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アグロのプライド

「キサマ! 自分の立場を分かっているのか?!」


1人のアルダ・ラズムの兵士がセシリアの挑発的な発言に声を荒げて胸元の襟を掴んで揺すると、


セシリアはその反動で両手に持っていた5つのジョッキが乗ったトレイを落としてしまう。


(ガチャン!)


食器の割れる音がアルダ・ラズムの兵士の1人の荒くれた声によって静まりかえった店内いっぱいに響き渡ると


ズバル「よさんかアグロ...他の者に迷惑だろ?」


アグロ(兵士)「しかし! ズバル様..


この女の態度は、許せるものではありませぬ!


その程度の身分の女のクセに..」


ズバル「気にするなアグロ......


なあセシリアよ...


少し見ない内にずいぶんと気性が荒くなったな?」


セシリア「......あーあ、


せっかくのお詫び印として用意させていただいたラム酒でしたが...


どうやらお気に召さないようでしたわね?」


アグロ「安酒など要らん!」


そうズバルの問いに素っ気ない態度で返すと、セシリアはカウンター席でそれを見ていた店主ニズルに


(悪いがここのガラスの破片をホウキで掃いてくれない?)


と目で合図を送った。


それに対してニズルはカウンター席で


「...あの女..余計なことを...」と1人こぼした。


セシリアはテーブル席で座るズバルの横に他の兵士を押し退けるようにしてずけずけと座ると手前にあった飲み残した酒の入ったジョッキを手に取りそれを飲み干した。


セシリア「くーっ! マズイ酒だ......で、ズバル様..今日は何故ここへ?」


ズバル「悪いのか?」


セシリア「いいえ...最近は余り見かけなかったので..ずいぶんと久しぶりだなぁ...と」


ズバル「久しぶりにお前の体が恋しくなったのさ? いやか?」


セシリア「別に...私の仕事が()()ですから...」


アグロ「ありがたく思え..お前のような女が我々アルダ・ラズムの兵士に抱かれるのだからな...


ましてや団長たる方から相手にしてもらえるのだからな? 感謝するんだな?」


セシリア「...ありがたく思えだと...?」


アグロ「そうだ? お前みたいな娼婦を、


団長のような素晴らしい方から相手にしてもらえるのだから感謝しろと言っているのだ...


分からんか? ふん...ゲス女め!」


セシリア「ゲス女?......そのゲス女の娼婦に毎晩毎晩ヨダレを垂らしながら相手にしてもらってるのは何処のどいつだい?


あん?


あんまりつけ上がったこと言ってんじゃないよ? 


このアルダ・ラズムの兵士ども!」


アグロ「...この野郎?...言わせておけば...ここでその首を叩き切ってやる!!」


完全に頭に血の上ったアグロは、腰に携えた剣の鞘に手を掛けると、それを見た周りで飲んでいた客たちは、一斉にその場から距離を置いた。


アグロ「さあ、立つんだ!!」


セシリア「...」


アグロ「キサマだけは、絶対に許さん...この帝国アルダ・ラズムの兵士に逆らおうとは..なんたる無礼だ!」


セシリア「...」


アグロ「さあ..立て!」


ズバル「よさんかアグロ! 少し落ち着け...


周りで飲んでいる客人たちも怯えているではないか...


さあ、その鞘から手を離すんだ...


それとセシリアよ? いったいなにがあったんだ?


ずいぶんと気性が荒れてるではないか?


前にあったときは、そんな風ではなかったぞ?」


セシリア「...ふふふ..毎晩毎晩...荒くれた男どもの性処理として扱われ...裸になった私はその都度..ケツを何回も何回も叩かれてりゃ自然とそうなりますわ...


違いますかズバル様?........


どうなんだいあんたらは?」


アグロ「...くっ!」


ズバル「......おい? もういい...お前たちは、もう帰れ...俺は明日の早朝には戻る」


アグロ「......分かりました。


我々はさきに帰らさせていただきます..」


セシリア「あら? もう帰られるのですか? あら残念...」


アグロ「黙れ...キサマ......


次に会うときは覚悟しておくんだな?」


セシリア「ええ...覚悟しておきますわ...果たして裸になった私のお尻は何回ぶたれることやら?


50回? それとも100回以上?


相手の数は4人以上かしら? ...ふん」


アグロ「....泣いて土下座するなよ? 行くぞ..」


そう言うとアグロはズバルを残し酒場を出て、他のアルダ・ラズム兵士とともに馬にまたがりその場をあとにした。


そのときのアグロの表情には憎しみが滲み出ていた。


ズバル「...度を越したなセシリア?」


セシリア「...なにがさ?」


ズバル「..まあいい、今日のところは大目に見よう。なにせ明日の朝には我々はイルモニカ政府の護衛の大仕事が待っているのでな?...


さあ、セシリア行くぞ...」



ズバルは、登り階段に目を遣りセシリアに3階の寝室へと上がるように命じると先に歩を進める。


ちょうど、そのズバルの前に急ぎ足でニズルがやって来て頭を深く下げセシリアの無礼を謝罪した。


ニズル「ズ..ズバル様...この野蛮な女の行為..


ど..どうか...お許し下さいませ!」


ズバル「..構わん」


ニズル「...どうか、この野蛮な女を..お..お好きなようにいたぶって下さいませ!」


ズバル「...」


そのニズルの言葉にセシリアは、笑みを浮かべながら自分を睨みつけるニズルの顔に左目でまばたきをした。


そんなセシリア・ルージュの内心は、ひどく怯えていたのだ。


異世界からもはや古き習慣とされる帝国主義のアルダ・ラズムにあのような態度をとったことを...


そんな態度を見せてしまった


"母の墓参りを終えて戻って来たばかりの"


セシリア・ルージュはひどく怯えていたのだ。

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