衣装合わせ 【月夜譚No.179】
モデルのような立ち姿に、つい見惚れてしまった。
振り返った彼女に声をかけられてやっと、はっと気がつく。彼はなんだか恥ずかしくなって、顔を俯けた。
フリルをふんだんに使用したボリュームのあるスカート。レースがあしらわれた胸元は強調され、程良く見える肌が白く美しい。更に真っ直ぐな黒髪がそのドレスによく映えて、普段より輝いて見える。
これは、今度の演劇の衣装合わせだ。いつもより予算が取れたからと、部長と衣装係が張り切って、生地や仕立てが良い物になっている。
きっと、そうだから――衣装が豪華だから、彼女が綺麗に見えるのだ。
「うわぁ!」
意を決して上げた視線の間近に彼女の顔があって、思わず大きく仰け反った。
心臓が跳ねる。顔が熱くなる。
そんな彼の様子に、不思議そうな顔をした彼女が小首を傾げる。
彼女の姿が見ていられなくなった彼は、逃げるように部室を飛び出した。