有能? 勇者のセンサー
こんばんわ
とりあえず、どんどん進めていっています
「そういや、お前。ほとんど魔法の練習時間が出来てないよな」
「ええ。さすがに、あの子の前では出来ませんよ」
俺達の目の前で本を読んでいる、藍白可憐には聞こえないように話をする。
「む? 何か用か?」
「いやな、お前よくここの本を読んでるなと思ってな」
「うむ。この世界の書物には、私の知りえない魔術が書かれている故な」
可憐が読んでいるのは、西洋魔術の本。中二病必須のアイテムなのだろう。ちなみに、英語ではなく、日本語で書かれている。
「そういえば、この世界にも魔術は存在したようだよね。どんなものなんだい?」
そういえば、俺がこの世界の魔術に興味が無いということもあり、雨に話したことがなかったか。雨は疑問に思ったらしく、可憐に問う。
「……神秘だな」
可憐は目をそらす。
「分かってないだろ、お前」
「魔術、呪術とも呼ばれるものですね。いくつか種類はありますが、有名なものとして、類感呪術と感染呪術があります。例としては、雨乞いが類感呪術、藁人形に杭を打ち込むのが感染呪術の例です。一般的に、呪いという面で知られているのは後者ですね」
可憐の代わりに神崎が教師でもあるかのように、淡々と答える。
「それならテレビで見たことがあるよ。あれは恐ろしいね」
雨は身震いする。確かに、怖い話ではよくあるものである。
「ちなみに、呪術は医療としても機能していたみたいですよ。民間医療などにもその痕がみられます。温泉治療なども経験的な医療効果が信じられヨーロッパや日本などでも利用され、特定の信仰と結びつき呪術的要素を持っているものもあります。特に日本においては、[詣で]と宿場と温泉地が結びつき、湯治はもちろん宿泊や入湯も禊や払いであったと言われています」
「へぇ、この世界の魔術というのは、多様なんだね」
雨は感心したように言う。
魔術、ね……
「どうしたんだい、涼也」
「いや、なんでもない」
俺はこの世界の魔術については否定的である。だが、そんなことを言えばこの場の雰囲気が悪くなってしまう。自分の考えを人に押し付けるほど、俺は愚かではない。
「む? ドーナツが残っているではないか!」
「それは俺のだ」
身を乗り出し、ドーナツに手を伸びしてくるふととき者の頭に軽くチョップを入れる。
「あうぅ……痛いです、先輩……」
可憐は涙目で頭を抑えている。こういう時だけ素に戻るんだよな、こいつ。
「しるか、俺からドーナツを奪おうとするのが悪い」
「あはは……涼也は昔から甘いものが好きだよね」
「甘いものは至高だからな。食べたものを幸せにする。それこそ、魔法だよ」
そういって、俺はドーナツをくちにする。
実際は脳からセロトニンが分泌されるからなのだが、もう魔法でいいだろう。幸せだし。
「ていうか、可憐。お前今日お使いあるとか言ってなかったか? まだ時間は大丈夫なのか?」
今日ここに来る前、そんなことを言っていた気がする。
「あっ!? そうでした……完全に忘れてました……うむ、では私はこれで失礼しよう」
ちょくちょく言葉遣いが変わる後輩は荷物をまとめ、そそくさと倉庫を出ていった。
「ところで、二人とも。耳に入れておきたいことがある」
可憐が出て言ってすぐ、雨の表情がかわる。その表情から、転生者関連のものでは無いとわかる。となると――
「魔物関連か?」
「うん、そうだね。ここから、遠くないところに魔物の気配を感じたよ。行ってみようと思うんだけど、2人はどうする?」
どうする、と言われても困るものはある。しかし、こいつは放っておくと1人で魔物のもとに向かうだろう。怪我するかもしれないという状況で、1人送り出すという選択肢はない。
「俺も行く。神崎は残ってろ」
さすがに、一般人の神崎を連れていく訳にも行かない。
「なんでですか!?」
自分もついて行く気だったのか、神崎はキョトンとする。少し素が出ているぞ……
「危険かもしれないから、だ」
実際のところは、かもしれないではない。危険なはずだ。そんな所に連れていって、神崎を守れる余裕があるだろうか。
「それを言ったら、涼也さんだってそうじゃないですか」
それは当然の疑問である。俺だって一般ピーポーだ。
「心配すんな。俺はこいつと同じくらいには戦える」
俺だって伊達に雨とつるんでいる訳では無い。幼い時から、雨に剣術を教えて貰っているため、その辺のチンピラや有段者よりも戦えるという自負はある。
「え……」
勇者と並んで戦えるという俺の発言に目を広げる神崎。俺と雨を交互に見る。
「本当のことです。涼也は昔からやんちゃだったよね」
これが、やんちゃで済むのかどうかは分からないのだが、やってきて良かったとは思う。
