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ホラー物

社の中で

作者: 北田 龍一

 これは、僕が小さなころに体験した、奇妙な話です。

 僕はマンション暮らしで、近くの公園で友達と一緒に、よくかくれんぼをして遊んでいました。遊具や木の影、ベンチの裏や植え込みを使って……今時珍しいかもしれないけど、僕含めた友達は、携帯ゲームよりかくれんぼ派でした。

 それだけだと味気ないから、途中から隠れ鬼になってしまうのだけど……僕らはともかく、よく外でかくれんぼをしていた。

 そうして何度も遊んでいるうちに、みんな学んで慣れてくる。どこで隠れるのが強いのか、どこから見られてしまうとか、だんだん公園の地形を覚えたり、立ち回りのセオリーを朧げに覚えてくるんです。すると今度は、新しい隠れ場所や空間を探して、公園中をくまなく探すようになるのに、さほど時間はかかりませんでした。

 そんな時だった。あのやしろを見つけたのは。

 最初に見つけたのは誰だったか……記憶があいまいで思い出せません。少なくても僕じゃないと断言できる。ある日逃げ切った一人の友達が、自慢げにその神社を僕たちに見せつけた。

 鳥居もなく、白く垂れさがる紙もなく、一応建物自体はしっかりした作りだけど……雑草は辺りに生えまくって、木々の影が覆い隠して昼間でも薄暗い。ちょっとした小山を背に立つ神社は、本体が古びていても朽ちていなかった。

 僕は初見の時、妙に「怖い」と思ったことを覚えています。逃げた友達は自慢げで、他の友達は新しい場所に興味津々って感じでした。何か変なモノを見たとか、そういうことはなかったんですけど……機嫌が悪い人が発している、ぴりぴりした空気を感じたような、そんな気分でした。

 でも、感じていたのは僕だけだったみたいで、この後かくれんぼして遊ぶ時、友達たちはこの神社を隠れ場所として使いました。隠れ鬼の時も、鬼から逃げる時ぐるぐる回ったりしていました。僕は相変わらず何か嫌な感じがして、みんながいなくなった後、ぺこぺこと頭を下げていました。たまに賽銭やお菓子も、誰にも気が付かれないように供えたりしてました。


そんな僕ですけど、徐々に負ける事が多くなりました。

 僕は遠慮して使いませんでしたけど、神社は本当に強い立地で……全く使わない僕は、選択肢を一つ削っているのです。鬼になった時も、どうしても足を運ぶ頻度が減ってしまい、一回全員で神社に隠れられたときは、ちょっと困りました。

 負けが込んでくると、僕もやっぱり面白くありません。散々遠慮していた僕ですけど、ある日のかくれんぼで逃げる時、とうとう僕は神社を使いました。

 神社の隠れ場所は三つ。神社の下。神社の裏手側。神社の中があります。きっと中は入っちゃいけない場所なんでしょうけど、鍵が壊れていて誰でも入れます。友達も普通に使っていたので、僕は怖がりながらもその場所に隠れました。

 内側から引き戸を締めると、中は暗くてよく見えません。木と木の隙間から入るわずかな光で、ぼんやりと足元が見えるぐらいです。何かが一段上に祭られていますけど、よくわかりませんでした。

 ただ、子供なりに申し訳ないと思ったのか、僕は靴を脱いで、体育座りで隅にいました。どうせ戸を開けられたら、出口が一か所なので逃げれません。後は鬼に見つからないよう祈りながら、息を殺して時間切れを待つだけです。

 しばらく退屈でしたけど、誰かが走る足音が聞こえて僕は身構えました。神社の前から来たと思えば、隠れもせず、中を確かめもせず神社の後ろに回り込みます。すぐにもう一つ足音が聞こえて、二つの足音が神社をぐるぐると回ります。鬼役に誰かが追われているのでしょう。中心で隠れる僕に気が付かないまま、必死に駆け回っています。最後は捕まった子が叫んで、二つの足音が遠ざかりました。

