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後編という名のただの戦闘

 「背徳者の仲間ですね⁉ 神の御名(みな)において! このマイデッセ・アフレリレンが成敗して差し上げまス! さあ! そこになおって首を差し出しなさい!」


 「こ、殺さないでください! わたしは関係者なんだけど無実です! というかっ! アレはわたしのあずかり知らないところで生まれた存在なんですよぉ!」


 「知るかぁっ! 今すぐぶっ殺……ぎゃん!」


 「アタマを冷やしな。なんでもかんでもすぐ喧嘩吹っ掛けてんじゃねえよ。発情期の猫かおめえは」


 後頭部をはたかれたことによって出鼻をくじかれたマイディは恨みがましい視線をスカリーに向けるが、特にそれを気にすることはない。

 スカリーの注意はセシャトのほうに向いているのだ。


 「あの……事情を説明させてくれませんか?」


 「……助かるな。俺もこっちの手が早いシスターも色々と混乱しててな。情報が欲しい。舐めたクソ野郎をぶっ飛ばせる情報なら大歓迎だぜ」


 表面上は平静に。しかしながら警戒を欠かすことなくスカリーは情報を収集することにした。





 「スーパーセシャトはわたしから生まれたんです」


 「悪の元凶! 成ばぎゃん!」

 「話が進まねえからちょっと黙ってろ」


 やや頭が冷えてきたマイディはおとなしくスカリーに従う。

 行儀よく椅子に座るセシャトはビビりながらも再び口を開く。


 「まあ、いろいろと理不尽だと思いますし、理解しがたいと思うんですけど……あの『スーパーセシャト』はわたしのお菓子、というか甘味全体に対する欲求が反映されて具現化したもの、ぐらいに思ってもらうと助かります」


 すでにスカリーの頭は頭痛を訴えようとしていた。

 その隣でマイディは理解を放棄していた。


 「わたし……ちょっと世界を色々と渡り歩いたり歩いていなかったりしているので、その影響からスーパーセシャトもそういう能力を持っているんですよ。だから、この世界には存在していないような技術やら技能やらを持ってまして……」


 セシャトは説明するが、スカリーたちにとっては雲をつかむような話だ。

 世界を渡り歩く存在など聞いたこともない。

 第一、そんな存在がなぜこの無法都市にやってきてるのか。


 疑問は尽きないが、その解答を理解することもできまい。

 スカリーの結論はそういうものであり、ゆえに話は半分ほどで聞き流すことにした。

 

 「……ですから、スーパーセシャトがこれ以上暴れまわらないように捕まえるのに協力してくださいませんか? その代わりに見たこともないお菓子を提供しますから」


 聞き流していたがゆえに、スカリーは反応が遅れた。

 セシャトの提案に対する反応が。


 「お菓子⁉ やりますやります! わたくしは一も二もなく、三も四もなくやりましょう! こっちのスカリーもやりますよ!」


 「た、助かりました。一応、これからスーパーセシャトが表れる場所は見当がついてます! 一緒に来てください」


 「わかりました! 行きますよスカリー!」


 「待ておいこら。俺は一言も協力するとは言って……ぐぇ!」


 襟首(えりくび)をつかまれながら、不参加を表明しようとしたスカリーは無理矢理に引っ張られていくことになってしまった。

 スーパーセシャト捕獲へと。




 「スーパーセシャトの目的はたった一つです。ずばりお菓子。しかもとにかくおいしいモノに目がありません。ということは、この街で一番の食品市場に現れる、というのは当然の推測です」


 「……なるほど。なぜ一番最初にそっちにいったんじゃなくて、わたくしのお菓子に手を出したのかはわかりませんが、姿を現すのならばちょうどいい。この手で直々に成敗してあげます」


