転生者はすぐそばに?
投稿が遅くなり申し訳ない……
忘れてたなんていえない……
雨の魔法講座が始まり、数日。神崎には魔法適性があったらしく、簡単な魔法なら使えるようになっていた。
「しかし、お前も熱心だな。そんな魔法、使えても仕方ないだろうに。マジシャンにでもなるつもりか?」
例の倉庫で神崎は魔法の訓練に明け暮れている。雨は用事があるとかなんとかで、まだ倉庫には来ていない。
「そんなつもりは無いですよ。ただ、カッコイイじゃないですか!」
神崎の目はいつになく、キラキラしていた。
中二病の原動力。カッコイイから。それは、俺には理解のできないものであった。
「カッコイイから、ねぇ……しかし、本当に使えるようになるとは思わなかったな」
もともと、前の世界で魔法が使えていて、魔法適性もあるにもかかわらず、魔法の行使が分からないということで、一悶着あったようだが、どうにか誤魔化せたらしい。
「慣れてみれば簡単ですよ? 魔法陣の術式なんかは、意味のわからないところもありますが……」
「お前、魔法陣の術式なんかも調べたのかよ……」
普通、そこまでするか……?
「はい。よくあるじゃないですか。魔法は魔方陣や呪文の構成が意味を持っていて、それを知ることでより深く魔法を知れるって」
「お、おう……ソウダナ……」
この情熱をほかのところに持っていくことは出来ないのだろうか。
「それに、オリジナル魔法とか出来たらかっこいい!!」
さすがは中二病。やっぱりそこに辿り着くんだな。
「ただ、やっぱり術式についてはわからないところが多すぎるんですよね。言語は英語に似たようなものなんですけど、存在しない単語が多すぎて……」
やはり、術式は異世界のもの。いくら、言語が英語に似ているとはいえ、分からないものも多いのだろう。
「ん? お前、英語できたのか?」
「はい。家の都合で海外によく出ることがありましたから、日常会話程度ですが英語はできます」
さすがはお嬢様といったところだろう。なぜ、そんなお嬢様が中二病という重篤な病に犯されたのかというのは不思議である。
「なるほどな、テストの時とか便利そうだ。しっかし、雨のやつ遅いな」
俺と神崎が倉庫についてから時計の針は一周してしまっている。来れないとは言っていなかったから、来るとは思うのだが、なかなか来ない。
「学校のテストは文法がしっかりしているので、あまり使えませんよ? そういえば、雨さんの用事ってなんだったんですか?」
「ん、ああ。なんでも、少し気になることがあるから調べてくるって言っていたな。詳しいことは聞いていないけどな」
別段、危ないことをする訳でもなさそうだったため、直ぐに理由は聞かなかった。家庭の事情とかもあるだろうからな。
「気になること、ですか。転生者関連のことでしょうか?」
「さあ。そこまでは分からないきたら教えてもらえばいいだろ」
「それもそうですね」
それから、しばらくして、雨が倉庫に入ってきた。それも、扉を勢いよく開けて。いつもは静かに入ってくるのに、どうしたのかと思い、俺と神崎は雨を見る。
「姫、涼也。転生者がいるかもしれない。それも、うちの学校に」
その言葉は俺と神崎を驚かせるには十分すぎた。
「転生者が? どんなやつなんだ?」
これは大収穫だ。身近に転生者がいる可能性はほぼゼロだと見ていたが、こんな近くにいるとは思ってもみなかったし、こんなにも早く見つかるとは思わなかった。
「ああ、まだ会って話してはいないから情報だけなんだけど、名前は藍白可憐。1年生だね。右目に眼帯、左手に包帯をしていて、持っている力を押さえつけているらしい。なんでも、ダークウィングという悪の組織と戦っているらしいんだけど、その悪の組織が魔物に関係しているんじゃないかと思うんだ」
途端に頭が痛くなった。期待した俺が馬鹿だったというのか。なんだ、その中二病は。しかも、相当重傷ときたものだ。
「いや、雨よ……多分それは無視していい」
これは、関わってはダメなやつだ。魔物に繋がっているどころか、闇に繋がってしまっている。それはダメだ。自分から地雷を踏みに行く必要性は皆無だ。
「あれ、涼也は賛成すると思ってたんだけどね。どうしてか、理由を聞いてもいいかい?」
「いやな、俺が思うにそいつ――「会いましょう!!」……」
中二病だぞ。と言おうとしたところで、神崎に遮られてしまう。なんか、神崎の目、すごいキラキラしている気がするのは気の所為だろうか。
「お、おい、神崎。どういうつもりだ?」
俺は神崎に耳打ちする。
「どうもこうもないですよ! 仲間が……仲間がいるんですよぉ!! 引き入れない訳には行かないでしょ!!」
理由が不順すぎるんだが……
「いや、お前。どう考えても中二病の一般ピーポーだぞ。さすがに巻き込む訳には行かないだろ」