 見つからなかった……僕がほっとしたその時でした。


 かたかたかた


 突然、何の前兆もなく、神社の入り口の引き戸が震えたのです。きっと油断させて驚かせてやろうと、鬼役が息を潜めていたんでしょう。僕は諦めたようにじっと座って、扉が開くのを待ちました。


 かたかたかた


 けれど、いつまでも戸は開きません。僕から開ける理由もないので、遅いなぁと思いながら、しばらくじっと見つめていました。


 かたかた……かたかた……ガタガタガタっ!


 開かない扉にイライラしたのか、開こうとする音がとても強く、乱暴になりました。

 そこで僕は、初めて変に思ったんです。

 神社の引き戸は、立て付けが悪い訳じゃないんです。それこそ子供の力で開けれるくらい、簡単に開くものです。

 そして鍵もついてません。ついていたのか、忘れたのか、放置されたのかはわからないですけど、ともかく……すっと開かないと、おかしいんです。


 ガタガタ! ドンドンドンっ!!


 乱暴になる音に、僕はすっかり怖くなってしまいました。鬼役の悪ふざけにしたって、いくらなんでもやりすぎでした。何より、さっきぐるぐる回って気配が遠ざかったのに、いきなり現れることも、何かおかしいと僕は思いました。


 ドン! ドン! ドン!


 壊れるんじゃないかってくらい、激しく叩く音がします。膝を抱えて隅っこで蹲り、扉から目を離せず、じっと固まっていました。かちかちと歯を鳴らして、嵐が過ぎ去るのを待ちました。なんにせよ僕にできるのはそれだけです。

 長い間じっと気配を探り、唯一の出入り口を見つめていました。光の差さない闇の中で、自分の鼓動と乱暴な音だけがすべてでした。

 そうして、どれだけ長い間固まっていたのでしょう。

 叩く音は徐々に静かになり、やがて逆に、何一つ聞こえなくなりました。

 今までの騒音がぱたりと消え、それはそれで、僕は不安になりました。外の気配もぴたりと消え、社の中で一人座り込む僕は、今度は闇が怖くなってきたのです。

 早く外に出なければ。すっかり怯えてしまった僕は立ち上がりました。その時です。突然何か、僕の耳元で囁く声が聞こえたのです。

 確かにこう聞こえました。「まぁだだよ」って。

「ひっ!」と僕は、引きつった声を上げました。声の主を探しましたが、何も見つかる筈もありません。ますます怖くなった僕は、神社の戸に手をかけて――

 ぐっ、と何かが僕の手を引きました。いえ、手を引いたというより、何かが僕の手に絡みついたんです。

 ぎょっとする僕。

 反射的に振り向いて

 白い鱗の蛇が口を開けて

「まぁだだよ」と囁いて

 ――僕は、ぱたりと気を失いました。


 ……その後、友達が神社を探した時に、僕は見つかりました。

 僕は気絶していて、床に転がっていたそうです。僕は体験をそのまま話したんですけど、取り合ってくれませんでした。友達は「暇になって寝てしまい、その時に怖い夢を見た」と笑うだけでした。

 もちろん僕も、そう思いたかったんですけど……一つ、変なことがあるのです。

 僕は靴を脱いで、神社に入ったはずなんです。でも友達が僕を見つけた時、靴をちゃんと履いていたそうなのです。これは最初の事なので、寝ぼけていたとは思えません。じゃあいったい誰が、僕に靴を履かせてくれたんでしょうか?

 あれから僕は、二度と神社の隠れ場所を使うことはありませんでした。ただ、怖いものだ、恐ろしいものだと感じたので、何かにつけて足を運んで、今も良く賽銭やお供えをしています。

 そうして社で手を合わせると……たまにどこからか気配を感じるのですが、確かめる勇気は、僕にはありません。


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