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異世界からやってきた、自称・王国最強のハラペコ戦士とギャルJKのおかしな同居生活  作者: 釈 余白(しやく)
第二章 主従関係確立

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12.祈り

「いい? 早めに部屋を片付けてひと部屋専用に与えてあげるからね。

 だからむやみにその部屋以外の物に手を触れないように、わかった?

 特にアタシの部屋には絶対入らないように!

 洗濯物にも手を触れちゃダメ!

 何かしてほしい時にはこっちから言うから、することが無くて暇でもじっとしてて。

 もし何かしたいことがあったらまずはアタシに聞くこと!」


「承知した……

 ではいくつか願い申し上げてよいか?」


「くるしゅーない、申せー」


「この世界の言葉はなぜか読めるようなので、なにか書物を貸してもらいたい。

 それと草が敷き詰められている部屋にあった肖像画について聞きたい。

 あれが姫の祖母殿であるか? 隣の男性が祖父殿だろうか。

 ここに世話になるのだから挨拶をしておきたいがよろしいか?」


「うみんちゅ…… あなたやっぱり優しいわね。

 もちろん歓迎よ、おばあちゃんの部屋へ一緒に行こうか」


 別に怒りを治めようと媚を売ったつもりはないが、結果としてどうやら怒りは収まったようで何よりだ。それにしても肌着があんな形をしているとは思わなかった。しかもわざわざ服の下に着こむ風習があるとは想像をはるかに超えている。しかもどうやら布自体に希少性は無いと言うことらしい。


 祖母殿の部屋へ移動し改めて見てみるとやはり不思議な構造である。草で作られた絨毯のようなものが敷いてあり足の裏はほんのりと柔らかな感触で心地よい。出来ればここを俺の部屋にしてほしいくらいだが、大切な祖母殿の部屋を奪うわけにもゆかぬ。


 俺はジョアンナに促され肖像画の前にひざまずいてから両の手を握り、祈りの姿勢を取った。


「我らを産み出し糧を授け育みをもたらす聖なる大地よ。

 我らを先んじて土へと還る、えー、祖母殿を優しく迎え給え。

 我らと共に歩む日々は終わっても我らを支える大地となり、

 我らが再び同じ地に集うことをここに願う。

 ンダバーの大地、ハニオリの光、エグキアの海へと祈りが届くよう願いたてまつる」


 自分で祈っておいて驚いてしまったのだが、何も考えずに言葉がすらすらと紡がれていった。おそらく元の世界では一般的な祈りであったように感じるし、こちらの世界よりもはるかに死が日常的であった気もする。


「うみんちゅ、ありがとね。

 なんか感動しちゃったよ。

 細かいことはわからないけどきっと宗教的ななにかのお祈りなのかな。

 自然信仰みたいな?」


「うーむ、あまり深く考えずに言葉が出て来たのだが、確かに宗教と言えるかもしれない。

 他国には異なる信仰があって諍いの元になるので個人的にはあまり好かんがな」


「それはこっちの世界でも同じだよ。

 価値観の総意は争いのきっかけになるもん。

 アタシはメンマ派なんだけど、友達には舞茸派もいてすぐケンカになるんだから」


「相変わらず姫様の言うことは難しいな。

 やはり早急に学習が必要だと感じる。

 また知らぬことで叱られても敵わんしな」


「それにしてもさっきのお祈りに出て来たのは地名か何かかな?

 ダバとかハニとかさ、それっぽくね?」


 そう言われてみると地名のような気がしてくる。確かンダバーが世界の名でハニオリは光の球、エグキアは国の外にあると言う大きな湖だったとは思うのだが他ははっきり思い出せない。


「この世界の名はなんだったか…… そう地球だったな。

 ンダバーは世界、ニッポンは…… わからぬ。

 ハニオリはここにもあるやつだな、空で光っているアレだ。

 エグキアは俺も見たことはなく、海と言うどこまでも水が続いている大きな湖のことらしい」


「じゃあ惑星というか世界の名前と、もう一つは太陽? 月? かしらね。

 向こうの世界にも海があるのは当たり前だろうけど驚き!

 きっと世界の作りはそれほど変わらないのかもしれないわ」


「まあ同じように人が生存しているのだから環境に差はないのだろう。

 文化や技術には相当の差があると感じて俺は少々衝撃を受けたがな。

 だが戦闘ではひけを取らないことは間違いなさそうで一安心だ」


「そうね、これなら護衛として雇った甲斐があるってもんよ。

 明日は学校サボってお出かけの予定だからそろそろ寝ましょ?

 今日はとりあえずお風呂に入ってこの辺で寝てもらえるかな。

 布団は出しておくからさ」


「かたじけない。

 それで明日はどこへ出かけると言うのだ?」


「うみんちゅが持ってる手帳に書いてある小学校へ行くのよ。

 さっきそう言ったでしょ?

 場所は後で調べておくから心配しないで」


「取り調べの時にオカが言っていたが、すでに存在していないらしいぞ?

 あのいい方だと昔はあったという意味だろうがな」


「えー、そうなの?

 ちょっとまた生徒手帳みせてみて。

 他に何か載ってないかなぁ。

 あ、その間にお風呂入っちゃいなよ」


 俺はジョアンナに書物を手渡してから風呂場へ向かった。言われた通り屋敷の奥へと進み、先ほど見つけた儀式用の小部屋のさらに奥が風呂場だった。中へ入ると本当に湯気が充満していて温かい。まさか冒険者ごときのこの俺が一人で内風呂を味わう日が来るとは考えてもいなかった。


 いちいち被らなくてはいけない面倒な造りで窮屈な服を脱ぎ捨て風呂場へ入り湯場へと腰かけた。昔入った街の公衆浴場よりも大分温度が低い。正直言うと裸になっている分、徐々に体が冷えてくるようにも感じてしまう。


 これはもしかしてなにかをしないと温度が上がらないのではないだろうか。先ほど風呂から出て来たジョアンナの様子を見る限り体が冷えていたようには思えない。壁にはなにやら文字が書いてあり魔法が埋め込まれているのか光る文字も刻印されている。おそらくはここでなんらか呪文を発動させるのだろう。


 しかしまた勝手なことをして叱られてしまっては敵わない。同じ過ちを繰り返すよりは聞いて恥をかいた方がマシだ。俺は体が冷え切ってしまう前にジョアンナへ相談することに決めた。


◇◇◇


「どう? ちゃんとあったまったかしら?

 不慣れな土地で風邪でも引いたら大変だもんね、保険証もないしさ」


「あ、ああ、大分温まったとも。

 特に頬なんてジンジンと熱いくらいだよ」


 俺はまた一つ賢くなったことを実感しつつ、そのために払った犠牲についてしっかりと頭に叩き込んでいた。この世界では屋敷の中だとしても裸で歩いてはいけない。


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