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他愛ない会話

その光景は、至って普通の日常であった。


馬にまたがる少年の無邪気な行為に笑い、喜び、照れ臭ささを感じるその先に、砕けた調子で言葉を発する1人の男が立っている。


セシリアは、その普通の日常がたまらなく嬉しくて、その他愛ない光景を楽しんだ。


そんな当たり前の日常をこころから..


3人の笑い声が止んだあと、セバスティアンは弟フィリップのまたがる黒く照り光った毛の馬に語りかけた。


セバスティアン「やあ、お前も元気そうだな?...えー..ローベルだっけ?」


フィル「違うよ! ロウェルだよ..ロ・ウェ・ル?」


セバスティアン「ああ..そうだった...ロウェル..もう慣れたか?...この感じに?」


黒い毛のロウェルと名付けらた馬は嬉しそうに吠えるとセシリアは、


セシリア「..フィル、凄くいい馬を飼ってるんだな?...この辺じゃ珍しいよな...兵士でもない庶民の馬ってさ..?」


フィル「..へへ...そうかい?」


セシリア「なんだよフィル? そんな気味の悪い笑い方してよ?.....お前? まさか..この馬?」


フィル「へへ分かった?...そうだよ、あの団長の馬だよ?」


セシリア「..えっ? だってお前..確か逃がしたって...」


フィル「うん..逃がしたよ? でもね..こいつったら...ついて来ちゃったんだ?」


セシリア「ついて来たって..?」


フィル「最初はね、紐を切ってやったあと手綱を取り外して迷いの森に逃げなってってやったんだけど..ロウェルったら全然その迷いの森の方に行かなくて、僕の方にばかり寄って来てさ?


早くしないとあの団長が戻って来るから早くしろ!って怒って森の方に さあさあ ってやったら、ようやく迷いの森の方へ消えて行ったんだよ?」


セシリア「..かなりお前のことが気になってたんだな?


このロウェル..」


フィル「うん..それでね? あの団長の男が店主のじいさんに「どういうことだ!」って怒鳴っててさ?


そのあとに急いでこの近くにある馬小屋を尋ねてね..


その迷いの森とは逆方向にある馬小屋に消えて行くのを確認したあと、僕も家に帰ろうと迷いの森のある道を歩いてたらさ?」


セシリア「それでどうなったんだい?..フィル?」


フィル「..えへ、それでね? その道を歩いてたらね?


迷いの森の方から音がしてさ?


最初は、この森に伝わる伝説のゴブリンとか妖精かなんかだと思ってた..でも違うって分かったんだ...


僕を探ってるって分かったんだよ?


それで僕は急に恐くなって走って逃げたら急にその森からバン!って何かが飛び出して来る音が後ろでしてね..パカパカパカって...


それが馬の足音だって分かると、


もう僕の心臓が止まるかと思うくらいビックリしてさ?!」


セシリア「さっきの私みたいに...アルダ・ラズムの兵士だと思ったんだな?」


フィル「うん! もう急いで走ってさ...


あいつらにバレたんだ!って急いで...


でも後ろから凄い速さで走って来て..もうダメだ! って後ろを振り返ったら...


こいつだったんだよ!」


セシリア「酷い馬だなー? 人をビックリさせてさ? 全く...」


セバスティアン「はははは」


フィル「でも、嬉しかった。


逃がしたときにこいつ目を見てさ? なんだか別れるのが辛くてさ...だからこの馬が僕のもとに戻って来たって思うと嬉しくてさ?


なあ..ロウェル?」


セシリア「...そうか..このロウェルって馬は、やっと自分の望んだご主人様に会えたって訳だ?」


フィル「ご主人? 違うよ!


ロウェルは僕の大事な友達だよ? 間違ってもご主人様なんかじゃないよ..」


セシリア「はいはい分かったよ..友達だな?」


フィル「うん!」


セシリア「...でもフィル? もしロウェルの前の飼い主の...あのズバルに見つかったら大変なことになるぞ?」


フィル「..ああ、それなら大丈夫だって? 昨日の夜のそのズバルが酒場を去るときに言ってた


「あの馬は最近仕入れたものなんだぞ?


くそ!


まあいい、馬など城に戻ればいくらでもいるわ」って..


だからあいつがロウェルの顔を見ても分かりゃしないよ?」


セシリア「それもそうだな?


あいつが自分の馬の顔を見分けられほど可愛がるなんて想像も出来ないしな...それにあいつにとって周りのものなんて..


単なる物でしかないしな..


愛情なんてある訳ないよ...」


フィル「...ねえ? セバスティアン、その木箱..」


セバスティアン「..ああ、あっセシリア?


あの..この木箱なんだが..」


セシリア「..え...なんだよ? その箱..」


セバスティアン「ああ、こ..これは、その..セシリアの顔の傷に効く薬草と絆創膏が入ってるんだ?


..ああ! それに...口に合うか分からないが..木の実と小麦粉を混ぜて焼いた物が入ってるんだ..その口に合うか分からないが! 良かったら..」


セシリア「..もしかしたら..セバスティアンが作ったの?」


セバスティアン「セビィと呼んでくれ!」


フィル「セビィは、料理も上手いんだ? 母さんがいま病気で治療してるから..にいちゃんが料理を作ってくれるんだ。


..もちろん、僕も手伝ってるよ?」


セシリア「そうなんだ? 偉いなフィル?


..セビィ...ありがとうな?」


セビィ「..いや..いいだ!...これくらいのことしか出来ないけど..」


セシリア「これくらい?.....これくらいなもんか..


充分だよ...


これで充分だよ...


本当に..」


その木箱を片手で受け取るとセシリアは、もう片方の手で持っていた酒場の容器をその手から放し、木箱を両手で大事そうに持ち替えてからその木箱を胸にへと押し当てて目を瞑った。


喜びを噛み締めるように..

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