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31.用心棒

 系列店と言うことで、趣味の悪い外観やギラついた内装があまりにも似すぎている。まさか自分がどこにいるかわからなくなるような幻惑の術でもかかっているかのようだ。こんな非現実的な光景の中に長時間身をさらしているのはあまりいいことではないだろう。


 ここに一族を率いている親玉がいると言うのは間違いないし、どうせここいいるやつらでまともなものはいないのだ。俺は遠慮なく片っ端から斬っていった。


「は、はい、あ、兄貴なら奥のVIPルームにいます……

 女? それならいつもどおり一緒です」


「よし、じゃあそこへ向かうとしよう。

 なあに心配するな、間もなくすべて解決だ」


「うん…… きっと、絶対になんとかなるよね?

 アタシうみんちゅのこと信じてる!」


「もちろんなんの心配もいらない。

 むしろ不安に思う理由があると思えん」


 奥へ進むと、まさか人間が量産されているのかと首をかしげたくなるくらい似たような優男が行く手を阻む。勝手に入るなとか止まれとか言われるが、そもそも襲撃に来ているんだから制止の言葉を聞くはずがない。まったくマヌケなやつらだ。


 無論構わず斬って捨てながら進むのだが、実態を斬ることがないこの霊体の剣ならば非戦闘員をなぶっているという気も和らぎ罪悪感を感じることもない。しかも物は斬れないので狭いところでも遠慮なく振り回すことが出来る。


 細長く狭い店内を奥へ進みながらかれこれ十人以上は斬っただろうか。大げさに装飾されている扉の前へと到着した。


 もちろんノックなんてせずに扉を開けると、なんだかむせ返るような湿気とあまくむせ返るような煙が充満していた。


「姫、これは薬物の可能性がある。

 あまり深く吸わないよう注意してくれ」


 カバンの中からわかったと言うように叩く振動が伝わってきた。タバコとは明らかに異なる匂いがなんなのかはわからないが、照明の暗さと雰囲気も相まって、到底まともとな物とは思えない。


「おいおい、まだ開店前だぜ?

 誰が客を通していいって言ったんだよ。

 ホールチーフは何やってんだぁ!?」


「暗い中でそんな色のついた眼鏡をかけているから何も見えないんだろう?

 いや、どちらにせよお前のようなクズには物事の本質が見えるはずもないか」


「ん? お前は誰だ? つーか高校、いや中学生くらいだろ?

 こんなとこへ何の用だ、とっとと出て行け。

 おい! 誰かいねーのか! 早くつまみ出せ」


「誰を呼んでるか知らんが中にいた連中はすべて成敗したぞ?

 ヨージという男の部下が俺を襲ってきやがったんでな。

 やったらやられ返される、お前なら十分理解できるだろ」


「お前みたいなガキにうちのやつがやられただと?

 何バカなこと言ってんだ、しめっぞ!」


「そう言うセリフは言うだけでは意味がない。

 まずはやって見せるんだな」


 そう言うと兄貴と呼ばれている男は激高し、手元にあった酒ビン片手に向かってきた。その一撃を振り下ろす時間は俺にとって何の意味も持たないのんびりとした一瞬だった。手の甲をビンに触れさせながら手首を返して軌道を変えるとすぐそばのテーブルへ当たって砕け散る。


 派手な音は鳴ったがそれによって誰も何の被害を受けるわけでも無い、まったくもって無駄な行動だと言うことを示している。その無駄な行為に比例して男の顔はさらに赤くなった。


「このガキいぃ、武術か何かやって矢がるな。

 おい、ゴリ、出てこい! 早くしろ!

 女なんて後回しにしてコイツを先にやれ!」


 すると奥のカーテンがふわりと靡いて、奥から大男が現れた。ふむふむ、やはり用心棒を雇っておくのも共通項のようだ。こんな魅力の無い男に、金を貰い女をあてがわれて雇われているんだと一目でわかる。つまりは欲を満たすためならなんでもやるという、まさに本能で生きている男だ。


「あまり時間をかけてゆっくり遊びたい気分ではないんでさっさと済ませたい。

 二人同時に掛かって来い、一刀で終わりにしてやる」


「ハッ! バカ言ってんじゃねえよ!

 ゴリ、早くやっちまえ、後始末はこっちでやるから安心しろ。

 半殺しなんて我慢はしなくていいからな?」


「へっへっ、それならそんなガキ相手でも楽しめそうだ。

 悪く思うなよ、チビ助、すぐ楽にしてやるよ」


「やれやれ、どいつもこいつも話が長い。

 本当にやるつもりなら口より先に体を動かせよ。

 それならついでに聞いておくが、そのデカいのは警察に追われたりしていないのか?

 つまり五体満足で大人しくさせるんじゃなく、少し痛い目に合わせても大目に見てもらえるのかということが知りたいんだが?」


「なんだと? コノヤロー舐めてんのか!」


 だが俺が聞いた相手は目の前のこいつらだけではない。その直後カバンの中から声が聞こえた。


「わかんないけど痛めつけるくらいならいいよ。

 こんなクズどもは警察へ渡せばどうとでもなるでしょ」


「よしわかった、骨の数本くらいは許容範囲と言うことか。

 それにしても相談している間は待っててくれるなんて随分紳士的だな

 それとも足がすくんで動けずやられるのを待っているのか?」


「今の声はどこからだ!?

 ジョアンナがどこかで手引きしてやがんだな?

 あのヤロー、母親がどうなっても知らねえぞ!」


「うみんちゅ、ダイジョブだよ。

 アタシ信じてるからね!」


 どうやら気づかれたようなので悠長に時間をかけるのは危険だ。ジョアンナの母上殿に危害が及ぶ前に片付けてしまおう。


 ゴリと呼ばれている大男が掴みかかってきたところを、先ずは両手で組み合って突進を止める。確かに今までの相手の中では一番力がありそうだ。背丈は俺よりもはるかに高く体重は倍以上違うだろう。組み合った手の大きさも倍ほど違う。


 だが大きさと力の強さが比例するわけではないのがこの体だ。一瞬でゴリの手のひらをそりかえすように握り潰し、そのまま捻じり上げてひじの骨を折った。次は逃げられないように両ひざの関節を外すと、大男は情けなく泣きわめいて床へと転がっている。


「バ、バカな!? そんなはずねえ…… あり得ねえ……

 一体どうなってやがんだ!?」


 奥のカーテンへをめくり、過ぎにまた出て来た『兄貴』は一人の半裸女を連れてきて叫んだ。


「おい、ジョアンナ! どこにいやがる!

 こいつがどうなってもいいのか!

 早く出て来てコイツを止めろ!」


 なるほど、どうやらこれがジョアンナの母上殿と言うわけか。その女は布を一枚羽織ってるだけで、目はうつろ、体に力が入っていないおかしな様子だ。理由はわからんが薬を嗅がされ先ほどのゴリにあてがわれていたように感じられる。


「ママ!? もうこいつらはオシマイだよ。

 だから一緒に帰ろ?」


 ジョアンナの悲痛な叫びが狭い店内へと響く。しかし目の前の女は薄笑いを浮かべてこう言った。


「私はこの人とずっと一緒にいるわ。

 ジョアンナ、あなたはもう帰りなさい」


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