17.特典
地球の神とンダバーの神の差が如実に表されてきたのだが、あまりに哀れだと感じたのか地球の神は種明かしを始めた。
「神の力は確かにすごいかもしれないけどさ。
こういうテクノロジーは人間界からのフィードバックで出来てるんだよね。
だからンダバーみたいな発展の仕方をしている世界の神にはその世界にあった力が備わるよ。
例えば彼は魔法を使えたり、こうやって世界をまたいで転移することが出来るんだ。
地球にはそんなものはないから僕たちも使えない。
でも科学が発展してるから同等系統の技術は使えるってわけ」
「それで話し方も大分違うのかしら。
技術だけじゃなく文化も影響を受けるってこと?」
「そうそう、なかなか賢いじゃない。
今の海人はンダバー神の力で言語を習得してるから古風な話し方になってるでしょ。
このままだと色々不都合だし笑われたりしてかわいそうだから辞書をアップデートしておくよ。
これならもっと自然に会話が成立するはず」
特になにか変った実感はないが、きっとなにかは変わったのだろう。どうやらこのスマホにも辞典のようなものが入っているようなので勉強も出来そうだ。ところでジョアンナはなにを一生懸命覗き込んでいるのだろうか。
「ねえ地球の神様?
アタシのスマホにもスキルが表示されてるけど、これって初めから持ってたってこと?
子供の頃とか以前からずっと?」
「いつからなのかはもうわからないなぁ。
なにか気になるスキルがあった?
本来地球人はスキルなんて持ってなくて、たまに持ってる人がアスリートになったりするのさ。
九条君にも何か才能があるのかもしれないね」
「えっとね…… 魅了色と持久力微だって。
魔法は空欄ね」
「魅了持ちなのか、なかなか珍しいけど色って付いているのは異性向きってことだったかな。
普通の魅了は言い換えるとカリスマ性ってこと。
色ってついてる場合はフェロモンが強いって言い方が近いかもね。
持久力微は文字通りでわずかに持久力が高いってこと。
学校の長距離走とか得意なほうでしょ?
陸上選手ほどではないだろうけど普通よりは上ってくらいかな」
「あってるわ……
魅了も思い当たることあるし、あんま嬉しくないなー」
「そうだねぇ、女の子の場合は魅了色があると性犯罪にあいやすくなったりね。
あとはストーカー被害者にもなりやすい傾向があっていいものじゃないね。
たまーにカリスマキャバ嬢みたいに有効活用してる子もいるけど」
「ますます嬉しくないわ……
これってなんとかならないの?」
「残念ながら才能ってやつは消すことできないんだ。
僕の力では何かを付与することもできないしね。
ンダバーの神はなにかしてあげられないの?
海人の面倒見てもらうんだし少しくらいはいいでしょ」
「そうだな、やつが無茶して巻き込まれるといけないから対策はしてやろう、ほれ。
あと魔法もつけとこう、ほれ」
「えっ? マジで? そんなあっさり?
どれどれ…… なにこれ、剛体って頑丈になるやつでしょ?
アタシはか弱いJKなのになんでこんなマッチョみたいなスキル……
それにこの人体拘束ってなによ?」
「ああ、やつが暴れた時に巻き込まれて怪我するといけないから剛体を付けたのじゃ。
人体拘束は暴走した場合に強制停止できる魔法じゃよ」
「あんまりありがたくないわね……
もっと華やかなヤツ、楽しそうなのってないわけ?」
「そうは言ってもワシは戦闘をつかさどる神だしのう。
ンダバーと地球は力の基準が大分違うし、むやみにつけると大変なことになるぞい?
グライブを見ればわかるじゃろ?」
「そりゃそうだけどさ。
この持久力みたいに微とかつけたらいいじゃないの。
ダイエット微とかさ」
「ンダバーにはそんなもんないんじゃ。
普通の町人でも地球の鍛え上げた男と筋力はかわらん。
グライブが持つ怪力はこちらで走っている電車をも止めるくらいの力じゃぞ?
ちょっとしたものをつけただけでなにか世界の記録を塗り替えかねん」
「なーんだ、つまんないのー
なんかこういう感じでえーいミラクルレインボースクリュー!! みたいな?」
「魔法か? 絶対に悪用したり世界の理に影響を与えないと約束するならいいだろう。
だがごく弱いちょっとしたものに限るぞ?」
「約束するする、絶対守るから、ね?
どんなのができるの?」
「スキルでは身体能力を付与することはできん。
持っているものを伸ばすことが基本線じゃな。
つまり羽もないのに飛べるようにはならんし、肺呼吸なのに水中で息はできんと言うことじゃ。
伸ばすと言うのは文字通りで、力を強くしたり目を良くしたりということ。
それに引き換え魔法は出来ないことを出来るようにするものじゃ。
人体拘束もそうだが、炎を飛ばすとか衝撃波で岩を切断するとかじゃな」
「うーん、全然思い浮かばないや。
ただ特別になってみたいだけで本当は別に欲しくないのかも」
「まあやりたいことがあるわけでないなら焦らなくても良かろう。
そのうち必要になった時にまた相談に乗ってやっても良い」
「やりたいことね、それなら猫になって縁側で昼寝したいかなー
おばあちゃんの膝でお昼寝するの好きだったんだ」
「猫になりたいのか。
それなら変身魔法でいいだろう。
一応幻惑もつけておいて見られても問題ないように対策しておくとするか」
「えっ!? 本当に出来るの?
変身! とか叫べばいいのかな?」
「いやいや、頭で思い浮かべれば良い。
戻る時も同じじゃが、猫なら通れる狭いところで人間に戻って挟まれたりせぬよう。
あとは猫は猫なりに気をつけないといけないこともあるので注意せい。
泳げないとか犬より弱いとかな」
「わかったわ、まあでも、うみんちゅがいてくれたら平気よね。
これからも護衛をよろしく頼むわよ?」
どうやらようやく決まったようだが、こちとら待たされすぎで腹が減って仕方がない。それにしてもさんざん考えたあげく、たかが猫に変化する魔法をつけてもらうなんて変わったことを考えるものだ。
俺は大あくびをしながら気の無い返事をし、そのお返しにスナック菓子の袋を顔面へ投げつけられたのだった。




