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この作品には 〔ガールズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

愛咬

作者: 佐竹奏

一緒にいて苦しい

(嬉しい)


すごく息苦しい

(楽しい)


誰か教えて

(縋る相手はもうすでに解っていた)










「大翔ー!!」


姦しいのだけれど今日も一日楽しく乗り切れそうな高い声に鼻の下がのびるのを必死に耐えながら相楽(サガラ) 大翔(ヒロト)はゆっくりと振り返った。


声の主は快活明朗な幼なじみ須藤(スドウ) (カエデ)だ。


「おはよう!!今日も寒いね!」


「あァ、おはよう…いやそんなに厚着しておいてまだ寒いのか!?」


「これでも寒いよ!!特に顔が!ああー!コタツを運転出来たらそのまま登校できるのになぁー!」


トホホー!だなんて沈んだ声を出す姿にニヤケない様に唇を噛んだら強すぎたのか切れてしまった。


「…イテッ…」


「唇切れたの!?ほらティッシュあるよ、ハイ!!」


「ふごォっ!!?」勢い良くティッシュを突っ込んできた楓に一瞬抗議しようとしたが態とではなく、血でマフラーが汚れない様にとしてくれたのを察し…口を閉じた。鉄錆の味と水分を含んだティッシュが不快だが…


ペッ…!ペッ…!とティッシュを吐き出し終わったところで楓がずずいとリップクリームを差し出してきた。


「なっ…」


「安心して使ってよ!未使用だから!!それに有名な薬用リップだから大翔でも使い易いパッケージだし!ね!?ちゃんとお手入れしないと…」


「あ、あァ、わかったよ。…ありがとう、楓。」乾燥する季節になるだけでなく、楓の愛らしい姿に表情がだらしなくならないように咬む度唇が裂け出血していた。その度に心配させてきた。舐めておけば平気だ、と楓の華奢な肩を軽くたたいて落ち付かせていたが…今回は態々真新しいリップクリームまで用意してくれたなら有難く使わせて貰うことにした。


ただ1つだけ残念な事がある。使用済みじゃあないのか…と。

そんな事は言葉にも表情にも出せず、早速塗ってみた。

唇の出血が止まり、ホッとしている楓に再度感謝を伝えた後に貰ったリップクリームを鞄にしまった。


その際に俺の心情、楓にいたぐ邪な感情を見抜いた様な…リップクリームのパッケージと視線がぶつかった。







ー授業中…俺はノートをとりながら楓へのリップクリームのお礼に何を渡したら良いのか考えていた。


形に残るのが良いのか、それとも楓の好きな飲食物が良いのか…


楓は小遣いをうまく遣り繰りしながら欲しいものを1つずつ手にしていく。


「(楓の好きな店で何か奢るか…)」残り少ない小遣いでは足りなさそうなので母親に前借りしなければ、と借りる口実も考えていた。




「大翔、部活いってくるね!」


「あァ…行ってらっしゃいー。」楓は製菓部…俺は帰宅部。学校に残っていてもやる事はないので帰ろうとした時、制服の裾を引っ張られた。


「!?」


「あ、あのさ…大翔に、相談したいことがあるから…今日部活の帰りに寄っても良い、かな…?」


「…あァ、良いけど………っ!?」表情で何となく察してしまった。楓の相談事は恋愛相談だと…製菓部へと歩を進め、小さくなっていく楓の背を眺めながらまた唇を噛んでいた。



ガリっ…!!


また不味い鉄錆の味…血が垂れない様にティッシュで拭いた後帰路についた。





ー数時間後…呼び鈴が鳴った。

玄関ドアを開けたら、着膨れしたかわいい楓の姿があった。


「(冬仕様のリスみたいだな…)寒かっただろ、上がれよ。」


「う、ん…お邪魔します!あ、これお茶請け代わりにどうぞ!!」


「おー、気が利くなァ楓は…何飲む?紅茶でもココアでも…何でもいれてやるよ。」


「何でも!?じゃあココアをひとつ…!」


「よし!800円な。」


「はーい…って高いよ!?スタヴァのコーヒーより高いよ!!…うぅ…でも大翔のココア美味しいもんね…払うよ!」


「なっ!冗談だって…早く入れよ、玄関寒いだろ。」楓に仄暗い欲望を悟られないようにかました冗談を本気に取られてしまい本気で焦った。楓は財布を出していたからあのまま止めなかったら800円を差し出してきただろう。


本当に俺が欲しいのは…お前なんだ、楓…




「ほらココア…舌、火傷するなよ。」


「うん、ありがとう!いただきます!!」



「「………」」



暖房器具が作動する音だけが微かにする。

楓はココアで火傷しないようにゆっくり飲んでは緊張感の欠けらも無い穏やかな顔を浮かべている。



「…なァ、楓お前俺に」


「うん?…あ!相談しに来たんだったね!!」


「あァ…」まさかド忘れしていたとは!!楓が切り出すのを待っていたら学校で見せたあの表情…苦しい様な辛い様なでも少し期待したような…劣情をそそる女の顔。


「あの、大翔は………好きな人、いるの…?」


「…あァ、いるよ。」


「え…」


「楓…楓が好きだ。」


「えェ!!」


「そんなに驚かなくても良いだろう!」


「驚くよ!!両思いになれるだなんて…!私は大翔みたいにポジティブ思考じゃないもの… 」


「!?俺がポジティブ思考!?どこがだよ…はァ…いやでも両思いならまァ…その、」


「大翔、幼なじみ兼、恋人として…よろしくお願いします!!!」


「あァ俺の方こそよろしくな…楓…!」




ー後日談ー




「大翔!!早く行こう!!」


「こら、走るとまた転けるぞ…」唇の裂傷の回数は減っていた。

楓の推すリップクリームのお蔭もあるが、緩んだ顔を見せられる仲になれたから唇を咬みやり過ごすことがなくなったからだ。






[完]



愛らしい幼なじみの姿に唇を咬む癖あり男子高校生の話を描きたくて…つい…








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