 でも基準がわからないから凄さが伝わらないわね。

 もっとわかりやすいのないの?

 ドラゴン倒したとかさ」


「そうだな、ドラゴンはまあ余裕で倒していたぞ。

 しかしそれほど特別な事でもなく、シルバーランクなら普通のドラゴンくらい一人で倒せる。

 大型のエンシャントドラゴンや魔法が強力なデーモンは別物だがな」


「すごい! 本当にドラゴンが居たりするんだね。

 どうやって戦うの? やっぱり大きな剣を振り回したりするの?」


「あ、うむ、俺の武器は両刃の大型剣で背中に背負うものだった。

 だが小型の剣で速度重視や槍を使うものもいたぞ。

 まあ人それぞれということだな。

 ちなみに俺は徒手格闘も得意分野だから武器が無くても強いぞ」


「すごいじゃない、じゃあさ、アタシのボディーガードになってよ。

 ちゃんとお給料も払うからさ」


「ボディー? なんだって?

 何かの仕事と言うことか?」


「だ・か・らぁ、食べるものと住むところを提供するからさ。

 アタシのボディーガード、つまり護衛をしてってこと」


 何の因果か知らないが、こうして俺は平民の娘ごときに配下になれと見下される事態に陥ってしまったのだった。


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