「そういうこった。木刀かなにか貸してもらいたいんだが……あの模造刀を借りてもいいか?」
雨について行くにしても、徒手では足でまといになるだけだろう。せめて武器が欲しかった。幸い、この倉庫には武器になりそうなものが沢山飾ってある。1つくらい借りても良さそうである。
「なっ!? あれは、世界に一つだけの、聖剣デュランダルのレプリカですよ!? 確か、木刀があるはずなのでお持ちします」
一瞬で拒否されました。しかし、木刀もあるのか。なんでもあるな、この倉庫……
神崎は木刀を探しに、倉庫の奥に入っていく。
「さっきの話。涼也は気に入らなかったのかい?」
神崎が見えなくなったところで、雨が話しかけてくる。
「さっきの話? なんのことだ?」
「この世界の魔術のことだよ」
なるほど。さすがは幼なじみと言ったところだろう。
「ああ、そうだな。この世に怪奇現象なんて存在しない。つまり、魔術は存在しないと思ってる。例えば呪いだ。誰かが杭を打った転んだんじゃなくて、初めからそうなる運命があったのだ。杭なんて打たなくても、そいつは転んだだろうさ。人間は不幸っていうのを何かのせいにしたがる。自分のせいじゃなくて、運がなかった、呪われたからって。だけど、実際は足元を見ていなかった自分が悪かったりするんだよ」
思っていたことを口にする。雨に対しては隠す必要も無いだろう。
「本当に涼也はリアリストだね。だけど、一理ある。つまり、思い込みが呪いという実在しないものを作る、と。だけど、僕の魔法は信じたよね」
「それに関しては信じざるを得んかったならな。お前が魔法を使えていなかったら信じていなかったさ。転生云々もな」
見てしまったものは、否定することは出来ない。確かに、ないものを証明するというこは、難しい。悪魔の証明である。魔法というものがない、という根拠はない。つまり、魔法はある。こんなくだらない証明は信じていない。だが、あるものを証明するするのは簡単だ。それを提示すればいい。魔法を提示された俺は、魔法という存在を認めるほかなかったのだ。
「それは、魔法に感謝だね」
雨は笑う。確かに、雨が魔法というものを使えていなかったら、俺はこいつを転生者だとは思っていなかっただろう。
「お待たせしました」
そうこうしていると、2本の木刀を持った神崎が、それを俺たちに渡す。
「お気をつけて。私はここで待機をしています」
「帰っててもいいんだぞ?」
倉庫の鍵は持っている。別に待っている必要も無いだろう。
「お二人が心配なんです。無事な姿を見せてください」
「承知しました」
なるほど。役に入りきっているわけだ。
倉庫を出て、雨の後ろを歩く。
「んで、何処にいるんだよ?」
「学校の裏山の麓あたりかな。どうも、複数いるっぽい」
「複数、ね。とりあえず、行ってみるか」
雨でもたまにしか見つけることの無い魔物が複数いるというのは些か疑問である。どんな状況かは行ってみないとわからない。あまり、厄介でなければいいのだが……
そんなこんなで、学校の裏山のふもとに到着後。隠れられる場所から、魔物を観察する。
「オオカミと……小人かあれ……?」
「ワーウルフにゴブリンだね。他にもいるようだ。やれそうかい?」
木刀を強く握り、今にも飛び出しそうな雨。
「まてまて、情報も無しに突っ込ませようとすんな。俺が死ぬ。弱点やら教えろ」
それを、どうにか抑止する。さすがに、敵の情報が見た目だけというのは愚かすぎる。
「」弱点かい? まず、ワーウルフの弱点は――」
少しだけ、魔物講座が幕を開けたのであった。
「ざっとこんなもんか」
戦闘終了。とくに、怪我もなく終わることが出来た。倒した魔物は空気に溶けるかのように、消えていったため、倒したという証拠になるようなものがないのが少し残念なところではある。
「すごいな、涼也は」
雨は感嘆したように言う。
「気合いだ、気合い。それに、そんな強いものでもなかっただろ?」
実感、大したことは無かった。事前知識も、雨のカバーもあったし、あんなのに遅れをとるつもりは無い。
「それはそうなんだけど、あの魔物は駆け出しの冒険者だと、やられることがあるくらいには危険なはずなんだけど……」
「なるほどな。ギルドってのは冒険者の教育もできてないのか」
知識というのは重要なものである。敵を知り己を知ればなんちゃら、という言葉もあるように、敵も自分のことも知ることが出来なければ勝つことは出来ない。それなのに勝とうというのは、怠惰である。
「基本的に、冒険者には教育なんてないからね。学ぶより慣れろって場面が多かったよ」
「それで、最低限の知識もなくお陀仏か。笑えねぇな」