これが、ただの部活であるならば、引き入れるのには反対しなかっただろう。しかし、俺達は魔物やほかの転生者と敵対する可能性もある。そうなった場合、身の安全を保証することは難しくなってしまうのだ。
「うう……そうですね……でしたら、表面上だけでも!!」
なんとしても、その藍白という人物と中二ごっこがやりたいらしい。
「……どうなっても知らんからな」
「二人共、どうかしたのですか?」
俺と神崎のやり取りを不審に思ったのか、雨から声が掛かる。
「い、いえ、気にしないでください。とりあえず、明日、藍白可憐さんにお会いしてみましょう」
本当に、どうしてこうなった。
翌日の放課後、その藍白可憐を探すこととなった。というか、すぐ見つかった。眼帯と包帯をしている人間は相当目立つ。
「藍白さん。少しいいかな?」
「お前達か。私を嗅ぎ回っていた連中というのは。ここではなんだ。ついてこい」
踵を返した藍白についていく。
階段を昇り、屋上への扉を開けたところで、強い風が入ってくる。
「うむ。今日は風が騒がしいと思ってはいたが、こういう事だったとはな」
どういうことでしょう? 聞いたらややこしいことになると、俺の勘が働きかけているため触れないようにする。
さて、向こうに任せておくと、埒が明かない気がするため、先手を打つことにした。
「それじゃ、藍白だっけ。自己紹介といこう。俺は2年の風鳴だ。こっちは鈴童と神崎」
交渉役は俺と神崎だ。雨だとボロを出しかねない。やりたくはないが、やらせるよりはマシだろう。2人にはなるべく、転生者や魔物に関する話はしないように口止めしてある。
「ふむ、私は藍白可憐。堕天使ルシファーの生まれ変わりにして、この世の秩序を守るものだ」
かっこよく決めポーズを決める藍白。しかし、堕天使の生まれ変わりと来たか。これは、想像以上である。
「堕天使だって……? 何故堕ちた天使が秩序なんかを守っているんだい?」
突っ込むところはそこなのか、雨よ……
「知れたこと。秩序を守るのに、天使も堕天使も関係ない」
いかにも、なことを言っているが、秩序を守らなかったから堕天したんだろうが……
なんで、雨は納得してるんだよ。そして、神崎はすごい目を煌めかせている。
「さて、小手調べといこうじゃないか。場合によってはこの封印、解かざるを得ないだろう」
藍白は包帯を解こうとする。この藍白可憐という人間、実にノリノリである。見ていて面白いものがある。
「待ってください。僕達は敵対するつもりはありません。それに、堕ちたとは言え、天使の力は強力なはず。こんな所で解放したとなれば、被害は免れません」
焦ったような口ぶりで雨が言う。確かに本物ならば、被害は甚大なものになるだろうが、相手は一般人だ。封印(笑)を解いたところで、なんの被害も出ないだろう。
「ふむ、分かっているではないか。では、率直に問う。貴様らは私の敵か、味方か?」
これで続けるようならゲンコの1発でも御見舞してやろうかと思っていたら、話し合いをしようとしているため、自重しておくとしよう。
ていうか、どう返すのが正解なんだ? 正解がわからない。
「生憎、俺は一般人でな。敵でも味方でもないさ。詳しくは、お姫様にでも聞いてくれ」
「なるほどな。しかし、貴様からは邪気を感じたのだが、気のせいだったか。しかし、姫だと? どういうことか、説明してもらおうか」
冗談でもよして欲しい。そっちの仲間入りをする気は全くない。とりあえず、神崎にバトンタッチだ。
「では、私が説明をします。私は前世、一国の姫をやっていました。こちら、雨さんは、元勇者です」
「クク……よもや転生者が他にもいるとはな」
藍白は不敵に笑う。
「そして、私達はある組織を追っています」
「もしや……」
神崎の発言に、藍白はハッとする。表情がコロコロ変わるので、見ていて面白い。女優にでもなれるんじゃないか?
「はい。ダークウィングです」
「私以外にもあの組織を追っている者がいるとはな……」
それから、中二病全開の会話が続いたのであった。話の内容は、1割も理解できなかったのは言うまでもないだろう。とりあえず言えることは、藍白可憐を引き入れるための口実だという事だ。神崎は何気に楽しんでいるようであった。
「――という訳です。お手伝い願えないでしょうか」
「ふむ、よかろう。して、その基地とやらの場所は何処にある?」
どうやら、仲間に引入れることには成功したらしい。これが、良かったのか悪かったのかは分からないが、それはこれから分かることだろう。
「それは、また明日にしましょう。遅くなってしまいましたから。それと、今話したことは機密事項としてください。私たちとあなたがつがっている事をバラしたくはないので」
組織にじゃなくて、学校の生徒にバレたくなだけだろうが……
「ふむ。善処しよう」
ということで、今日のところはお開きになった。