 「……おめえ……これ……どうすんだよ……使いもんにならんねえぞ、この服」


 セシャトに先導されてやってきたのは市場。

 しかも露店が集まっている中央広場ではなく、しっかりと店舗を構えている店が中心の通り。


 マイディはやるき満々であり、スカリーはすっかり伸びてしまった服を嘆く。


 「で、セシャトさん。いつ現れますか? あのクソ変態悪趣味女は」


 「……多分、そろそろ……って、あの……あれ一応わたしの一部分なんですけど……」


 「ふ~ふっふふふふふふふ! この街のお菓子の中心はここですねぇ! 見つけましたよぉ! 今から全部いただいて独り占めですからねぇ!」


 「出ましたね諸悪の根源! 最も罪深き原罪人! 大人しくわたくしの山刀の一撃を受けなさい!」


 まるで想定されていたかのようなスーパーセシャトの出現。

 三階建ての建物の屋根に上っているにもかかわらず、その圧倒的な存在感は一際異彩を放つ。具体的言うと、通行人も思わず足を止めて見てしまうほどに。


 「む! そこにいるのはわたしの本体ですねぇ! 助っ人を呼んだみたいですけど、このスーパーセシャトを捕まえることなんてできませんからね!」


 「マイディさん、スカリーさん。……アレ、死なないので思いっきりやってください」


 スーパーセシャトの呼びかけを完全に無視してセシャトは二人に声をかける。

 それは、二人の枷を外す言葉。

 死なないのならば、いくらでもやりようはある。とくにマイディの場合。


 「いいでしょう。わたくし、けっこう本気かもしれませんよ?」

 「あんまりはしゃぐんじゃねえぞ?」


 引き抜かれる山刀(マシェット)と拳銃。 

 両者とも完全に戦闘体勢――いや、殺戮(さつりく)体勢。


 「ふふふふふふっふ! 自由を手に入れたこのスーパーセシャトをどうにかできるものならばやってみたらいいですよぉ! あなたたちも甘味の虜にしてあげます!」

 

 「やってみてください。……ただし、貴方が真っ二つになるほうが先でしょうけどね」

 「やってみろよ。……テメエが音を上げるほどに鉛を食らわせてやるぜ」


 スーパーセシャトと二人の獣の戦いの火蓋は、まさに今切って落とされた。


 

 

 

 銃声(バン)、銃声。銃声、銃声。


 仕掛けたのはスカリー。

 銃の間合いを活かしての攻撃。

 当然、素手のスーパーセシャトにこれを防ぐ手段はない、はずだった。


 「秘技(ひぎ)! マシュマロシールド!」


 出現した巨大な白い塊。それによって、四十四口径の弾丸は防がれる。

 もちろん、普通のマシュマロならば簡単に貫通し、そのままスーパーセシャトは致命傷を受けていたはず。

 だが、マシュマロは普通ではなかった。


 尋常ならざる弾力によって鉛玉をそらす。

 まるで水滴でも弾くかのように。


 「んだと⁉」


 「わたくしに! おまかせですよ!」


 建物の上にいる相手にどうやって接近するのか? 

 マイディが出した答えは至極単純だった。


 すなわち、壁を登る。

 言うは(やす)し。

 しかしながら、実行するような者はいない。

 だがしかし、試みるのはマイデッセ・アフレリレン。黒の尼僧服はあっというまに壁を蹴りつつスーパーセシャトの立つ屋上へと到達した。


 「くたばれぇ!」


 「妙技! 生クリームボンバー!」


 突き出されたスーパーセシャトの腕から鉄砲水のような勢いで生クリームが吹きだす。

 圧倒的なその質量と勢いは飛び掛かってきたマイディを簡単に押し返す。


 「……妙な技を!」


 「わたしには勝てないんですよぉ。だって、『スーパー』なんですから!」


 意味のわからない持論を展開するスーパーセシャト。

 だが、そんなことについて問答するようなマイディではない。


 まとわりつく生クリームをものともせず、更に素早く、更に鋭く、動く。

 

 地を這うような低い姿勢からの突き上げ――から変化して後ろに回り込み足を払う。

 およそ人間とは思えないような無茶苦茶な動きに流石のスーパーセシャトも一瞬その姿を見失い、攻撃を受ける。


 足を払われれば当然立っていることは不可能。

 体勢を崩し、一瞬だけ体が宙に浮く。

 マイディにはとって、それは致命的なほどの隙なのだ。


 回転。

 