本当にバカバカしい。学ぶより慣れろっていうのは、10をしっかり学んだ上で慣れろと言うものであると俺は思っている。基礎あっての応用だ。基礎が出来ない奴に、それ以上のことは出来ないだろう。
「そうだね……」
「しかし、なんでまたこんなところに魔物が屯していたんだか」
「確かに……こんな人目につきやすそうなところに魔物がいるというのは不自然だね」
「だろ。ここは麓だ。何かある訳でも無い。いるなら山の中だろ。遠足ってわけじゃないだろうし、山に強い魔物が出たから、それまで住んでいた魔物が逃げてきた、とか?」
「それが妥当なところだと思う。ただ、魔物の気配は感じないんだよね……とりあえぶ、覗いて、やれそうならやる。無理なら逃げる。そんな所でどうだろう?」
さっきのは、木刀でどうにかなったが、それ以上となると危険だろう。
「賛成だ。あれより強いとなると、少し考えた方が良さそうだ。判断は任せる」
「分かった。何があるかわからないし、認識阻害魔法を使っておこう」
なんか、初めて聞いた単語が聞こえた。なにその便利そうな魔法。
「認識阻害魔法? 魔法は使えないんじゃなかったのか?」
「攻撃魔法はあまり使えないんだけど、こういう系の魔法はある程度までなら使えるらしいんだ」
「なるほどな。それは、初めから使っておいて欲しかったけど、まあいいか。頼むわ」
そういうのは、初めから言って欲しかった。こいつはあれか? 聞かれかかったからな、とかいうタイプなのか? 違うのは知ってるけどさ!
そして、山中。雨のレーダーが役に立たないため、手探りで探す羽目になっていたのだが、雨の歩みが止まった。
「そんな……バカな……」
そして、震えていた。
「あれは――ムグ」
咄嗟に俺の口を手で抑える雨。
そこに居たのは、でっかいオオカミでした。
普通車くらいの大きさはあるぞ……何食ったらあんなでかくなるんだよ……
「静かに。とりあえず、逃げるよ」
俺は頷き、2人で山を静かに降りていったのであった。
「おい、あれはそんなやばいのか? 確かにでかかったけど」
帰路。あのオオカミについて聞いてみる。
「やばいなんてものじゃないよ。あれは、フローズヴィトニル。こちらの世界ていうところのフェンリルだよ」
フェンリルというのは、ゲームで名前くらいしか聞いたことがないためよく分からない。
「イマイチわからんが、ヤバいって認識でいいんだな」
「まぁ、うん。とりあえずはそれでいいかな……」
雨は苦笑する。
「しかし、なんであのオオカミのことは察知できなかったんだ?」
「うん。あれは、魔物と言うよりも神獣だからね」
うん。よくわからん。察知できるのは魔物だけであり、あのオオカミはその部類に入るではなかったということでいいのだろうか。
「それで? どうするつもりだ?」
「ううん……正直に言うと、あれは全盛期の僕にも討伐は難しいと思う……」
勇者にも討伐は不可能ときた。これ、もう世界が滅びるんじゃないんですかね?
「それなら、手出しは難しいか……」
「無視するのかい?」
雨は不満そうに言う。元勇者というだけあって、捨ておくことは出来ないのだろう。
「さすがに無視はできんだろ。どうにかしようにも、手立てがない。幸い、まだ実質的な被害は出ていない。近いうちに出るかもしれんが、それまでに対策を考えるしかないだろ」
「それしか方法はなさそうだね……」
雨は納得がいっていないようだが、今は抑えてもらうしかない。何か方法を見つけ次第動く他ないだろう。
「とりあえず、神崎に報告だな」
倉庫に戻り、事の顛末を神崎に話して、今日は解散となったのであった。
~おまけ〜その後の涼也と神崎の会話
「神崎はフェンリルって知ってるのか?」
「知らないんですか? フェンリルですよ、フェンリル!」
「知らねーよ。で、何なんだよ」
「フェンリルは、北欧神話に登場する狼の姿をした巨大な怪物です。神々に災いをもたらすと予言され、ラグナロクでは最高神オーディンと対峙して彼を飲み込んだとされています」
「にしても、あのワンコロがねぇ……」
「ワンコロって……」
「いやぁ、知識がないって怖いな。ほんと」
「……?」
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如何だったでしょう? 展開が早すぎィ……な気もしますが、気にしない!! 書き終わるの目標ですから!!
もう結構伏線もまいてますから、早く回収したい……
多分だいぶ先になるでしょうけどね……
ちなみに、戦闘シーン? ナニソレオイシイノ? 状態ですので、本当に大切な戦闘シーンしか書く予定は、ないです。
ていう訳で、感想等をいつでもお待ちしています!
結構自分勝手書いているので、批判もあるでしょう。じゃんじゃん書いちゃって構いませぬ