 足を払った動きのまま、山刀がスーパーセシャトの頭を襲う。

 勢いは骨ごと切り落とすほど。

 ましてや文字通り地に足がついていない状態では(かわ)しようがない。


 「死ねぇ!」


 「絶技(ぜつぎ)! チョコレートアーマー!」


 必殺の威力で放たれたマイディの一撃はスーパーセシャトを確かに捕らえた。

 だというのに、返ってきた感触は肉を裂くものでもなく、骨を砕くものでもなく、鋼鉄でも切りつけたかのような固い感触。


 「危ない危ない。ちょっとだけひやっとしましたよぉ」


 チョコレートがスーパーセシャトの顔を覆っていた。

 まるで仮面か何かのように。

 無骨な山刀の一撃を受け止めたチョコレートの装甲は厚さにしてみたら三ミリもないだろう。だというのに、マイディの一撃に耐えていた。


 「チッ!」


 「おっと! 生クリームボンバー!」


 追撃は受けないとばかりに再びの生クリームの奔流(ほんりゅう)によってマイディは押し返される。

 

 すでに屋上は生クリームまみれの状態。

 当然、足場が不安定になり始めているのだが、スーパーセシャトはしれっとした顔で浮遊していた。

 

 反対に、飛行手段など持たないマイディの機動力は大分落ちている。

 脂肪分をふんだんに含む生クリームがやたらにまとわりついてきているからだ。


 靴裏から伝わるぬめぬめとした感触が、油断すれば一瞬でバランスを崩すことを律義に教えてくれている。


 「ふっふふふふ~。そろそろわかったんじゃないですか? わたしには勝てませんよぉ。このまま逃げるなら勘弁してあげます。わたしは早く甘味を集めないといけませんからね。無駄な戦いなんてことはしたくないんですよ、本当は。わたしはとても優しいですからおめおめと逃げ出すのならば勘弁してあげてもいいですよ?」


 勝ち誇った顔のスーパーセシャト。見本にしたいほどの得意げな顔。

 もちろん、そんなものを晒されてマイディが平気なはずがない。


 「何を寝言ほざいているんですか。まだまだ……まだまだまだまだこれからですよ。知ってますか? 確実に相手の頭をたたき割るまで勝ち誇るには早いんですよ」


 山刀を、構える。

 必殺の二振り。これまで数多(あまた)の命を吸ってきた相棒を。

 

 その様子を見て、スーパーセシャトは嘆息する。


 「わかってないみたいですねぇ……ならばわからせてあげすよぉう。超技、ハニー・コーティング・バトン!」


 宣言とともに、スーパーセシャトの手に棒状の物体が出現する。

 まるで棒切れのような見た目なのだが、奇妙なのは持ち手以外の部分に黄金色のどろりとした液体がまとわりついていること。

 

 「ふっふっふ~。このバトンはどんな物質よりも固いんですよぉ! しかも、殴られてしまったら至上の幸福感に包まれて気絶してしまうという素敵な効果付き! ……幸せの夢の中で眠っていてくださいね」


 おそらくは本当だろうとマイディは考える。

 これまでの奇妙な術の数々。それを鑑みても、目の前の女がそういった類の珍品を持ち合わせていてもなんらおかしくはない。むしろ自然な帰結である。

 

 だが。

 

 「だからなんですか? 威力が高い? すごい効果? 絶対の強度? ……そういうのはですね、発揮してから自慢してください。空振りに終わったらただの趣味の悪い棒切れ。そんなものよりもよっぽど恐ろしいモノをわたくしは知っていますよ」


 「ほほぉう。自信満々ですねぇ。じゃあ教えてもらいたいですね~ソレ」


 マイディは答えない。

 いや、言葉で答える代わりに山刀を投擲(とうてき)した。

 

 「⁉」


 結果として、山刀はスーパーセシャトには命中しなかった。

 もともと狙っていないのだから当然だ。

 代わりに、その足元に深々とつき立つ。


 「……なんですか、これ? どこが怖いんですかぁ?」


 ただのこけおどしだと、最後の抵抗にもなっていない抵抗だと判断したスーパーセシャトはマイディにとどめを刺すため一歩踏み出した。

 

 銃声銃声銃声。


 ハニー・コーティング・バトン。それを持った右手に真下から放たれた三発の弾丸の内の一発が直撃する。

 

 「()ったぁあ!」


 好機。これ以上ないほどの好機。そうマイディは判断した。


 取り落したバトンを拾う間を与えないために、全速力で駆ける。

 ある種、それは狩りを行う肉食獣を思わせるほどの速度だ。


 当然、ただ討たれるスーパーセシャトではない。


 「くっ! マシュマロシールド!」

 「スカリー! 剣弾(ソードバレット)!」


 銃声。

 

 真下から再び放たれた銃弾。

 今度はスーパーセシャトではなく、突如として出現した巨大マシュマロにめり込む。

 怒声が、響く。男の声が。


 「剣弾、スラッシュっ!」


 ぎょう、という聞いたことのない音がした。

 

 それが、想像の埒外(らちがい)の弾力と耐久性を持つマシュマロシールドが『切断』されてしまった音だということをスーパーセシャトは信じられなかった。

 浮遊する力さえも失った巨大なマシュマロはゆっくりと落ちる。

 その後ろにはすでにマイディが迫っている。

 

 「チョコレートアーマー!」


 ぎりぎり。ぎりぎりで展開は間に合った。

 マイディの手に残った山刀は一振り。その一撃はまだやってきていない。

 ほんの刹那早かったのならば、必殺の一撃はスーパーセシャトの額を捕らえていたことだろう。

 だが、それはもはや叶わない。

 

 絶対の防御を突破する手段をマイディは持ち合わせていないから。


 山刀がチョコレートの装甲に弾かれる。

 当然の結果。

 そして、マイディにとっては想定の結果。


 回転。

  

 すさまじい速度で尼僧服が回転する。

 

 (もう一回ですかぁ? でも無駄ですよぉ!)


 物理攻撃など通さない。

 それは事実。

 しかし、もう一つの事実があった。


 マイディのもう片方の手。

 山刀を握っていなかったそちらには、さきほどスーパーセシャトの手から(こぼ)れ落ちたハニー・コーティング・バトンが握られていた。


 絶対の矛。

 対して、絶対の盾。

 

 (…………え?)


 今回の矛盾は、双方の破壊という結果に終わった。


 

 

 

 「…………ったく……この、アホ女! ここまでてこずるのは予想してませんでしたよ」

 

 「……それでもやっちまうんだからな、おめえは」


 下から援護射撃を行ったスカリーもすでに屋上に上がってきていた。

 そして、二人の戦いの行く末を見守っていたセシャトも。

 一方、スーパーセシャトは幸せそうな顔で気絶していた。


 「で? このアバズレはどうしたらいいんだ? 下手にぶっ殺してもまずそうなんだが」

 

 「ここまで弱っているのならどうにかできます。任せてください」


 スカリーの問いに応えながらセシャトは一歩前に出る。

 その手には一枚の白紙のカード。

 

 無言のままにそれを掲げると、気絶したままのスーパーセシャトが光の粒子になって吸い込まれていった。


 ほう、と安堵のため息が漏れる。

 三人のうちの誰かだったのかもしれないし、全員かもしれなかった。


 「……これで、終わりです。お二人には迷惑をおかけしてしまいました。お礼はきちんとさせてもらいます」


 「わたくしは甘いモノで!」


 「はい、喜んで」

 

 にっこりと、セシャトは微笑む。





 「う~ん美味! これは一体なんというお菓子なんですか? わたくし、それなりに色々食べてきたつもりなんですけど、これは初めてですね! 柔らかな皮が餡を包み込んで――――とろけるようですっ!」


 「『どら焼き』といいます。他にもいろいろありますから、遠慮せずにどうぞ」


 「ひゃっほう! ここが楽園でしたか!」


 見たことも聞いたこともない菓子にマイディは舌鼓を打ちっぱなしだった。

 バスコルディア教会礼拝堂。

 スーパーセシャト捕縛の祝勝会のようなものである。


 しかし、いるのはセシャトとマイディの二人だけ。

 スカリーは甘いモノになど興味がないと言って一足先に姿を消していた。


 「まったくもう! スカリーといい司祭様といい! こんなにおいしいものを食べる機会をみすみす逃すだなんて損な人たちです! まさにこれこそが“神“の御恵みでしょうに!」


 「……そ、そうですねぇ」


 なぜか曖昧(あいまい)な表情でセシャトは同意した。


 



 「ではまた会いましょう! 今度はもっと珍しいお菓子をください!」


 「はい、また会うことがあったのなら」


 ぶんぶんと手を振るマイディに別れを告げ、セシャトは教会を後にする。

 しばらく景色を眺めるようにして歩いていくが、ふらりとその足は狭い路地へと向かう。


 薄暗い路地。

 通りからは見えなくなってから足を止め、胸元から金色の鍵を取りだす。

 

 「妙な動きをするな」


 聞いたことのある声は頭上からした。

 直後、セシャトの背後に何かが着地する音。

 

 「……能天気なマイディはごまかせても、俺はそうはいかねえ。どうにも細かいことが気になる性質(たち)でな。……アンタ何者だ?」


 かちりという撃鉄が起こされる音。

 いつでも弾丸は銃口から飛び出し、セシャトを撃つことができる。

 その滑らかな肌に、凶悪な威力を食らわせることができる。

 

 だというのに、セシャトに焦りは見られなかった。


 「……わたしは、皆さんに教えているんです。数多に存在する――いえ、誕生し続けている世界を。そんな世界を巡って、知って、紹介して、楽しんでもらったり、悲しんでもらったり、喜んでもらったり――――また生んでもらったり」

 

 「答えになってねえな。そういうことじゃねえ。禅問答は知り合いと飽きるほどやってるんでな。核心からいこうじゃねえか。次もそんな調子だと……悪いが始末させてもらう」


 スカリーの声音に黒いモノが混じる。

 殺人の意思。

 この無法の都市にはあふれている意思。

 

 だというのに、セシャトは微笑みながらゆっくりと振り返った。

 

 銃声。

 

 躊躇(ちゅうちょ)なく放たれた四十四口径の弾丸は、命中することなく路地の奥へと消えていった。


 「んだとっ⁉」


 「ごめんなさいスカハリーさん。もうわたしは行かないといけないんです。もっと色々お話もしてみたかったんですけど、ごめんなさい」


 深々と腰を折って頭を下げるセシャト。

 その様子と、銃弾が通り抜けたという事実によって、スカリーはどう対応したものかがわからない。

 たとえ剣弾を使ったとしても、今のセシャトをどうこうできる確信がなかった。


 「もし、(えん)があったらまたお会いしましょう。今度は迷惑をかけてしまったお礼も兼ねて。その時にはもっとたくさん――たくさんお話ししましょうね」


 「……冗談きついぜ。俺はおしゃべりは苦手なんだ。マイディとやってな」


 悪態をつくスカリーにおかしそうな視線を送るセシャトの姿はほとんど消えかかっていた。

 さながら、陽炎(かげろう)のように。


 「ああ、そうだ。最後にいいですか?」


 「……勝手にしな。俺にはどうしようもねえ」


 「ふふっ……もし、この先……女の子に助けを求められたのなら、その子を助けてあげてくださいね。きっとそこから始まりますから」


 何がだ、というスカリーの反射的な問いに答える存在はすでに消え去っていた。

 

 「……何だったんだ? 幻? にしてはちょいと現実感がありすぎるぜ」


 ぼつりと力なく。

 賞金稼ぎは呟いた。

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